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054 男同士は気持ち悪い?:R

 昇降口を出てすぐ、屋台の賑わいを横目に校庭へ。 「会長は早瀬さんかな」  人気のないグラウンドを横切りながら、岡部が言った。 「うん。きっとダントツで。1年にも人気?」 「はい。その……ガツガツしないで、やさしくしてくれそうって……特にソッチ系のヤツらに」  あー、將悟(そうご)はタチも出来るもんね。年下から見れば、かわいいっていうより……男くさくないキレイな先輩か。  実際は、杉原専用のネコになっちゃったけど。 「將悟、彼氏いるよ」 「知ってます。杉原さん。あの人……ちょっと怖いですよね、見た目が」 「中身も、かな。將悟にチョッカイ出す男に対しては。僕はああいうの好みだけど」 「高畑さんは、川北さんと……って聞きました」 「そう、紫道(しのみち)。最近つき合い始めたの。かわいいでしょ」  微妙な顔で、岡部が曖昧に頷いた。  紫道は杉原並みにゴツめの外見だから。  あのかわいさは、僕にしかわからないか。 「先輩もクラスのヤツらも……この学校、男もオッケーってヤツばっかりで……だけど、俺はムリです」  気マズそうに、岡部が僕を見る。 「男を好きになるなんて、考えられない」 「別にいいじゃん。ムリしなくても」 「……翔太(しょうた)が、男が好きだって言い出して……今日、告るみたいで」 「生徒会に立候補してる津田くんか」  風紀の面接の時以来、翔太と話してないけど。好きな子のために風紀委員になったんだもん。告ってつき合って、セックスしたくなるのは当然。  まずは告白。  どうなるかなぁ。 「知ってるんですね。そう……それで俺、やめとけって。言い合いになっちゃって」  岡部が短く息をつく。 「津田はゲイじゃないはずだし。友達だと思ってるヤツに、いきなり告られたら……引くだろ普通。気持ち悪い。そう言ったら、本気だとか何とか……放っといてくれって、マジギレで」 「仲直りしたいなら。フラれたら慰めて、うまくいったらオメデトウって言ってあげなよ」 「……うまくいくこと、あると思いますか?」 「あるんじゃない? うちの生徒なら、ゲイやバイへの抵抗感薄れてくから。きみはまだ馴染まないみたいだけど」  イヤミを言うつもりはないの。  でも、ちょっとからかいたい気分。 「男同士は気持ち悪い?」 「……不自然っていうか。男相手によく、その気になるなって思います」  素直な答え。 「試したことあるの?」 「ない!」  勢いよく否定する岡部に、もう少し問いを。 「見たことは?」 「軽くイチャつくくらいのなら……嫌でも目にするんで、あります」 「気持ち悪かった?」 「……高畑さんには悪いけど、ゲッと思います」 「ショックだなぁ。女の子相手にするのと、気持ちは同じはずなのに」  性欲の対象が違うだけ。  僕がしてきたのはただのセックスでも、ちゃんと恋愛してる人はいる。思い込みとか幻とかは、ノンケも一緒だ。 「そうは思えなくて……」  眉を寄せる岡部は、真性ノンケっぽい。 「エロい気分にならなかった?」 「なりません」 「ちっとも?」 「なりません! そもそも、見るに耐えない。だって、どっちも男ですよ? 男にキスするとか……気色悪いだけです」  ハッキリしてて清々しいな。 「男はムリでも、そこまで拒否反応って。色気ないのしか見てないんだね。女と違うの、挿れるとこだけでしょ」  僕のセリフに眉間の皺を深めて緩め、岡部が溜息をついた。 「……とにかく。だから、翔太と津田がもしうまくいっても……祝福出来る自信がなくて」 「友達2人がつき合うの、そんなにイヤなの? きみに何かするわけじゃないでしょ」 「そうですけど……」  今向かってる部室棟に、見てて不快にならなそうなカップルがいれば。岡部の意識改革にちょうどいいんだけど……まぁ、いないか。  外部の人間が大勢いる学祭で。密室でガチの生徒同士の不純同性交遊とか、女の子連れ込んで不純異性交遊とか……対外的にマズいから。  今日は部室立ち入り禁止令が出て、鍵も回収。先生のチェックもあるし、風紀のこの見回りルートにも入ってる。  あとは、校舎の裏とか。人混みから離れて死角になってる場所を、ひと通り見て回る予定。 「高畑さん……男同士って、そんなにイイですか?」 「うん。イイ」  即答してあげる。 「僕は抱くほう専門だけど、抱かれるほうもメチャ気持ちいいの」  さらに情報を足してあげると。 「そ……そうっすか」  岡部が顔を赤くしてそっぽを向いた。  けっこう純朴で、かわいらしい。  もうちょっと顔に野性味があれば、好みに入る部類。  紫道がいるから、食指は動かないけどね。  そして。  会話が途絶えて間もなく、校内放送が始まった。  3時。選挙の結果発表の時間だ。 『蒼隼祭(そうしゅんさい)をお楽しみの皆様。本日はご来場、誠にありがとうございます』  岡部とともに足を止め、放送に耳を傾ける。 『只今から、第39期生徒会役員の当選者を発表いたします。会長……2年B組、早瀬將悟。副会長……2年D組、加賀谷(かがや)(つかさ)。書記……』  予想通り、將悟が会長で。 『2年A組、上沢(かみさわ)(とおる)。会計…………1年、津田和橙(かずと)。庶務…………2年C組、藤村守流(まもる)。以上5名となります。有効投票数は……』  ほかの4人もバッチリ。カジノのベットは大当たりだ。  選挙結果に満足して横を見ると。  何故かまた、岡部が大きな溜息をついた。 「津田……当選したのか」 「何か問題?」 「……翔太のことです。あいつ、選挙発表のあとすぐ告るつもりらしくて」 「へー。じゃ、今まさにだね」 「落選して慰めてって流れより、当選して喜んで盛り上がってるとこ告ったほうが勝算あるかもって。気が大きくなってて、勢いでオッケーする……なんて、あります?」 「あるでしょ。気分いい時は、思考もポジティブだもん。男もよさそうって思えるんじゃない?」 「マジか……あー……」  情けない声を上げる岡部が謎。 「どうして、きみが落ち込むの」 「……自分の心の狭さに嫌気が差すんです」  なるほど。  じゃあ、仕方ないね。  笑って、岡部の肩を叩き。  校内放送が終わり静かになった校庭を、再び歩き出した。  思った通り、部室棟は中にも裏にも誰もいなく。サッカー場の横を通って、第二校舎の外側を進む。 「全然何もないのも、拍子抜けっていうか。楽ですけど」  無人の美術室を窓から眺めての岡部のコメントに同意。 「ケンカもエロもナシでつまらないよね。紫道のほうはどうかな」 「向こうは、空き教室が多いから……不謹慎なヤツらがいるかも」 「あ、昼に見た。うちのクラスでキスシーン」  岡部が顔をしかめる。 「やっぱり、何もなく平和なのがいいです」 「見回り練習の時は何かあった?」 「……一度、そういう場面で。俺と先輩の気配に即気づいて、やめてくれたんで」 「そっか」  見られたい露出癖ある人、思ってるほど多くないのかな。  楽しいのに。  校舎の端に着いた。天文部の部室になってる教室にも、誰もいない。  中庭方面に折り返そうと、外壁に沿って右へ。そこにある、第二校舎1階廊下に続く非常口。中からもグラウンド側からも死角になる場所。  そこに。 「あ……高畑さん、あれ……」 「静かに」  岡部の腕を掴み、足を止める。  声をひそめて。 「せっかくだから見ときな。ちょっと見学しよ」  嫌悪より驚き戸惑い顔の岡部が、僕を見つめ。一緒に、視線をあっち……非常口の前でイチャつく2人へと戻す。  將悟と杉原が。目の前で、濃厚なキスシーンを展開中。  すぐに気づかれたら、もったいないじゃん?

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