115 / 167

115 どこが大丈夫なんだ!?:S

神野(じんの)を知ってるのか?」  幸汰(こうた)に聞かれ。 「名前と……玲史が今、ヤツといるだろうってことだけ……」  答えながら、八代のメッセージを口にするか迷う。 「清崇(きよたか)……さんも、きっと一緒にいる」  いなけりゃおかしい。  そして。  一緒なら、玲史と同じ状況のはず。  2人そろって呼び出されたのか。別々になのか。  とにかく。  神野のところにいて。ヤツの後輩の八代ってクズもそこにいて。そのクズに、やられる可能性がある……クソッ!  マジでわからねぇ!  何がどうなったら、そんなバカみたいな状況になる!?  八代のメッセージ……清崇も同じ目にあう危険がある。  幸汰に言うべきか?  言っていいのか?  今?  居場所の目星がつく前に?  ついてからのほうがいいのか? 「そうだね。清崇が一緒にいないってほうが変だ」 「どこにいるか、心当たりは……?」  同意する幸汰に問うも。 「ない……な。友達の友達ってだけで、神野のことは名前と顔くらいしか知らないんだ」  期待した答えは得られない。 「清崇さんからほかに何を聞いてる? 恨まれてる理由とか、何か……」 「何も。清崇は俺に何も話してない」 「じゃあ、誰に……?」 「清崇が神野とトラブってるって情報は、講義の前に友達のたまきから聞いたばかりだ」  ダチから……清崇も、幸汰に話してないのか……内緒にして、2人とも何考えて……。 「少ししか話せなかったけど、最後に言われた。『何時間も電話繋がんなかったら、かなりマズいことになってるかもしれない』」 「は!?」 「何があるとしても、相手は普通の大学生だ。たかが知れてると思って特に心配はしてなかったんだけど……きみから連絡が来た。玲史くんも一緒だとすると気になるな」 「幸汰さん」  言おう。 「そのダチの読み通りだ」  言って……そのたまきってヤツから、もっと詳しい情報を聞いてもらわなけりゃ……。 「うちの1年が神野と同じ中学で、ヤツの後輩もこの件に絡んでる。ソイツが玲史を……ヤレるのはラッキーだ、と」  暫しの間。 「ごめん。清崇のせいでそんなことになってるのか」  思ったより落ち着いた声で、幸汰が謝り。 「自分のトラブルに玲史くんを巻き込む理由はわからないけど、清崇はバカじゃない。割に合わないリスクは負わないはずだ。玲史くんもだろ?」  尋ねられ。 「そう、だが……」  答えるも、確信はない。  玲史はもちろん、バカじゃなく。俺よりよっぽど頭が切れる。先も読む。リスク取るのも当然、見合う利と覚悟あってのことだろう。  けど。  今回は。この件に関しては……。  何を考えてるのか、わからない。全く。  沢渡が言ってることも、イマイチわからない。  恋人が危険な状況にあるってのに、ちっとも動揺してる感じがしない幸汰も……わからない。 「玲史くんはケンカも強いんだってね」  幸汰が続ける。 「ああ……」 「大丈夫とは思うけど、一応……」 「どこが大丈夫なんだ!?」  怒鳴った。 「恋人がやられちまってもいいのか!?」  大丈夫じゃねぇ。  大丈夫な状況じゃねぇ。  何で落ち着いてられんだ!? 「いいわけないだろ。清崇はもう俺のモノだ」  静かに、幸汰が言う。 「プレイならともかく、俺以外の人間にやられるのは気分悪いよ」 「は……?」 「それに。どんな場合でも、あいつの意に反して犯すのは……許さない」 「だったら……!」 「大丈夫なのは清崇たちだ。俺はムカつくし、面白くない。きみも嫌な気分になるだろ?」  返す言葉に詰まる。  嫌とか気分とかじゃねぇ。もっと……何だ? ツラい苦しい悲しいとか怒りとか、そんなわかりやすいもんじゃなくもっと……叫びたい何か。胸ん中、咬みつかれみたいな……。  いや。  それよりも。 「何が、大丈夫なんだ? もし、玲史がヤツらに……何で大丈夫って言える?」 「俺に嘘ついて自分から神野に会いに行ったってことは、清崇の意志だ」  淡々と答える幸汰。 「実際にそうなってるなら、やられる可能性も考えたはず。だから……清崇は大丈夫だ」  言い切るのは、自信があるのか……願ってか。 「玲史くんも、自分で選んで決めて行動出来る人だと思うから」  反論する気が起きないのは、俺自身もそう思ってるからか。  ただ……思ってはいても。理論的に合ってるとしても、理解が追いつかない……ってより。  玲史がソレを選ぶ理由がわからねぇ。  俺を守る?  リスクに見合う?  わからねぇ。  つき合ってるってのに。  長く友達やってるってのに。  沢渡や幸汰のほうが玲史を理解してるみたいで……情けねぇ。 「幸汰さん」  冷静になれ。  こうしてる間に時間は過ぎる。  わからないことは玲史に聞け。 「たまきって人に会わせてください」  ぞんざいな口調になってたのを改める。  幸汰は……ほとんど知らない年上の男。玲史の元セフレの、現恋人。  そして。  今、俺と同じ立場にいる。  危険な状況にある恋人を助けたいと、思ってないわけがない。思っててほしい。思って……協力してほしい。 「俺も話を聞きたいです」   「普通の喋り方でいいよ。そのほうが話しやすいだろ」  幸汰が軽い笑みを漏らした。 「きみは、玲史くんのことをすごく心配してるんだね」 「そりゃ、たとえ……大丈夫かもしれなくても、やられたら……ダメージがないわけがねぇ」  言葉を崩し。 「神野の情報がほしい。居場所を突きとめて助けに行く。出来るだけ早くだ」  訴える。 「あんたは、清崇さんを助けたくないのか? 守りたくないのか?」 「……だけど、今からじゃ間に合わないかもしれない」 「わかってる」 「間に合ったとしても、本人が助けを拒んだら?」  拒む?  助けられたくねぇってか?  邪魔……するなってか?  息をついた。 「その時考える。今はとにかく、玲史のところに行く」  行ける。  守れる。  必ず。  大きく息を吐く音が聞こえ。 「わかった。俺も行くよ。たまきと話す手筈もつける」  幸汰が了承する。 「ツノ駅前のファストフードの店まで来れるか?」 「ああ。すぐに出れば……3、40分後には着けると思う」 「じゃあ、後で」  通話が切れた。  やっと動ける。  とりあえずでも何でも、やれることがある。  これ以上、グズグズしちゃいられない。  窓の向こうに見える青い空から視線を外し、振り返ると。  何の前触れもなく……坂口がいた。 「学校フケてどこ行くのかなー? 風紀委員長さん」

ともだちにシェアしよう!