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106 行けるよ:R
朝起きて、いつも通りに家を出た。
今日の予定は。学園に行って授業を受けて、放課後に風紀委員の見回りをする……ここまでは、いつもと大差なく。
そのあとは、清崇 と隠密行動。例の件の処理。理不尽な復讐心を清崇と僕に向ける、神野 と会う予定……なんだけど、時間と場所はまだ未定。
おととい、清崇といたカラオケで。かけてもかけても繋がらなかった、沢渡 からの電話がきて。しっかりキッチリ口止めした。
僕が紫道 とつき合ってること。
沢渡から先輩の八代に。八代から神野にコレがバレるのは、とりあえず回避出来た。
そのあと、清崇と話し合って決めた。
元セフレの僕たちは今、恋人同士。
もちろん、うまくいってる。
お互いを大切に思ってる……お互いが、お互いの最大の弱みってこと。
そうすれば、本当の弱みを探られない。
本当に大切なモノを隠しておける。
紫道と幸汰 を守れる。
あと。向こうからしかけてくるのを待たずに、こっちから出向くことにした。
話し合いで済めばいいけど……どうだろう。聞く限りだと、まっとうな言い分が通じなそうだし。なんか、悪いコトしてないのに悪者にされてるし。清崇は、五分五分だ……って悲観的。
『俺のせい。ほんとごめん。とにかく、神野の気が済むようにするしかねぇ』
『博己がコレに絡んでるなら、あいつを納得させるしかねぇ。気持ちに応えんのは無理だけどよ』
戦意ゼロの清崇。
それ聞いて、思った。
やっぱり、愛なんて幻じゃん。
自分の都合ばっか。
都合に合わないと、幻は消えるの。
愛のチカラ?
ベクトルが変になるなら、ないほうがマシじゃん……って。
神野と博己のワガママにつき合うのは本意じゃないけど。こんなの、ずるずる長引かせてらんないし。サクッとキッパリ終わりにしたいから。
始めからケンカごしでいく気はないし。
僕から手出す気もないし。
出来るだけ穏便に。
譲れるとこは譲る気はある、かな。
何にせよ。
向こうの出方次第。
そして、昨日。
清崇が神野とコンタクト取って、今日会うことになった。
夕方6時以降って希望は出したけど、時間決定はまだ。時間も場所も神野が決めるらしくて、連絡待ち。
簡単な着替えとか持ってきてるから、家に帰るヒマなくても大丈夫。
でも。学校終わるより早い時間だと、紫道にあやしまれない理由で早退しなきゃいけなくなる。昨日は疑ってるふうじゃなかったけど、紫道……やけに不安がってるから。
まぁ、その不安……合ってるんだよね。
勘? 第六感?
ニブいとこはニブいのに、鋭いとこは鋭いの。ギャップやアンバランスさもかわいいの、紫道は。
鋭いといえば。
沢渡も、何か勘づいてそう。勘っていうか、考察かな。
昨日の夜。寝る頃に、沢渡からメッセがきて。
『あなたが川北さんとつき合ってることを隠すのは、何故ですか?』
突然の質問。
前の日の口止めの理由が知りたくなったみたい。
『紫道を守りたいから』
普通に答えると。
『川北さんもあなたを守りたいと思ってたら?』
また質問。
『紫道を守れれば、僕は傷つかないもん』
答えると。
少し間が空いて。
『俺も同じです』
『あなたの味方です』
『全力を尽くします』
『西住 は俺の心臓です』
『触りたいです』
『西住にお願いしてみます!』
立て続けに。変なのがきた。
『おやすみ』
終わりの挨拶を返し、終了。
何だったのって思って寝たけど。
わざわざメッセしてきたのって。
僕が八代と何かトラブってるって思ってて。紫道のこと口止めする程度にヤバめかも、とか考えてて。何か確かめたかったから……って感じだよね。
写真見てるなら、清崇関係ってのはわかるだろうし。
そこに紫道を巻き込みたくないってことは伝わったはずだし。
僕の味方みたいだし。
特に問題はないはず……あ。
いつもの電車に乗って、何気なく見回した先。車両の後ろ側。端っこの座席に、沢渡がいる。何か本読んでる。
今までも同じ電車だったっけ? 沢渡の存在を知ったのは学祭だから、気づかなかっただけかな。この時間だと、けっこう早く学園に着くから、蒼隼 の生徒はあんまり多くないけど。
まぁいいや。
一緒だからって、仲良くお喋りとかしないでしょ。あの子の朝のテンションがわからないし。昨夜のメッセの続きの気分じゃないし。そっとしとこう……。
スマホが震えた。
沢渡とは反対側に移動してから確認する。
清崇からのメッセ……。
『急で悪い! 今から来れるか? 角南 駅んとこの24カフェLUCK 』
あーあ……学校終わってからがよかったなぁ。
『行けるよ』
『神野?』
一応、確認。
『9時に来んなら博己 連れてくって連絡入った』
『学校平気か?』
紫道に会えないのは残念だけど。
昨日、セックスしたし。
『大丈夫』
『8時半には着ける』
返信。
『俺も』
『んじゃあとで』
『オッケー』
返信して。ちょっと迷ってから、スマホをポケットにしまって考える。
本当のことは言わないにしても。学校休むこと……紫道に言うべきだよね。熱出しちゃったとか。父親に呼び出されたから行かなきゃとか。適当にでっち上げてさ。
熱出したなんて嘘くさいし心配させるし。父親に呼ばれるのも滅多にないけど。
連絡ナシはもっとダメ。
ただでさえ。
嫌な予感がするっいうし。
不安がってるし。
ここんとこ挙動不審気味だし。
無連絡で無断欠席したら、紫道……。
想定外のコトしちゃうかもしれないじゃん!?
神野と会ってる間はスマホ切っといたほうがいいから、それまでにメッセしなきゃ……あ、清崇は幸汰に何て言うのかな?
幸汰が清崇をあやしんで。紫道が僕をあやしんで。紫道と幸汰が連絡取り合ったら、マズいでしょ。
僕と清崇が一緒なのバレても、神野には辿り着けないと思うけど……。
とにかく。
次で降りて乗り換えないと。
電車が止まり、ドアが開く。
ホームに降りる僕の脇から通勤通学の人たちが乗り込んで、ドアが閉まった。
動き出す電車を、つい振り返る。
窓越しに、こっちを向いてる知った顔。
通り過ぎる一瞬。
沢渡と目が合った。
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