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104 予感はハズレか?:S
鋭い痛みは一瞬で。すぐに舐められる感触に変わり。
目の前の玲史の瞳が笑う。
「きみがそう思うなら、そう……僕はきみの、だよ」
俺が……。
俺は……思えるか?
玲史を……自分のモノだ、と……。
思うには、何か……。
「ッうッッぁ……は、あ……ッ!」
ナカを占めてた肉が抜かれる感触に、腰が跳ねる。思考は中断され、身体が快感を追っちまう。
今イッたってのに。出したってのに。
足りねぇ……まだ、もっと……!
ほしい……のは、快楽だけか?
すっかり淫乱になっちまったのか。
これが普通か?
恋愛と性欲が混ざると、こうなるもんなのか……?
「もっとやりたいけど、時間切れだね」
「ああ……」
玲史の言葉に、俺だけじゃないと安心するも。
「お前の話……」
本来ならメインの『話』、きっちり聞かなけりゃ……。
頭切り替えろ俺。
身体に残る快感を無視して、上体を起こす。
「シャワーしてきなよ。今の、中に出しちゃったから」
「あ……そうだな」
中も外も流す必要があるのは俺だが、玲史も……。
「今、何時だ?」
スマホ……デスクの上か。
「5時36分」
先に自分ので確認した玲史が答え。
「一緒に浴びる?」
聞く。
「いや。狭いだろ」
寮の風呂場は、完全ひとり仕様のユニットバスだ。
てより、坂本が帰ってきたらどうする。
同室のヤツが留守だからって寮でやるのは、褒められたもんじゃない。やっちまったが……せめて、バレないようにする努力はしないと。
一緒にシャワーなんぞ、ダメだ。
「お前が先のほうがいい」
あとのほうが、坂本と鉢合う可能性は高い。
俺なら、不自然じゃない。
「そう? じゃ、軽く流してくるね」
バスタオルを手に、玲史が部屋を出た。
ゆっくりとベッドのフチまで移動し、息を吐く。
やっと。ナカの震えも収まり、身体が落ち着いてきた。
長くて短いこの1時間。玲史とセックスしてる間は、頭も身体もそれだけになる。気がかりも不安もどっかいっちまう。
今。急速に戻ってきた、昨日から居座るネガティブな感覚……嫌な予感に。あらためて、ザワつく。脳が。神経が。心が。
大したことじゃなかったと、昨夜のメッセージにはあったが……どうなんだろう、な。
玲史にとっちゃ大したことじゃなくても、俺には大したことだとか。
大したことを、小さくして話すとか。
本当のことを話さないとか。
嘘の話をでっちあげるとか……って。
何考えてんだ。
話聞く前から、玲史を疑ってんのか。
恋人だろ一応。
信用してねぇのか、つき合ってる相手を。
そんなんで、好きだとか……よく言えるな!?
はぁ……やめよう。
考えるな。
まずは、話を聞いてからだ。
戻ってきた玲史と入れ違いにバスルームへ急ぎ、身体を流す。アナルの中も流し、持ってきたスウェットのパンツとTシャツを着て。冷蔵庫からミルクティーのペットボトルを2本取り、部屋へ。
制服姿でスマホをいじってた玲史が顔を上げる。
「早いね。ちゃんとナカ洗った?」
「ああ。悪い、喉乾いただろ」
「ありがと」
ベッドに腰かける玲史にミルクティーを渡し、向かい合うようにデスクのイスに座った。
喉を潤し。
玲史が口を開く。
「後輩くんは、まだみたい」
「そうか……」
「今回はバレずに済んだね」
今日の次も普通にある言い方に異は唱えず。
「玲史。例の……話してくれ」
本題に。
「んー簡単に言うと、清崇を好きな子がいて。僕と一緒にいるとこ写真に撮って。僕が誰か知りたくて友達に聞いて、その子がさらに友達に聞いて。それがヤツらだったみたい」
「八代たちか?」
「そ。で、僕に見覚えあって。沢渡 に聞けばわかると思ったんでしょ。それだけ」
「だけ……って。終わりか?」
「ほかに何があるの?」
問い返されるも、答えられず。
何が……かは、わからないが……何かあるんじゃないのか?
何もないのか?
予感はハズレか?
ハズレたほうが、もちろんいいが……。
「大したことないっていうか、よくあることじゃん?」
暫しの沈黙を、玲史が破る。
「好きな男がホテルに行く相手、何者? どこの誰? 知りたくなって調べるの」
「……本人に聞けばすぐわかるだろ」
「そんなに親しくなかったら、聞けないんじゃない?」
「……清崇 の相手、今はお前じゃないだろ」
「何か理由あって、大学では内緒にしてるんだって。幸汰 くんとつき合ってること」
「……だから、ひと月前に見たお前を調べて……」
どうするんだ?
知るだけで満足するのか?
それとも……。
「僕が誰かがわかれば、それでいいんじゃないの? 好奇心が満たされてさ」
「……嫌がらせに、何かしてくるってこともあり得る。逆恨みっつーか、嫉妬心でっつーか」
「へーきみはするの? そういうこと」
「俺は……」
言葉に詰まる。
今までに、その類の経験はない。
好きな相手に恋人なり何なりがいて。
ソイツが誰か知りたいとか。
ソイツを羨むとか。嫌うとか。憎むとか。
で、ソイツに危害を加えたいとか。
そこまでの思いを、したことがない。
好きになったのは、玲史が初めてなんだからな。
あり得るか?
玲史とつき合ってなくて、好きになったとして。
玲史の相手を……。
わからない。
けど。
玲史が悲しむような真似はしない。
「俺は、そんなことはしないが……するヤツがいるかもしれないだろ」
「まぁ……恋愛感情が度を越して間違った方向行くと、おかしなこと考えて実行しちゃう人間はいるよね。僕には理解不能だけど」
「だったら……」
「大丈夫」
俺を遮って、玲史が断言する。
「清崇に頼んだから。僕はただの元セフレでもう無関係、今は恋人と仲良くやってること……その子に伝わるようにしといてって」
「……そうか」
それなら大丈夫だろう、と……頷ける話ではある。
清崇と今は切れてるのがわかれば、玲史に用はないはず。
大したことじゃなかった。
ただ。
俺の不安がなくならないだけ。
嫌な予感が消えないだけ。
その根拠は……。
「難しい顔してる」
玲史が笑みを浮かべる。
「まだ何か心配?」
「少し……な」
「幸汰くんのこと? バレたら、清崇がどうにかするでしょ」
清崇を好きなヤツの矛先が玲史から幸汰に移るなら、幸汰を守るのは清崇で……。
「玲史。もし、何かあったら……俺がお前を守る」
刹那の間。
「ありがと。カッコイイじゃん」
「……何かあったらちゃんと言えって、言っただろ」
「言うよ……あったらね」
見つめ合う。
「今の話……本当なんだな?」
「うん。ウソつく必要ないもん」
玲史の瞳は揺れない。
「ウソっぽい?」
話に納得しても不安なまま。
その根拠は。
たとえ、玲史が俺に嘘をついてるとしても。
それを見破る自信がない……ってことだ。
「いや……」
今はただ。
嫌な予感がハズレることを願い。ゆっくり息を吸って、吐いた。
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