112 / 167
112 お前の全てを守れなくても:S
玲史のメッセージを見つめたまま、何秒経ったのか。
画面の文字が歪んで見えて、ギョッとする。
こんなんで、目が熱くなるとか……あり得ねぇ。
何弱気になってやがる。
そんな繊細でも脆くもねぇだろ俺……!
シャンとしやがれ!
おとなしく待ってるつもりがねぇなら、考えろ……。
「あの、大丈夫ですか?」
西住 の声に、天井に向けた視線を下げて瞬いた。
「何か悪いメッセが……?」
「……いや。大丈夫だ」
俺自身には何も起きてないってのに、後輩に心配かけてるようじゃ……って。それ以前に。後輩に授業サボらせて、私的に風紀本部使って……。
何やってんだ!?
いくらテンパってるからって、マズいだろ。
先輩として。
風紀委員長として。
「あ……西住。沢渡 。つき合わせて悪かった」
立ち上がり、頭を下げた。
「玲史のことは俺がどうにかする」
俺が守る。
そう言ったはいいが、口だけで……何も出来ちゃいない。何が起きてるのかも、知っちゃいない。蚊帳の外だ。
それでも。
出来ることがないなんて、思わない。
あると思って動く。
少なくとも。
必ず『そこ』に辿り着いてやる。必ずだ。
俺に内緒にする意味はきっと、あるんだろう。話せない理由もきっと、あるんだろう。
けどな。
んなもん、知ったことか!
ここでただジッとしてるなんぞ、頼まれてもごめんだ。
そこがどこでも。
何がどうなっていようと。
そこに行く。
玲史。たとえ、お前の全てを守れなくても。お前のどこかを、何かを……俺は守れる。そう信じてもいいだろ?
「だから、お前たちはこれ以上……」
「何かあったんなら、手伝います!」
西住が勢いよく言う。
「学祭の時、沢渡を助けてくれました。川北さんがいなかったら、どうなってたか……」
濁された言葉の続きはわかる。
あのタイミングであの場に行けてよかった。でなけりゃ、沢渡はクズ3人にひどいことをされてただろう。
「感謝してます。高畑さんにもです。あの人がいたから今の俺たちがあるわけだし。恩返しっていうか、役に立ちたいです」
「その気持ちは嬉しいが……」
「この件には沢渡の先輩が絡んでます。その八代から、神野ってヤツに高畑さんの面が割れたのは……俺が応援を頼んだせいです」
「いや、それは違うぞ」
ここは否定する。
「アイツらは学祭に来てたんだ。ほかのところでも玲史を見かけてたかもしれない」
「でも……」
「神野が玲史を探ってたのは、写真の男が原因だ。八代からじゃなくても、どっかから玲史のことは割れる。だから、お前たちのせいじゃない」
清崇 と一緒にいる玲史を見た人間は、ほかにもいるはず。その中に、玲史を知ってる人間がいてもおかしくない。制服着てりゃ、うちの学園だってのもわかる。
「そのことは気にするな」
「わかりました。でも、手伝わせてください」
俺の言葉に頷くも、西住がオファーする。
「俺もだけど、沢渡が……すごく乗り気っていうか。朝から、高畑さんのこと気にしてて。1限終わってすぐ、川北さんとこ行かなきゃって」
西住が目をやると、沢渡がスマホから視線を上げた。
「あの人は、俺の世界を変えた人だから」
唐突な言葉とともに、沢渡が唇の端を上げる。
「俺はあの人の味方です。そして、あの人の好きな人であるあなたの力にも、なれるならなります」
好きな人……か。
玲史の『好き』は、どういう……。
いや、そこよりも。
朝から気にして?
俺のとこ……玲史のとこじゃなく……。
「何か知ってるのか? お前……」
いくらかクリアになってきた頭で、さっきの沢渡の様子を思い出す。
「玲史のため……つってたよな。やけにキッパリっつうか、自信たっぷりに」
「はい。自信あります」
また、圧のある沢渡が言う。
「だって、同じなんですよ。俺と高畑さん」
「何がだ?」
「好きな人を守る方法」
「は……?」
な……んだそりゃ?
好きな人ってのが、とりあえず……俺だとしても。
沢渡が西住を守るのと同じ?
何よりも、西住が最優先で。自分より大切で。守るためなら、どんなことも厭わない……ように見える。
同じ……玲史が!?
「あの学祭の時、俺のしたことを西住が知ったら……死ぬほど傷つけると思った。西住を傷つけずに済むなら、俺はどうなろうと平気なんです」
そう……だったな。
西住をオカズにオナってたのを見られて、それを知られないために……ヤツらの言いなりになるつもりで。それは、コイツにとって大したことじゃなく……って。
その辺りの感覚は、ズレてるだろ。やっぱり。
「俺はそんなんで傷つかないし。実際にやられてたら、沢渡が平気とは思えないし。平気じゃないのが普通なんだって、前にも言ったんですけど」
西住が肩を竦める。
「高畑さんも同じだからって、聞かなくて」
「川北さん。俺は、あの人が何をしようとしてるのか知らない。だけど、あなたを巻き込みたくないっていうのはわかるから」
沢渡が俺を見据える。
「あなたがあの人の恋人だってこと、絶対にバレないようにしてください。これを言いに来たんです」
「何で……」
「好きな人の存在は弱みだから。知られなければ、そこにつけ込まれなくて済みます」
「俺が玲史の弱み……」
なり得るのか?
俺が?
沢渡にとっての西住と同じレベルで……とは、とても思えないが。俺が、玲史の……弱点に?
そこまで、俺を……?
「約束してくれるなら、俺の知ってることを教えます」
ズレてた目の焦点を沢渡に合わせ、視線に力を込める。
「早く言え」
「約束してください」
「沢渡……」
「神野にあなたのことがバレる可能性がある限り、何も話さない」
沢渡は目を逸らさない。
強い瞳だ。
学園の時とは違う。昨日とも違う。
何かあったのか。
西住を見やる。
「沢渡の言う通りにしてください。高畑さんが危険な目にあってるなら、助けたい。俺たちも同じ気持ちです」
玲史…。
大きく息を吐き。
「わかった。約束する」
頷いた。
「話してくれ。玲史を探す」
ともだちにシェアしよう!