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060 言わないの?:R

 西住(にしずみ)から手を離しても。沢渡(さわたり)は、悲痛な顔して静かに泣いてる。  泣くほど嫌だとは思わなかったけど、白状する気になってよかった。  沢渡が自ら輪姦されても。  それを助けられない西住が落ち込んでも。  特に心が傷んだりしないけど。  気に病むでしょ、紫道(しのみち)が。それは避けたいんだよね。  今日、セックスするのに……ほかに気を取られてたら嫌だもん。  だから、解決に手を貸した。  まぁ、ちょっと面白かったのもあるかな。  この子、沢渡。けっこう独特。かなりヤバめな感じで。  あとは、西住の反応見て楽しんで終わり……。  肩から紫道の手の感触が消えて、息を吐くのが聞こえた。 「キスすると思った?」 「……やりかねないだろ」 「僕にはきみがいるのに?」  見つめると。照れたのか、目を逸らす紫道。  ほんと。かわいいな、この男。 「沢渡……」 「ごめんなさい!」  涙を落とす沢渡と無言で向き合ってた西住が口を開き。沢渡がまた謝り。   「俺、きみの制服……勝手に借りたんだ」  告白タイム……あれ? 最初に懺悔なの? 「え?」  自分が着てる屋台の法被を見下ろす西住。 「あ……昼に着替えてロッカーに入れといた……え、借りたって何で? サイズは同じくらいだけど……」 「着るためじゃない。きみの服がほしかった」 「俺の……? 着ないで何するんだ?」  怯えたような瞳で僕をチラ見して、沢渡が短く深呼吸する。 「きみが着た服の匂い嗅いで……想像した。きみを……きみに……触ってるところ、とか……いろいろ」 「は!? な、に……さわって……って、え?……」  西住。この子わりとニブい?  紫道はわかったっぽい顔してるのに。  予想はだいたい合ってたかな。  言いにくいよね。  どうしても隠したい気持ちもわかる。  けど。  誰にも知られたくないなら、やらなきゃいいだけ。  それでも抗えないほど思いつめてたのか……ただの欲か。  ガマン出来なくて、学校内で。  いくら性欲旺盛な年頃でもさ。  他人の服、無断拝借して。欲望に従って。性癖に抗えず?  やっぱり、この子……。 「変態なんだ、俺……先輩の言う通り」 「……ちょっと待て。その想像って……」  沢渡がうっすらと笑み。 「オナニーしてたんだ。きみの制服抱きしめて、そこのベランダで。下の屋台にいたきみのこと思い出しながら」  開き直ったのか、スラスラとぶっちゃける。 「背徳感と罪悪感。興奮した……のに、先輩たちに邪魔された」 「俺……の? お、れを……?」  西住は、理解が追いついてないっぽい。 「そこの……そこで……?」  ベランダに向けた西住の視線は、次に紫道へ。  そして、紫道が僕を見る。  話をスムーズに進行させてほしいのかな? 「さっきのヤツらが先輩で、現場見られたの?」  西住の代わりに質問。 「はい。俺が制服持ってコソコソこの教室入るの見て、何するか……終わるまで、見守ってたって」  素直に答えてくれる沢渡。 「写真とか撮られちゃった?」 「最中じゃないけど、ズボン抑えて……制服抱えて立ち上がったところで……西住の名前、バッチリ映ってて」 「なんだ。それくらいなら、どうにかごまかせるんじゃない?」 「……西住に迷惑かかるから。へんな噂とか、俺のせいで……だから……」 「先輩の言いなりに?」 「はい」 「フェラするのも犯されるのもかまわないって。きみ、セックス好きなの?」  沢渡が眉を寄せる。 「いえ。そういう経験はないです」 「……なのに?」  ちょっとビックリ。 「俺が悪いし、ほかにどうしようもないし。俺はどうなっても、西住が嫌な思いしなくて済むなら……そのほうがいいから」 「ふうん。で? まだクラスメイトとかには知られてないけど、本人にはバレたじゃん?」 「西住が! 来るとは、思わなくて……」  沢渡が、悲壮感いっぱいの顔を西住に向け。 「本当に……ごめん」  また謝罪。 「いや、ていうか……え、と……」  西住は。どう反応していいか、わからないみたい。 「この子がした悪いことは」  これも、代わりにハッキリまとめてあげるかな。 「きみの制服を勝手に借りて、オナニーしたこと。誰もいなかったとはいえ、公共の場である学園のベランダで」  沢渡が俯いた。 「きみをオカズにしたのは、まぁ……罪にはならないよね。きみがどう思うかは別として」 「俺、を……」 「イケナイコトしてるってやましさで興奮するような変態くんだけど。きみに嫌な思いさせたくなかったのは、ほんとだと思うよ」 「でも……何で俺のこと優先するんだ?」  理解が進んだのか。西住がまっとうな問いを口にして、沢渡を見る。 「そんな理由で、アイツらに何されてもいいって……その考え、普通にあり得ないだろ」 「そうだね。きみのいう普通じゃないかも。だけど、少しは納得出来るんじゃない? この子が一番隠したかった秘密、もう気づいてるでしょ?」  黙って下を向いたままの沢渡をフォロー。  嫌いな男を妄想してオナるヤツなんていないもん。 「それって……」 「言わないの? 沢渡くん」  呼ばれて顔を上げた沢渡の視線が、西住から僕へ。 「ここでちゃんと伝えないと、ただの変なヤツだよ」 「いいんです、だって……俺なんか、に……気持ち悪い。絶対引かれます」 「今さら。もうすでに気持ち悪いし、引かれてるはず。ね?」  西住に振る。 「は……いや。確かに引いたけど……お前が、俺を……?」  たっぷり10秒間。沢渡が西住をまっすぐに見つめ。 「きみが好きなんだ」  思いを告げる。 「匂いとか、うなじの角度とか湿り具合とか。落ちてる物拾ってあげる何気なくやさしいとことか。笑う時高くなる声とか、俺が出させたい。見た目より細い腰とか、抱えたい……」 「ストップ」  止めてあげた。 「そのへんでよしとこう。気持ち悪いの通り越して、コワイから」 「……はい」  沢渡が大きく息をつく。 「嫌な気分にさせて、ごめん。でも、俺は変わらない。それも、ごめん」 「いや……ちょっと……すごくビックリした、けど……謝る必要はないんじゃ……気持ちは自由だし、さ」  へー……。  けっこうキャパ広いな、この子。  意外とうまくいきそうじゃない?  この先は、自分たちで話し合って決められるでしょ。 「じゃ、僕と紫道は見回りに戻るから。あとは2人でどうぞ」  目を合わせた紫道が頷く。 「ああ……そうだな」 「待ってください! 行かないで」  焦ったような声を上げたのは、沢渡だ。 「誰かいてくれないと困ります」 「何できみが。全部ぶっちゃけたんだから、コワイモノナシじゃん」  寛大な西住は、嫌悪感でキレて殴りかかる気配もないし。 「2人きりにされたら俺、西住に何するかわからないから」  あーそういう。 「ちょッ、何するかって……何もすんな、絶対!」  本気で焦る西住。  やっと危機感持ったみたい。  でもさ。  逃げ出さないあたり、完全拒否じゃないってことだよね。 「ガマンしてる、する……けど。何かもう……ハイになってて……」  エンドルフィンってやつ?  いろいろあって。沢渡は今、幸福ホルモンで頭フワフワなのかも。 「わかった。紫道は残してくよ。もともと僕は助っ人だし」 「いや。見回りは俺が行く。お前が……話まとまるまで、ここにいてくれ」  万が一沢渡が暴走しても、紫道なら余裕で止められるのに。  僕に頼むのか……ふうん。 「オッケー。きみのお願い、聞いてあげる」 「悪いな」  僕に微笑み、紫道が真剣な眼差しを西住へ。 「西住。今すぐ何か決めなくてもいい。ちゃんと自分の気持ちを優先しろ」 「はい。大丈夫です。ありがとうございます」  西住がペコリとお辞儀して。 「じゃあ、あとで」  紫道が教室を出ていった。 「さて、と」  沢渡と西住は、ジッと僕を見てる。  指示待ち?  なら、サクサクしてあげようかな。  完全解決すれば、紫道が安心するし。 「とりあえず。きみたち2人、つき合うってことでいいよね?」  やさしい先輩っぽい笑みを浮かべてみせた。

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