111 / 167
111 ふざけんな!:S
いつもの何倍もの長さに感じた1限の授業がやっと終わり。ポケットからスマホを取り出しながら、教室を飛び出した。
授業中の携帯端末の使用禁止に反すると、没収されて放課後までスマホが使えなくなる。普段なら別に問題はないが……玲史が来てない今日は、そうなるわけにはいかない。
だから。我慢した。
トイレにでも行って電話しようかと思ったが、玲史と行き違いになる可能性もゼロじゃない。俺が普通にしてりゃ……いいほうに考えてりゃ、玲史も普通に遅刻して来るかもしれない……なんて。
そんな期待は外れだ。わかってる。
この1時間にあった通知を今、確認……。
は……!?
階段の手前で足を止めた。
10分前に届いた、未登録のアドレスからのメール。
『隣の906』
『神野』
何……だ、こりゃ……?
推測出来るまでに3秒。
確信するのに1秒。
玲史へのメッセージ、か……!
神野ってのは、八代のダチか何かか!?
誰だろうと。
コレは玲史に来たメールで、俺あてじゃない。
玲史に伝わらなけりゃならない、玲史に伝えるべきメッセージで。そうする約束で、沢渡 に玲史の連絡先として俺のを教えさせた。
そうしたのは、何が起きてるのか知るためで。
何かが起きても、玲史は……俺に内緒で動くかもしれないと思ったからで。
それは、たぶん……いや。もう、きっと……絶対で……今、何かは起きてるはずで……。
だから、玲史は今ここにいない。
なのに……クソッ!
コレの意味が全くわからねぇ!
これじゃ、俺を通した意味がねぇ……けど、玲史に伝えなけりゃ。伝えねぇと……どうなる? どうする? もっと具体的なメッセージが来るの待つか?
いや。
そのせいで玲史がマズい状況になるってことも……。
「川北さん」
頭ん中でぐるぐる考えてるところに声をかけられ。我に返って顔を上げると、目の前に沢渡がいた。すぐに、西住 も到着。
「ちょうどよかった。神野ってお前の先輩か?」
どうするか決める前に、聞いた。
何が起きてるとしても。何が起きるとしても。玲史にコンタクト取ってきた神野ってのがどこの誰か、知れるなら知っておきたい。
学祭で八代と一緒にいた2人のどっちかっていう可能性は低いが、違うなら違うで。沢渡に八代の連絡先聞いて、ヤツから情報を……。
「高畑さんに連絡が来たんですか?」
俺をじっと見て、沢渡が尋ねる。
「ああ。神野ってヤツからだ」
「高畑さんに伝えたんですか?」
「いや、まだ……」
「連絡来たら、そのまま伝えるってことでしたよね。変えずに。必ず」
「……さっきメール見て、その……」
「今すぐ高畑さんに伝えてください」
これまでになく圧のある沢渡の雰囲気に驚きつつ。
「沢渡。少し……」
「伝えてください」
待ってくれと言おうとするも、遮られ。
「そのあとで、八代先輩に高畑さんの連絡先教えます。前のは間違いで、違う人のだったって」
「は……?」
「高畑さんのためです。あなたを通してたら、時間のロスになるし……いずれバレます。俺、やっぱり……高畑さんを裏切れません」
「そりゃ、どういう……」
「そして、俺から高畑さんにその人のメアド教えます」
「は!? 何で……」
「高畑さんからその人……神野に連絡出来ないと、困るかもしれないし。あなたが教えるより不自然じゃないし」
「でも、すでに不自然だろ。神野の伝言、川北さんが伝えるってのがさ」
割って入る西住の言うことが、頭に入って来ねぇ。てか、理解が追いつかねぇ。
「神野のメールを見せてくれるなら、俺が高畑さんに伝えます」
言って、沢渡が俺を待つ。
何がどうなってるか、わからねぇ……が。今すぐ決めて動かなけりゃ、玲史が……。
だから。
神野からのメッセージは伝える。
沢渡が教えるほうが自然だが、俺が伝える。不自然でも……つうか。
不自然なほうがいい。
「今、玲史に送る」
アプリを開き、メールにあった通りに文字を打つ。
『隣の906』
コピペするまでもない文面。
メッセージ送信をタップ。
続けて。
『神野ってヤツからの伝言だ』
必要なことを。
送信。
これで、玲史は気づくだろう。
何かあったのを、俺は知ってる。
神野。
メッセージ。
何もないフリは、俺に通じない。
もう、ウソはつけない。
ちゃんと言えっつったのに、言わねぇで……内緒にして、何かやろうとしてる。
それはバレたぞ。
玲史……言ってくれ。話してくれ。
まだ間に合うはずだ。
遅くないはずだ。
俺を頼ってくれ!
俺に出来ること、あるはずだろ?
お前は俺が守る。
俺はお前の……恋人だろ!?
祈るような気持ちで、玲史がすぐに電話してくのを期待するも。スマホは震えず。
「あの……川北さん。場所、移動しませんか? チャイム鳴る前にどこか……」
西住の提案に、眉を寄せた。
移動なんぞしてるヒマあるか。
チャイム? 何のチャイムだ? 待ってるのは玲史からの……。
頭を振る。
今は休み時間で。ここは学校で。もうすぐ次の授業で。廊下に突っ立ってるわけにはいかない。授業を受けてる場合でもない。
「あ! うちの教室! 2限は選択だから空いてます」
「そうだな……」
選択授業で両隣のクラスも空くならちょうどいいか……いや。そこより。
「待て」
背を向けて歩き出してた西住と沢渡を止める。
「風紀本部のほうがいい」
次期委員長の俺は鍵を持ってる。
玲史と連絡が取れるまで、玲史の無事がわかるまで。授業どころじゃない。
どれだけ時間がかかるかわからない。
邪魔されず、長く使える場所がいい。
「わかりました」
西住が頷いたのを見て、階段を駆け上がる。後ろに2人の足音が続く。
第二校舎へと繋がる、各教科の準備室の並ぶ廊下を急ぐ。
すれ違う教師に走るなと怒鳴られたが、気にしちゃいられねぇ。
すみませんって言う西住の声が聞こえる。
風紀本部に到着。
鍵を開けて中に入り、部屋の中央で足を止め。すぐさまスマホの通話をタップする。
もう待てねぇ。
早く出ろ……玲史……!
何回聞いたか数えちゃいない呼び出し音が止んだ。
応答なしの表示。
キャンセルした、のか……?
もう一度。通話をタップ。
呼び出し音4回で、キャンセルされた。
息を吸って、ゆっくり吐く。
通話をタップ。
呼び出し音を聞いたのは1回。
応答なし。
通話をタップ。
呼び出し音1回。
応答なし。
通話をタップ。
呼び出し音1回。
応答なし。
通話をタップ。
ひとしきり鳴り続けた呼び出し音が、止んだ。
応答なしの表示。
ふざけんな!
何で電話に出ねぇんだ!?
キャンセルは出来るんだろ!? してただろ!?
もう、キャンセルもしねぇのか!?
「クソッ!」
「……高畑さん、電話繋がらないんですか?」
遠慮がちに聞く西住に答えず。
通話をタップ。
1分くらい続いた呼び出し音が止む。
応答なしの表示。
通話をタップ。
呼び出し音。
応答なしの表示……。
「川北さん。八代先輩に、高畑さんの連絡先を教えました。俺に神野のアドレス送ってください」
ずっと無言だった沢渡が言った。
「は……!?」
「高畑さんのためです」
キッパリと言い切る沢渡に、反論する気になれず……てか、マジで頭が回らない。
玲史に何も話してもらえず。
電話も拒否られて。
頭にきてる。
そうだ。
玲史。
俺は怒ってるぞ。
お前に……俺自身に。
俺に出来ること、何もねぇのか!?
「川北さん。早く」
沢渡に急かされて。
神野のアドレスを沢渡に送った。
玲史のために俺が出来ること、これだけか。こんなもんしかねぇのか……。
近くのイスに座り込んだ。
気が抜けたんじゃない。
諦めたわけじゃない。
諦めるわけ、ねぇだろ。
ただ、ちょっと……俺のどっか、真ん中らへんが……キリキリするっつうか……。
握ったままのスマホに通知のバイブ。
玲史からの、メッセージ。
『好きだよ』
何だ、ソレ……クソッ!
ふざけん……じゃねぇ、ぞ……!
ともだちにシェアしよう!