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055 イイモノ見ちゃった:R

 僕と岡部のいる場所から、キスを交わす2人までの距離2メートル弱。  ここまで近づいて暫く経つのに。  気づかれないように見てるとはいえ……。  2人の世界、入り過ぎじゃない?  夢中過ぎて気づかないの?  気づいてるけど気にせず続行してるの?  それならそれでいいけどさ。 「ん……はぁ……ッ……んっ……」  熱そうな息づかいと、吸い合う唾液の水音が聞こえるところでの見学。  ずっと黙って立ち竦む岡部をチラ見すると。  目、見開いてる。  口も半開き。  表情、無……?  ちょっと生々しかったかな。  ていうより、この2人のキス……。  甘いの! エロいの!  特に將悟(そうご)が、積極的でイイ感じ。  あ……杉原がこっち見て。一瞬、目が合った。 「將悟……んっ……もう……やめねぇと……っ……」  そう言った杉原の胸元を、將悟が掴み。 「まだ……はぁっ……も……すこし、いいだろ……もっと……続けて……」  おねだり。  將悟のほうが理性失くすんだ。ちょっと意外。 「……けど、高畑が……」  杉原は残ってるね、理性。 「玲史、が……?」   「……ここにいる」  涼弥の視線を追って、僕と岡部を見た將悟は。ディープなキスで熱を帯びてた瞳が、一気に現実に戻って冷め……驚きの表情で固まった。 「来期の生徒会長がこんなとこでふしだらな行為に耽ってるって、どうなの? 風紀委員としては困るんだよね。示しがつかなくて」  わざとイヤミったらしく正論をかざす。 「……すみません」  うなだれる將悟。  おもしろくて。 「恥ずかしくないの? 誰が見てるかもわからない公共の場で」  続ける僕に。  ゾンビ屋敷で自分だってしてたくせに……って、將悟の瞳が言ってる。  けど。 「僕のはちゃんと暗がりだったでしょ。おひさまの下じゃなく」  笑みを浮かべた。 「それに。將悟と(かい)だってわかってたから、わざとだし。ガチで盛ってないし」  まぁ、言いわけだけど。たった今ここで盛ってた直後の將悟は、何も言い返せないっぽい。 「でも。イイモノ見ちゃった。將悟、セックスの時も積極的にほしがるの?」 「高畑。將悟をいじめるな」  僕の言葉に耐える將悟をかばい、杉原が口を挟んで立ち上がる。 「俺のせいだ。お前に見せる気はなかったが……」 「見られて興奮しちゃった? 今度一緒にどう? 燃えるよ」  杉原は見られるの平気そうだから、誘ってみるも。 「断る。仕事戻れ。俺たちも、もう行く」  アッサリ拒否して。將悟の手を引いて立たせ。 「岡部、悪かった」  申しわけなさげに謝る。  僕には悪いと思ってないんだ? でも、風紀委員としてよくないことしてた自覚はあるみたい。 「……いえ、その……こっちも笛吹かずに近づいて、すみませんでした」  そう返し、將悟をチラッと見た岡部の顔が赤い。 「キミはいいの。せっかくだから見ときなって、僕が言ったんだからさ」  で、しっかり見入ってた。嫌悪感に目を背けるでもなしに。 「エロかったよね。男同士もなかなかでしょ? 世界広げてみるといいよ」 「はい……じゃなくて、え……と……」  うん。  同性愛へのバイアスが少しでもなくなったなら、上出来。 「あ、そうだ。坂口さんたちのライブ、行くの?」  ふと思い出し、杉原に聞いた。  坂口と瓜生とあと2人。3年生4人でやってるバンドは、街のライブハウスやイベントで人気あるらしく。体育館での学祭ライブに出るとのこと。 「行ってみる。そろそろ始まるだろ」  風紀委員みんなに、ぜひ来てねーって。坂口が宣伝してたし。  紫道(しのみち)の友達が音楽好きで。時間あったら見に行け、一回聞いてみろって言われたっていうし。 「これ終わったら僕も見ようかな。時間潰しに。あと4、5時間? 我慢出来る? 將悟」  軽音聞いてリフレッシュして、学祭終わって片付けして。うちに帰って腹ごしらえもして……。  待ちに待つイベントって、ラスト数時間が一番キツいよね。  欲を煽るようなエロ見ちゃうと、さらに! 「大丈夫。もう、人目のないとこいかないから」  同じ我慢をしてるだろう將悟に、大丈夫とか言われると。 「そうだね。今日は人目のあるとこで注目浴びるの楽しんで」    目立つの嫌いなのに、生徒会役員選挙に当選。おまけに会長。  それは気の毒だけど……ネチネチしたくなる。 「玲史。お前、自分が我慢出来ないんだろ」 「してるよ。なのに、將悟たちのフライング見せられたから。ちょっとくらい嫌味言ってもいいでしょ?」 「……ごめん」  素でもフェイクでも。かわいいしょんぼり顔でゴメンってされて、とりあえず気が済んだ。  微笑んで。 「ま、いいや。將悟が会長で紫道が風紀委員長……今夜はお祝い。夜が明けるまで延々とね。杉原もがんばるつもりでしょ?」  杉原に話を振った。 「お祝いじゃないが……將悟を満足させるまでは……な」  將悟を見やった杉原が僕を見る。その瞳がいい。  飢えて。  獲物を前に舌舐めずりしてる感じで。  楽しもう、お互いに。  杉原と、ニヤリとした笑みを交わし。 「じゃ、またね」  將悟に手を振り。校舎の廊下側、中庭のほうへと向かい。風紀の見回りに戻った。 「ここは、もう……しょうがないね」  二辺を校舎に囲まれ、木や茂みがポツポツ植わってて。ベンチなんかも置いてある、公園みたいな中庭。  当然のように、ベンチはカップルで埋まってる。中には恋人同士じゃなく友人同士もいるかもしれないけど、とにかく仲良しふうな2人組ばっかりで。  あー、あそこの男女カップル。今さり気なくチュッとした。  軽いイチャイチャはスルーしなきゃ、キリがない。  隠れてないし。  昼日中だし。  人目バッチリだから、大したことは出来ないだろうし。 「エロくないのはオッケーにしよっか」  隣を歩く岡部が無反応。 「聞いてる? 將悟たちの見てボーッとしちゃった?」 「……俺、祝福します」 「え?」  あ。翔太か。 「津田がオッケーしたって、今メッセージ来て。俺、自分が男とってのは……やっぱり考えられないけど」  岡部の手がスマホを握ってる。 「おめでとう。うまくいってよかったな。津田にも、当選おめでとうって伝えてくれ……こんな感じでいいですよね?」 「いいんじゃない」  まだ少しだけカタい笑みを浮かべる岡部を見上げ。 「僕からのメッセも入れといてくれる?」 「はい。何て?」 「やり方わからなかったら、教えるから聞いて……って」  口を開くも言葉の出ない岡部の顔が、また赤くなる。  初心な男が恥ずかしがる姿は微笑ましい。  まぁ、エロで羞恥に悶える男を見る楽しさには、遠く及ばないけどね。

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