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114 邪魔だと!?:S

 玲史が今どこにいるのか、神野(じんの)に聞くのが一番手っ取り早い……。 「川北さん。ストップ」  メールアプリを開こうとスマホをタップしてすぐ、西住(にしずみ)に止められた。 「何しようとしてます?」 「神野に居場所を……」 「ダメです」  答える俺に、沢渡(さわたり)がキッパリと言う。 「約束、しましたよね」 「……俺が玲史の恋人だってバレないようにすりゃいいんだろ。友達の心配して何がマズいんだ?」  確かに約束はした。 『あなたがあの人の恋人だってこと、絶対にバレないようにしてください』  玲史の友達として、神野にコンタクトを取る。これは約束破りにゃならないはず……つうか。もう……そんな約束なんぞ、かまってる余裕はない。  玲史がクズに犯される。  それを阻止するためなら、後輩の善意を踏みにじる卑怯なクズになってもいい。  2人には悪いが……。 「高畑さんを守りたいなら、邪魔しないのが一番だと思うけど……」 「邪魔だと!?」  カッとなり、声を荒げた。 「玲史がやられるかもしれねぇんだぞ!? 助けに行くのが邪魔だってのか!?」  さすがに手は出さないが、拳を握り締めて沢渡を睨みつける。 「お前だって、西住が同じ状況だったら……何してでも助けるだろ?」 「当然でしょう。法も善悪も無視して助けます」  冗談のカケラなく肯定する沢渡に。 「そこまでするな」  眉を寄せる西住。 「だけど……」  沢渡が続ける。 「逆だったら、俺は助けに来ないでほしい」 「何……?」 「俺が高畑さんの立場なら、西住を守るためにそうしてるから。西住には絶対に関わってほしくない」 「は!?」  意味がわからない。  沢渡が玲史の立場だとして、西住は俺?……を守るため?  そうしてる……って、神野の言いなりに……セックスするってのか?  どんな取り引きだ。  あり得ねぇ。 「お前はそうかもしれないが、何で……玲史がお前と同じと思うんだ? ほとんど知っちゃないだろ、玲史を。お前も。西住も」 「そうですね。学祭で初めて喋ったし。俺とあの人が似てるわけじゃないし。同じなのはそこだけ」 「なら……」 「あなたは前に……高畑さんに何かあったら、守りたいと言った。今も、高畑さんを守ると」 「ああ。俺は玲史を守る」  これは、何があろうと変わらない。 「あの人も言ってました。メッセージで。川北さんを守りたいから……って」 「いつ!?」 「昨日の夜。前に、あなたとつき合ってるって情報を八代先輩に伝えないように言われてて。その理由を聞いた答えです」  俺にも言った……昨日、寮で……別れ際……。 『きみは、僕が守るよ』  大切に思ってくれてるだけなら嬉しいが、俺と同じように不安があって言ったなら……そう思った。  何もないはず。  嘘はないはず。   何かあるなら、言ってくれるはず。  そう思って……疑った。  自分だったら、ちゃんと話すか。  自分のせいで危ない目にあわせるとしても、助けを求めるか。  自分だけで済むなら、玲史を守れるなら。  そう思って……自信がなかった。  だから、か。  同じか。  こういうことが起きるって、知ってたのか!? 「玲史……」  無意識に呟いた俺に、沢渡が頭を下げる。 「それに、あなたが神野先輩に居場所を聞くのは無理です。ごめんなさい」 「……何したんだお前?」  黙ったままの俺の代わりに、西住が尋ねる。 「『間違えたメアドは、教えてもらった高畑さんのファン自身のものでした。そこからメールが来ても無視してください』って、八代先輩にメッセージしたから」 「あー……お前さ、高畑さんを助けたいんじゃないのかよ」 「俺はあの人の味方で、邪魔はしないけど……」  沢渡が俺を見つめる。 「あなたがあの人を探すのは手伝います。2人の関係がバレない限り、あなたの邪魔もしない」  正直なところ、神野本人から居場所を聞き出せないのはキツい。八代からも無理だろう。  だとしても、沢渡の協力は必要だ。 「わかった。頼む」  今は、どんな情報でもほしい。 「神野とお前は同じ地元だ。ヤツがいそうな場所、お前が思いつくだけ上げてくれ」 「はい」  沢渡が頷き。 「書くもん取って来る」  西住が部屋の奥へ。  デスク横の引き出しを閉める音に続いて、チャイムが鳴った。  2限……もう終わりか? 50分も、いつの間に経った?  クソ! 時間がねぇ! 早くしねぇと!  俺に今出来ること……あ!  メッセージアプリのトーク画面をスクロールする。  何で、すぐに思いつかなかったんだ……コレを!  俺に得られる情報がある。神野からじゃなく。八代からじゃなく。清崇(きよたか)サイド……恋人の幸汰(こうた)から。  ついこの前、学祭で一度会っただけで連絡したことはないが……この際だ。  玲史と違って、清崇は何か話してるかもしれない。  俺と違って、幸汰は何か聞いてるかもしれない。 「神野じゃない」  視線を感じて顔を上げ、目が合った沢渡に言う。 「この件の原因は、例の写真の……清崇に違いない。その恋人に聞いてみる」 「……あの元彼だって人も、高畑さんと一緒にいると思いますか? 神野先輩たちと?」 「ああ。だから、恋人のほうに聞く」  手元に視線を戻し。幸汰の名前をタップして、手が止まる。  何て切り出すか……。  清崇は今、大学にいないはず。  聞くのは……。  どこにいるか、心当たりはないか……てより。  清崇は何か言ってたか。  今起きてることを知ってるのか。  知ってるなら……一緒に助けに行こう……って?  知らないなら……教える……のか? 十中八九、玲史と清崇は一緒にいるはずだが……100パーじゃなくても?  もし、万が一……清崇が今、大学にいたら……?  やめだ。  やっと少しまともに回り始めた頭で、ぐるぐる考えてるヒマはない。 『突然すみません』 『今、電話していいですか?』  30秒と待たずに既読がつき、スマホが震えた。 「紫道(しのみち)くん? 先日はどうも。会えてよかったよ」  幸汰の声は親しげで、焦りや緊張感はない。 「はい。あの、いきなりですいません。今日、清崇さん大学に来てますか?」 「いや。来てない」  俺の口調で、のんきに話してる場合じゃないのがわかったのか。  問う理由は聞かずに幸汰が答える。予想通りの答え。 「何か連絡は……?」 「母親の具合が悪いから病院に連れてくってメッセージが朝あったけど、嘘だと思う。ここ数日、様子がおかしいしね」  大きく息を吐いた。 「何? 玲史くんもいないのか?」 「……はい」 「2人が今一緒にいると思ってるのか?」 「……はい」 「浮気を疑って、俺に確認?」 「いえ、そうじゃなくて……」  どう説明する? 「うん。俺もソレはないと思う。だけど……玲史くんを巻き込んでるのか」  考えがまとまらないうちに、続けられた幸汰の言葉に。 「あんたは何を知ってるんだ!?」  敬語を忘れて語気を強める。 「教えてくれ!」 「清崇がうちの大学のヤツと揉めてる……というか、一方的に恨まれてるらしい」 「そ、れ……誰だ!?」 「神野龍介」  予想通りの名前。  もう一度、深い息を吐いた。

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