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088 特別だから:R

 洗面所で手を洗い、翔太の家を出て駅前に戻り。紫道(しのみち)を学園の寮まで送った。  ひとりで歩けるって言ったけど、腰が痛いのは僕のせいだし。8時の門限に間に合わないと面倒らしいし。1回出してもイキ足りなそうな紫道と、離れがたかった……ってのも、ちょっぴりあったかな。  エロモードが引いてない顔。  まだ欲望の残る瞳。  見てるの楽しくて。  プラス。  冷めない熱が冷めないうちに、早く自分の部屋に帰ってほしくて。  だってさ。  そうすれば。  するでしょ、オナニー。  昨夜のセックスで刻み込まれた快楽。  ナカでイク快感。  痛みや羞恥で得る快感。  僕に抱かれる快楽。  まだ生々しく覚えてるだろうから。  嫌でも、身体がそれをほしがるはず。  なのに……。  どんなにナカが疼いても、ペニス扱いてイクしかない。  そうなると。  ナカにほしい。  ナカでイキたい。  アナルに挿れたい。  アナルにちんぽ挿れてほしい。  早く、突っ込まれたい!  こうなるから。  勝手に焦らしプレイ。  次、抱く楽しみがアップするじゃん?  セフレや1回きりのアソビ相手は、マニアックなプレイに反発心あるのに身体は快感に抗えなくて僕をほしがる……みたいな男とのセックスが楽しかったけど。  紫道なら。  気持ち的にノーなのに快楽に屈するのもいい。  心身ともにイエスで快楽に溺れきるのも、よき。  嗜虐心くすぐられるのも征服欲満たされるのも、快感。  全身全霊で乞われるのも、ほかの男だとちょっと冷めるけど……紫道なら、快楽。  完全に羞恥心失くした紫道って、想像出来ないけどね。  だから。寮の入り口での別れ際に言っておいた。 『オナる時、アナルにモノ入れるの禁止。指もダメだよ』  2年前のクズ男とのセックス以来、アナルをいじったことはないって言ってたから。バイブやディルドは持ってないだろうけど、自分の指でも前立腺には届くし。一応。 『そんなの、は……しない』  引いてた赤みが頬に差す紫道に。 『週末までガマンね。そしたら、また……泣くほど犯してあげるから』  次への期待もさせて、家に帰った。  夕食にパスタを食べて片付けを終えた頃、翔太からメッセージがきて。 『無事にやれました! 今、シャワーして飯食うところです』 『腰がめっちゃ痛いけど、すっげーシアワセ』 『テンパってて俺、あんなこと頼んじゃって今めっさ恥ずかしいけど』 『ドン引かせてないですか?』 『今日はマジサンキューでした』 『和橙(かずと)からもマジサンキューでした』 『俺も、やらせてとかじゃなければ何でも協力します! 出来ることなら!』  こっちも、それなりに楽しんだからありがとーって思いつつ。 『おつかれ』 『全然引いてないよ』 『協力してもらいたくなったら、遠慮なく頼むね』  返信した。  素直でおもしろい子……そういえば。  愛のチカラってやつの信者だっけ。ソレを知らないのは僕の弱さだとか。  強くなるように教え込まれて。自分は強いと思ってるけど。    ひとりの部屋で、ひとりで眠る。  いつもと同じなのに、いつもと違ってほんの少し……さみしいような気がしなくもない。ほんのちょっとだけ。  でも。まぁ、うん。悪くない、かな。  月曜日。学園の昇降口で。 「おはよー玲史。いいセックスした?」 「おはよ。もちろん。きみは?」  さわやかな朝の挨拶にエロを混ぜてくる(さとる)に頷いて、一緒に歩きながら問い返す。 「僕も、まぁまぁ」 「誰と?」 「岸岡。学祭のあと誘われて、一度くらい試してもいいかなーって」  笑顔の聡の、首には赤いキスマーク。 「へー……」  相手が岸岡なのは別に意外じゃない。  うちのクラスだけじゃなく、学園内のゲイでタチの男に人気がある聡に。遊び人の岸岡も、たまに声かけてたみたいだし。口では否定的なこと言いながら、聡も岸岡に興味ありっぽかったし。 「で、よかったんだ」 「悔しいけど。久々なのもあって、燃えちゃった」  珍しく素直な聡が微笑ましい。 「ホテルに泊まって、時間も声も気にしないで思う存分……あいつの精液、全部搾り取ってやったから満足」  内容はエグめだけど。 「きみの相手は川北、だよね?」 「当然でしょ。つき合ってるもん」 「どうだった? 恋人とのセックスは」 「すごくイイ。やっぱり、紫道はトクベツ」  脳が勝手に思い返して、口元がほころぶ。  最初に見込んだ通り。  紫道の身体はメチャ好み。顔も。僕の知ってる限りの中身も。  アナルの具合も。  セックスの相性も。  僕の嗜好に合う。  ま、合わなくても調教して合わせるけど。  そして、何より。  誰を抱くより、興奮した!  気持ちイイ。  あの快感は、ほかの男じゃ得られない。 「好きだからでしょ。身体だけより心もついてたほうが、いいセックスになるの」 「え?」 「まだ自覚してないとか?」  軽く驚いた僕に、聡がニヤリと笑う。 「僕に、触るのダメって言ってたし。ほかのネコも切って、川北だけ。恋人になって、やって。セックスもよくてトクベツ……恋愛感情だよソレ」 「そう、かなぁ」  恋。愛。そんな感情、僕には要らないのに? 「ふふ……エロ上級者の玲史が恋愛初心者って、ほんと謎。メンヘラに言い寄られて超嫌な経験したとか、怖い思いしたとかでトラウマになってたり?」 「ないよ」  メンヘラとの遭遇はね。  トラウマもない。  あるのは、愛なんかただの幻だっていう……見て聞いた事実だけ。 「あ、川北のほうは? ちゃんと好きなんじゃない?」  聞かれて。 「うん。好きだって言ってた。僕も好きって言ったし。でもソレ、僕とやるのが好きって意味でしょ。やってる最中の『好き』は、みんなそうじゃん?」 「えー!? 何その偏見」 「友だちとしての好き以外の『好き』は、セックス中にしか聞いたことないもん」 「うーん……」  首を傾げた聡が、考えるように頷いた。 「でもさ。川北は玲史のこと好きなはず」 「何で?」 「きみがイイって言えるセックスしたってことは、きみの趣味につき合ってくれたんだよね? 容赦なく攻めて意識飛んでもひっぱたいて続けるサドに?」 「あれ? 僕、きみを抱いたことあったっけ?」 「ない。想像」  同時に笑った。 「合ってるでしょ?」  まぁ、だいたいね……ってふうに、肩をすくめて見せる。 「好きじゃなきゃ、きみの嗜好についてけないと思う」 「趣味嗜好がピッタリ合うマゾなら、けっこういけるんじゃないかなぁ」  聡が溜息をつく。 「とにかく。一度ハッキリ確認し合ったほうがいいよ、気持ち。せっかく両思いなのに、変にこじらせたらもったいないから」 「そうだね」  同意しておく。  けど、気乗りしない。  ううん。  ハッキリしたくない。  僕への感情が恋愛なら、ほしくない。  紫道への感情が恋愛なら、ほしくない。  紫道は特別だから。  大切なモノはほしくない。そんなの負える自信ない。  そのために汚く醜く邪悪になる自分は知りたくない。  見える欲と感じる快楽だけでいい。それがほしい。それをあげたい。めいっぱい。  愛とか。見えないモノのチカラに頼みたくない。幻だもん。幻は消えるから。幻にしたくない。失くすのは……嫌だよ。

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