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065 嫌なことはオーケーしない:S

 5時を回り。  ついてけないエロ話を上沢と続ける玲史をカジノから連れ出し、2-Bのゾンビ屋敷に戻った。  疲れてるにもかかわらず。学祭の後片づけは毎年、全クラスがハイスピードでこなす。  後夜祭なんてもんがなく。ノンケもゲイも、学園を出てから楽しむ生徒が多いせいか。みんな早く帰りたい一心で効率的に動き、自分たちが何日もかけて作ったものを破壊する……この爽快感はちょっといい。どこかクセになる感じだ。 「お疲れ……ってことで、解散!」  6時過ぎ。  週明けに運ぶだけになった大量のゴミ袋と。再利用する備品と、ゾンビの仮装を解かれたマネキンたちを残し。実行委員の佐野の号令で、学祭は完全終了。 「猫ってかわいいよね。紫道(しのみち)は猫派? 犬派?」  わらわらと教室を出るクラスメイトたちを見やり、玲史が聞いた。エスコート役が頭につけてた猫耳カチューシャを揺らしながら。 「どっちも好きでも嫌いでもないが……」 「僕は猫のほうが好き。お互い気が向いた時だけ、かまい合えばいいから。ねぇ、コレ。今夜つけてみる?」  そうくると思った。  岸岡が生徒会長に当選した將悟(そうご)にやろうとして断られ、ほしい人に配り。残ったひとつを、玲史がもらうって言った時に感じた嫌な予感。  猫耳をほしがったヤツらは、雰囲気作りの小道具としてうまく使うつもりなんだろう。たぶん。  でも、な……。 「俺がソレつけたら、ギャグにしかならないぞ」 「本物の猫よりかわいいと思うよ」 「お前がつけろ。似合いそうだ」  モトがかわいい顔立ちだ。  まぁ、猫ってより……もっと獰猛な野生動物の瞳をするし。猫耳つけてかわいくなっても、玲史はSでタチなわけだが。 「そのほうが、きみが興奮するならね」 「……しない」  お前はするのか。  そう聞いて、答えがイエスでも。  俺が猫とか……ないだろ。 「ま、いっか。こんなのじゃなくて、もっといいモノあるし……あ!」  ニヤリとした玲史と教室を出ると、(かい)御坂(みさか)たちと挨拶を交わす將悟がいた。スッキリした笑顔で、思ったより気落ちしてなさそうで何よりだ。   「將悟。今夜がんばってね。杉原によろしくー」 「うん、お疲れ。あー……玲史」  少し言いにくそうに。 「控えめにしろよ。ほんとに」  將悟が忠告する。 「お前も、嫌なことはオーケーしちゃダメだぞ」  俺にも。  的確な。十分わかってて肝に銘じてるが、わかった上で……無視しちまうやつだ。 「心配要らない。また来週な」  浮かべた笑みは、自然なはず。  嘘じゃないからな。  心配は不要。  嫌なことはオーケーしない。  嫌なのにオーケーするのは、ほかに選択肢がない時だけ。  そもそも。  玲史になら。  何されたって、心底嫌だってのは……ないはずだ。  その自信はあるはず。  前向いて踏み出したはず。  つき合うって賭けをした時から。  玲史へのこの感情が特別なモノかどうか。  俺にも恋愛ってのが出来るかどうか。  それも、賭けた。  答えは……いずれ出る。 「大丈夫だって。將悟は自分の心配すれば?」  玲史が將悟に言い返す。 「好きだから、で流されそう。無理って思っても杉原の要望なら聞くでしょ? きみ、甘いもん」 「そんな甘くない。つーか、涼弥はお前みたいにサドじゃないから……俺が無理なことさせない」 「そう? 將悟が慣れてきたら、いろいろやってみたいんじゃない? アレもコレも。今日は時間もあるしね」 「……だとしても、嫌っつったらしないよ。お前も、ノーって言われたらやらない理性は保て。な?」  將悟の言葉に溜息をつく玲史の瞳が、黒く光る。 「全然わかってないね。Sは理性あるの。なくすのはMのほう。なくさせて支配するの……そこが楽しいんだから。こっちが冷静でいなきゃ、ギリギリのライン攻められないでしょ」  將悟に視線を向けると、目が合った。俺の身を案じてる瞳。  1分ほど前の自信が揺らぐ。  やっぱり。玲史にされて心底嫌だってこと、あるかもしれねぇ……! 「俺がノーって言ったらノーだ、玲史。約束したろ?」 「わかってるってば」  出来る限り低い声で抑揚なく確認を取るも。微笑む玲史を見て、力が抜ける。  コイツに凄みが効かないのは当然か。  ケンカも強い。  精神も強い。  怖いモノってあるのか? 「じゃ、もう行くから。將悟も、がんばってノーって言えるといいね」 「大丈夫。またな」  手を振る玲史に言い切って、励ますような笑顔を見せる將悟に。笑みを返し頷いて、階段へと向かった。 「紫道」  下校する生徒で混雑する昇降口を抜け、玲史が口を開く。 「縛るのはよくて、オモチャはダメなんだよね?」 「ああ……そ、そう、だ……が」  いきなりで、ついどもっちまった。 「約束は守るけど」  けど……何だ? 「アレはいいでしょ? カジノで上沢にもらったやつ」 「あ……そう、だな」  あの時、そうするかって言っちまった手前。  今さら撤回するのも潔くない……。 「けど……」 「オモチャっていっても、挿れるわけじゃないもんね。痛くなくて、江藤もイイみたいだし。ね?」  しようとしたが、撤回……出来そうにない。  玲史の瞳がキラキラしてるせいで。  嫌ならノー。  言える。  とりあえず、言えるところは言おう。 「ローターは、ダメだ」  確か、上沢が……固定するのにピッタリだっつってた。  ローターくらいは知ってる。普通にAVは観てたからな。 「オッケー。でも、ほしくなったら遠慮なく言って? 大抵のモノはあるから」  輝きを増した……ギラギラした玲史の瞳に見つめられ、身体が熱くなる。 「お前だけで十分だ」 「ふふ……楽しみ過ぎ」  それは俺もだが、満面の笑みを浮かべる玲史の期待がややプレッシャー……。 「あ……その、上沢がくれたリングってのは……」  輪っかになってるってことは、ちんぽにつけるんだろう。だからこそ、ローターは拒否した。  気になるのは……。 「何のために使うんだ?」  この分野はマジで疎い。  もともとエロ方面にオクテだったところに。望まない状況で男にやられて、男同士のセックスに関する情報から遠ざかってたおかげで。 「んー気持ちよさを増すため?」  俺を見つめる玲史の瞳が笑う。 「ほら、我慢したあとって……満足感が倍増するでしょ? お腹空いた時のゴハンとか、喉乾いた時の水とか。快感も同じ」 「何を我慢……イクのを、か?」  そんなのは拷問じゃ……!? 「ううん。好きなだけイケるよ。射精するのを制限させるの」  イクのと出すのと。  同じじゃないのか。  出す量を減らすのか?  ちんぽにつける……縛れば、確かに出しにくくなりそうだ。 「大丈夫」  不安げな俺を覗き込むように見つめる玲史。  妖しいこの眼差しで射すくめられ。 「きみが気持ちよくなれば、僕もイイから。一緒に溺れよう?」  乞われて。  拒否れるヤツを尊敬する。  俺には……限りなく不可能に近い、な。

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