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059 何かを許される……みたいな:S
「玲史……お前、何でここに……?」
別のルートを見回ってる玲史が、偶然通りかかることはない。
「その子に呼ばれたの」
床に座り込んだ沢渡 の横に膝をつく西住 を、玲史が目で指した。
「一緒にいた岡部にヘルプ要請のメッセ入ったから、僕が来たんだけど」
委員長副委員長はライブの準備中だろうし。ほかの委員も当番以外は風紀の仕事はないから、本部に連絡ってのはブラフだと思ったが……応援を呼んだのはマジだったのか。
「もう終わったみたいだね」
「風紀としては、一応な。まだ解決しちゃいない」
「どうした? 怖かったのか? もう大丈夫だ」
安心させるように声をかける西住に。両腕で顔を覆った沢渡が、ふるふると首を振る。
「アイツらと何があった? 話せよ」
答えない沢渡から視線を上げ、西住がこっちを向いた。
「高畑さん……来てくれたんですね。岡部は?」
「見回りしてる」
「すみません。モメたら俺、役に立たないんで。岡部なら牽制にもなると思って」
確かに。
西住は細身で、爽やか系というか……威圧感は全く無い。
玲史と見回りペアの岡部は、見た目がゴツいほうだ。
「僕のほうが強いから来たの。さっきの3人なら余裕かな。でも、残念。もう用ナシでしょ?」
「あ……えっと、ケンカとかはないですけど……このままじゃマズいっていうか。俺にもよくわかんなくて……でも。コイツ、たぶん……」
眉を寄せて、西住が続ける。
「何か弱み握られて、黙ってる代わりに何でもするって約束したらしくて……」
「ふうん」
すぐに察したらしく、玲史が目配せしてきた。
俺の、あの脅しと同じ類のもの。
そう判断したんだろう。
で、俺の思考も。
コイツを助けたい。
同じような目に合わせたくない。
どうにか、脅しを無効にしたい。
そう推測したか?
沢渡を助けられても、俺の過去は変わらない。
なのに。
自分を重ねちまってる。
自分も救われるような気になっちまってる。
これで、何かを許される……みたいな。
「とりあえず、時間稼ぎみたいになって。沢渡に話聞こうとしたんです。でも……」
チラッと沢渡を見やり、西住が溜息をつく。
「よけいなお世話かもしれないけど、こういうのは許せない。脅されて精液便所になるの、放っとくなんて出来ません」
「やられてたの?」
「俺たちが来た時は……フェラさせられそうになってて。このままだとコイツ、アイツらのとこ行って……絶対やられます。それでもいいって……よくないですよね?」
「どうだろ。犯されるのが趣味かも」
「そんなはずないでしょ!?」
玲史の言葉に、西住が声を荒げる。
「人に知られたくないことがあって、それバラされたくないから……内緒にしてもらうために……だろ? 沢渡?」
沢渡は顔を上げず、無言のまま。
「へぇ、やられまくるほうがマシって。すごい秘密だね。興味湧くなぁ」
面白がってるような玲史に、西住が眉を寄せ。
「ヒントないの?」
「……何か悪いことしたみたいです」
問いに答え。
「でも、きっと大したことじゃない。だから……それ解決しちゃえば、ヤツらの言いなりになる必要ないのに……」
また、沢渡に向き直る。
「話してみろよ。な?」
「本人がいいなら口出さなくていいとは思うけど。紫道 もこの子と一緒で、どうにかしてあげたいんでしょ?」
「ああ……」
頷くも。
去り際の、西住への茶髪のセリフを言うか、迷った。
『 お前がその変態とやる覚悟がありゃ、俺らんとこ来なくて済むぜ』
沢渡は答えないが、脅しのネタには西住が関係してるはず。
と、すると。
一番知られたく人間は、西住かもしれない。
と、なると。
ここは西住に外してもらったほうが……。
「さっきの……アイツ、何であんなこと言ったんだ? 俺がお前と……って、そうすれば脅されずに済むのか? いったいどういう意味で……」
西住が言った。
「何それ」
当然、玲史が聞く。
「きみが原因なの?」
「え……原因じゃないと思います……けど、何か……関係あるっぽく言われて。その……」
西住が、助けを求めるように俺を見た。
言ったほうがいい……か。
「沢渡とやる覚悟があれば自分たちのところに来なくて済む、偶然はコワイ……そう、茶髪のヤツがな」
どうしてなのか、そこは今から考える。
いや。
沢渡に聞くしかないだろうが……。
「だったら、簡単じゃん」
玲史がニッコリする。
「きみがその子とやればいいんでしょ?」
「え!?」
西住がうろたえる。
「やれば……って、んな簡単に……」
「男、ダメなの?」
「そういう問題じゃなくて……」
「彼氏いるから?」
「いません、けど……」
「じゃあ、出来るでしょ。あ。もしかして、愛のあるセックスしかしないとか? でも、そんなのなくても気持ちいい……」
「違くて!」
玲史を遮り、西住が声を大にする。
「何で俺? ただのクラスメイトなのに……ていうか、沢渡の意思は?」
答える前に、玲史が溜息をついた。やれやれってふうな表情で。
「ソレがきみなの」
「へ?」
西住は要領を得ない様子だが、俺もここでわかった。
あの茶髪の言葉……脅すネタ自体はわからない。
ただ、それを一番バラされたくないのは西住だ。間違いない。
その理由を……。
玲史が言っちゃダメだろ!
「その子の意思。ね? 言っていいの?」
止めようと口を開く前に、玲史が沢渡に聞いた。
「僕の読み、あたってると思うよ。きみ、この西住くんを……」
「やめろ!」
ずっと無反応だった沢渡が顔を上げて怒鳴り。
「言わないで……」
震える声で懇願する。
「お願い……します」
「うん。自分で言うならね」
「そ、れは……」
沢渡の視線が玲史から西住へと移り、すぐに戻る。
「言えない。無理……」
「そ? じゃ、僕が……」
「玲史」
さすがに、口を挟んだ。
「お前が言うことじゃないだろ」
「だって、話進まないじゃん。解決したいんでしょ?」
「そりゃ……」
「いいです! 俺はどうなっても、自分のせいだから」
「よくないって。偶然でも、知っちゃったら放っとけない」
西住も口を出す。
「アイツらにやられるほうがマシって、何したんだ? 俺に関係あるんだろ? 俺のもん盗んだとか?」
「あ……」
「サイフはあるしな。違うか」
尻のポケットを撫でる西住は、沢渡が息を飲んだのに気づかない。
「話せよ。じゃなきゃ、高畑さんに聞く」
「どうする? 何したか、僕の予想も言っちゃうけど」
無意識だろうが、沢渡を追い詰める西住。
と、玲史はわざとだな。
「ごめ……んなさい」
謝る沢渡。
「言わないで、ください」
何か助け舟を出したいが、思いつかない。
沢渡が全部ぶっちゃける以外、どうしようもないのか。
「ねぇ。さっきの続き。きみ、この子とやれる?」
唐突に、玲史が話を戻す。
「え……そ……」
「やれば解決するならとかじゃなく、単純に。この子とセックスするのはアリ?」
「それなら……アリ、ですけど……だからって実際には……」
「だってさ」
戸惑い気味な西住から、玲史が沢渡に振る。
「どう? 話す気になった?」
「でも……俺なんか……」
沢渡が口ごもり、黙り込む。
「じゃあ、もういいや」
短い沈黙を、玲史が破る。
「西住くん、だっけ? 僕とはやれる?」
「は!? え?」
焦る西住に、玲史が手を伸ばす。
「かわいいね、きみ。キスしていい?」
な、に言ってんだ玲史……!?
西住のうなじに回した手を、玲史が引き寄せる……のを、阻止すべく。玲史の肩を掴んだ、のと同時に。
「やッ……言います! だから、やめて……」
声を張り上げて立ち上がった沢渡の目から、涙がこぼれた。
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