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113 自分の意志か?:S
玲史は、今どこにいるのか。
自分からそこに行ったのか。
誰かにラチられたのか。
神野 はそこにいるのか。
清崇 も一緒なのか……。
そうだ。
コレは清崇のトラブルで、玲史に直接の関係はないはず。ひと月も前に終わった元セフレに用はないはず。
たとえ、清崇が神野に恨みをかってるとしてもだ。
なのに、玲史がコレに関わる理由は?
清崇のセフレだったことに何の非がある?
何の責任がある?
ただのとばっちりか?
それとも……。
自分の意志でか? 自分から清崇のために……だから、俺に内緒で動いてるのか?
「今日、同じ電車に高畑さんが乗ってきました」
沢渡 の声で、好ましくない方向に行きかけた思考から引き戻される。
「玲史が? 今日!?」
「そして、学園の前の駅で降りました」
「降りた……って、どこに行ったんだ?」
「わかりません。制服だったから、学校に来るつもりだったと思うけど」
「……玲史と話してはいないのか?」
「高畑さんが電車を降りたあと、ガラス越しに目が合っただけです」
沢渡を見つめる。
嘘じゃなさそうだ。
「ほかには?」
「神野も俺の中学の先輩です」
「は!?」
「お前、何で黙ってたんだよ?」
俺の驚きに、西住の問いが重なる。
「川北さんにメールが来るまで、神野って名前は出てなかっただろ」
沢渡が息をつく。
「名前聞いて、そうだと思った。八代先輩と一緒にいた友井 先輩が……神野先輩と親しくしてたから」
「友井ってのは?」
「あの時いた黒い髪の人。ただ……」
西住の問いに答え、沢渡が眉を寄せる。
「神野先輩は……そういう種類の人じゃなかった」
「何だよ、そういう種類って?」
「八代先輩や城戸 先輩みたいに、人を脅して何かを強要するのが平気な人種」
「……お前を精液便所にしようとしてたヤツらみたいな、か」
西住の声に怒りが混じる。
「最低の人種だ」
「もっと下もいる。問答無用でひどいことするような。それに、取り引きと考えれば悪いばかりじゃない。軽い脅しはビジネスの世界でもあるし」
「はぁ? 脅迫は犯罪だろ」
「命の危険や恐怖を感じる場合は脅迫になるかもしれないけど、自分でそうするなら取り引きだ」
「脅して嫌なことさせんのは同罪じゃん。好きで言いなりになるわけじゃないんだからさ」
脅されて要求をのむのは、得るモノと差し出すモノが釣り合うと思えるから。納得出来るから、取り引きになる。
沢渡が八代たちの脅しに応じようとしたのも、俺が康志 の脅しに応じたのも……自分がやられるのと引き換えに情報を内密にしてもらうことを選んだ結果だ。
強姦まがいの行為を受け入れられる心情を、西住には理解出来ないのかもしれない。
俺も、自分の身体は取り引きとして使ったが……誰かがそうしようするなら止める。
望まない相手にやられる屈辱に見合うモノなんぞ、滅多にあるもんじゃない。
「沢渡」
申し訳ないが、西住を遮り。
「お前の知る神野がその類の人間じゃなかったとしても。八代たちと繋がりがあるなら、きっとそいつだろう」
話を進める。
「同じ中学の先輩なんだな?」
「八代先輩たちは1コ上だけど、神野先輩は2コ上で……あんまり話したことはないです」
「なのに、脅すような人じゃないってわかるのか?」
話についてきて、質問してくれる西住。
「お前が知らないだけでさ。神野も八代と同類なんじゃないの?」
「違う。神野先輩は生徒会長で、後輩にちょっかい出す人たちを注意してたし。八代先輩と城戸先輩はよく怒られてたんだ」
「生徒会長!? そんなヤツが……」
こっちを見る西住の瞳にある戸惑いはわかる。
学校のトップに立つ人間が、必ずしも清くまっとうだとは限らない。中学の頃と今じゃ別人くらい変わるヤツもいる。表向きと本性は一致しない……が、期待する。
今、起きてるのが何だとしても。最悪の事態になることはないだろう、と。
「てかさ。学年も違うのに、何でそいつと八代とかが仲良いんだよ」
「同じ部活なんだ。軽音部」
「まさか、お前も!?」
「クラスのヤツに人数合わせで誘われて、音楽は好きだから……」
「へー……意外と趣味合うかもな」
西住のリアクションに、沢渡は少し俯いて。頭を振って、顔を上げた。
「ま、それは置いといて。高畑さんに絡んでるのが、八代じゃなくて神野でよかったですよね。川北さん」
「……だといいが」
頷きはせず。西住じゃなく、沢渡を見つめる。
俺に向ける沢渡の瞳が、物言いたげで。眉間に寄る皺が、西住の意見を否定して見えて……胸がざわついた。
「そうじゃないんだろ?」
聞かないほうがいいことを聞く時、予想した答えはあまり外れない。
「知ってることがまだあるなら、言ってくれ」
「……高畑さんの連絡先を教えて少しして、八代先輩からメッセージが返ってきました」
沢渡の言葉に息を詰める。
「『こいつ写真よりかわいいじゃん』」
「え!? チョクで見たってことか? 今……」
声を上げた西住が、俺を見て口を閉じる。
「『こいつヤレんのラッキー』」
「な!? んだよソレ!?」
再び、西住が声を上げるも。
「『リュウさんに感謝だぜ』」
沢渡が続ける。
「リュウさんは神野先輩のことです。神野龍介」
「おい! 神野はそういうヤツじゃないんだろ!? 今の、神野の手引きで高畑さんをやるみたいな……」
八代のメッセージから西住が読み取った状況は、たぶん……いや。きっと……いや。絶対。アタリだ。ソレ以外あり得ない。
目を瞑る。
考えろ。
何で。どうして。何で、そんな状況になってるんだ?
何が起きてる?
わかってることは?
玲史は自分で電車を降りて。
どこかに向かった。
向かった先でラチられた可能性もなくはないが、自分でそこに行ったなら。
もし、神野に呼び出されてそこに行ったなら……。
こうなる危険を知ってたのか?
予想外の事態か?
そんな、甘い男じゃないだろ?
寝床にナイフを備えて眠るお前が?
簡単にやられるか?
考えろ。
経緯。理由。原因……。
バカか俺。
原因は清崇のトラブルだってわかってるだろ。
玲史は、清崇のために動いてるに違いない。
神野と清崇。玲史は今、その2人と一緒にいるはず。
考えたくはないが、八代も……ほかのヤツもいるかもしれない。
考えろ。
俺はどう動くか。
どうすべきか。
玲史を助けるには。
守るには……。
目を開ける。
「川北さん、どうしますか?」
「あなたはどうするんですか?」
険しい顔をした西住と沢渡が、同時に口を開いた。
「玲史がいる場所を突き止めて、そこに行く」
することは決まってる。
「あいつを守る」
「……もう、間に合わないかも」
嫌でも頭を掠める非情な現実を口にする沢渡に。
「俺は玲史を守る」
静かに繰り返した。
出来ることは全てやる。
玲史のどこかを、俺は守れる。
玲史の何かを、俺は守れる。
そう信じて動け。
自分に、繰り返した。
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