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061 もうすぐ4時だし:R
「無理です!」
つき合うことに、真っ先にノーを出したのは沢渡 だった。
「おこがましくて……考えるのも気が引けます」
「エロい妄想のネタにして抜くのはアリのくせに?」
「それは……俺だけの世界で、別の次元で。そこでは俺の自由だから」
堂々と言う沢渡……は、置いといて。
「きみは?」
西住 に尋ねる。
ノーっていうなら、この子のほうでしょ。
「正直にね」
「俺は……実際につき合うかどうかは置いといて、形としては賛成です。じゃなきゃ、脅しを無効に出来ない……ですよね?」
素で驚いてるっぽい沢渡をチラ見して、西住が僕に聞き。
「沢渡に俺のこと言わせたの、そのためなんだし。俺にバレてつき合うってなれば、問題ない。アイツらに好き勝手はさせない」
返事を待たずに続ける。
冷静だ。
この子、いいじゃん。
細身のサッパリ顔は僕の好みじゃないけど。
正義感あって。
エロ方面の思考回路はまだ疎そうだけど。
臨機応変が利いて、頭の回転は悪くない。
変態自認する子の相手も、十分務まりそう。
「うん。その意気で」
微笑むと、西住の表情もリラックスしたものになった。
「じゃ。沢渡くんの先輩にそれ伝えて、一見落着だね。連絡先ってわかる? どっかで待ち合わせしてるとか?」
終わった感を漂わせる僕と西住と違い、沢渡は見開いた目で口も開けてる。
「どうしたの?」
「……あり得ない」
怖いモノ見たのを否定するように、首を横に振る沢渡。
「西住が俺と……なんて」
せっかく終わりかけてるのに。
要らないとこ引っかからないでほしいなぁ。
「聞いてた? 形だけだって」
「形だけでも、です」
沢渡の視線は西住へ。
「俺となんて、気持ち悪くないのか?」
「いや、別に……実害はないだろ」
西住は、いたって冷静。
「先輩たちが言いふらしたら、きみまで変な目で見られる……」
「男とつき合うの、うちではおかしくないだろ」
「俺と、だ。変態とつき合うのは変態だって思われる……嫌だ」
「嫌って。俺はかまわない。とにかく、早く……」
「かまえよ!」
話を進めようとする西住を、沢渡が遮った。
「そんな簡単に、俺と関わって……いいのか?」
「え……」
「さっき言ったろ、きみに何するかわからないって。きみが近くにいたら……どうにかならない自信がないんだ」
「あ……でも……」
2人の会話を黙って聞いてた僕に、西住が救いを求める眼差しを向ける。
「つき合うフリは、アイツら用にで……この件が片付けば解消……ですよね?」
なんか。
ちょっぴり面倒くさくなってきた。
「それは2人で決めれば。今日、学祭終了まででもいいし。せっかくだから、もっと深く知り合ってみてもいいし」
甘やかすのはタメにならないしね。
「あるんでしょ? 沢渡くんと、やる覚悟」
「は? い、や……それは……」
西住が目を泳がせる。
「まだ……」
「形だけでもフリでも何でも。気にかけてオッケーするくらいだから、イヤじゃない。抱かれてもいいって思ってる」
やさし気な笑みを浮かべて、沢渡を見やった。
「少なくとも、この子にはそう思われてるってこと」
「え!?」
西住も沢渡を見る。
ここで驚くくらい初心なの?
男の経験は、あるみたいなのに。
「俺が抱かれる側!?」
あ。そこなの。
「逆だろ? だってお前……」
「先輩たちは俺を犯すつもりで、それはそれで仕方ないと思ったけど。きみとなら、俺が抱きたい。想像ではいつもそうだ」
淡々と語る沢渡。
「きみは、自分で思ってるより色気があるんだ。すごくそそられる。声も、身体も。もちろん、匂いも。今だってもう……」
「フリだからな!」
語気荒く、西住が念を押す。
「俺に原因があることで、お前が自分を投げ出すの……放っておけないからで、お前に抱かれたいとか……そういうのじゃない!」
「この人が、その気あるって」
僕を見る沢渡と目を合わせ、唇の端を上げてみせた。
「なかったら。きみがどうなろうと、自分の心配が先だと思うよ」
「高畑さん! 困ります。コイツ煽るの、やめてください」
「ウソは言ってないけど。ホントにつき合っちゃう可能性、ゼロじゃないでしょ?」
「そ、れは……」
西住が口ごもる。
ゼロです!……って、即答しないのが答え。
完全拒否じゃなく。ゼロだと思ってた可能性が1以上あるってなったら……。
「夢が現実になるなんて、夢だ」
沢渡が呟く。
妄想が捗るよね。
瞳孔開いてるみたいだし。
「最悪な日のはずが……最高の日に……どうにかなりそうだ」
「落ち着け! 大丈夫だから。どうにもなるな」
「……西住。やさしい」
「違うだろ! お前……ついさっきまで、形だけつき合うのも無理っつってたくせに! 豹変し過ぎ……」
「必死なところもいい。情熱的なのは大歓迎だ」
「高畑さん! 止めてください!」
危機感に駆られた西住の表情は、なかなか。
2人のコントふうなやり取りはちょっと面白いけど、そろそろタイムリミットかな。
そう思うと同時に、スマホが鳴った。
紫道 からの電話だ。
「はいはい」
「まだ西住たちと一緒か?」
明るくない紫道の声。
「うん。何かあったの?」
「アイツらと会って、沢渡のことを話した。西住にバラしたから脅しにはのらないってな」
「よかった。じゃあ、もう解決?」
「……いや。証拠を見せろって言いやがる」
「この子たち、つき合うことになったからって言って」
暫しの間。
「今、2人の写真撮れるか?」
「オッケー。すぐ送る」
通話を切り。画面をタップして、カメラを起動。
「紫道がアイツらといて、話つけてる」
「え……マジですか? 今?」
期待の声を上げたのは西住。
沢渡のほうは、脅しの件なんかすでに遠くに行っちゃってる感じ。
「そう。で、脅される要素はなくなったって証拠に。きみたちの写真が必要なんだって」
西住と沢渡に向けて、スマホをかまえる。
「だから、つき合う雰囲気でね」
顔を見合わせる2人。
「早く。もっとくっついて」
「でも……」
「わかりました」
西住は引き気味。
沢渡は興奮気味。
並んだ2人の違和感がすごい。
「セックスするかどうかは、あとでゆっくり話し合えばいいから。今は演技でも仲良さ気にして」
西住の眉がピクッと内に寄る。
「沢渡くん」
もうすぐ4時だし。
学祭も5時までだし。
紫道も待ってるし。
これ以上時間かけてらんない。
何だかんだ、西住も気がないわけじゃなさそうだし。
自覚ないみたいだけど、ネコで攻められるのが似合うタイプだし。
「キスしていいよ。僕が許す」
このくらい、いいでしょ。
自らを焦らす自虐趣味はないけどね。
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