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115 どこが大丈夫なんだ!?:S
「神野 を知ってるのか?」
幸汰 に聞かれ。
「名前と……玲史が今、ヤツといるだろうってことだけ……」
答えながら、八代のメッセージを口にするか迷う。
「清崇 ……さんも、きっと一緒にいる」
いなけりゃおかしい。
そして。
一緒なら、玲史と同じ状況のはず。
2人そろって呼び出されたのか。別々になのか。
とにかく。
神野のところにいて。ヤツの後輩の八代ってクズもそこにいて。そのクズに、やられる可能性がある……クソッ!
マジでわからねぇ!
何がどうなったら、そんなバカみたいな状況になる!?
八代のメッセージ……清崇も同じ目にあう危険がある。
幸汰に言うべきか?
言っていいのか?
今?
居場所の目星がつく前に?
ついてからのほうがいいのか?
「そうだね。清崇が一緒にいないってほうが変だ」
「どこにいるか、心当たりは……?」
同意する幸汰に問うも。
「ない……な。友達の友達ってだけで、神野のことは名前と顔くらいしか知らないんだ」
期待した答えは得られない。
「清崇さんからほかに何を聞いてる? 恨まれてる理由とか、何か……」
「何も。清崇は俺に何も話してない」
「じゃあ、誰に……?」
「清崇が神野とトラブってるって情報は、講義の前に友達のたまきから聞いたばかりだ」
ダチから……清崇も、幸汰に話してないのか……内緒にして、2人とも何考えて……。
「少ししか話せなかったけど、最後に言われた。『何時間も電話繋がんなかったら、かなりマズいことになってるかもしれない』」
「は!?」
「何があるとしても、相手は普通の大学生だ。たかが知れてると思って特に心配はしてなかったんだけど……きみから連絡が来た。玲史くんも一緒だとすると気になるな」
「幸汰さん」
言おう。
「そのダチの読み通りだ」
言って……そのたまきってヤツから、もっと詳しい情報を聞いてもらわなけりゃ……。
「うちの1年が神野と同じ中学で、ヤツの後輩もこの件に絡んでる。ソイツが玲史を……ヤレるのはラッキーだ、と」
暫しの間。
「ごめん。清崇のせいでそんなことになってるのか」
思ったより落ち着いた声で、幸汰が謝り。
「自分のトラブルに玲史くんを巻き込む理由はわからないけど、清崇はバカじゃない。割に合わないリスクは負わないはずだ。玲史くんもだろ?」
尋ねられ。
「そう、だが……」
答えるも、確信はない。
玲史はもちろん、バカじゃなく。俺よりよっぽど頭が切れる。先も読む。リスク取るのも当然、見合う利と覚悟あってのことだろう。
けど。
今回は。この件に関しては……。
何を考えてるのか、わからない。全く。
沢渡が言ってることも、イマイチわからない。
恋人が危険な状況にあるってのに、ちっとも動揺してる感じがしない幸汰も……わからない。
「玲史くんはケンカも強いんだってね」
幸汰が続ける。
「ああ……」
「大丈夫とは思うけど、一応……」
「どこが大丈夫なんだ!?」
怒鳴った。
「恋人がやられちまってもいいのか!?」
大丈夫じゃねぇ。
大丈夫な状況じゃねぇ。
何で落ち着いてられんだ!?
「いいわけないだろ。清崇はもう俺のモノだ」
静かに、幸汰が言う。
「プレイならともかく、俺以外の人間にやられるのは気分悪いよ」
「は……?」
「それに。どんな場合でも、あいつの意に反して犯すのは……許さない」
「だったら……!」
「大丈夫なのは清崇たちだ。俺はムカつくし、面白くない。きみも嫌な気分になるだろ?」
返す言葉に詰まる。
嫌とか気分とかじゃねぇ。もっと……何だ? ツラい苦しい悲しいとか怒りとか、そんなわかりやすいもんじゃなくもっと……叫びたい何か。胸ん中、咬みつかれみたいな……。
いや。
それよりも。
「何が、大丈夫なんだ? もし、玲史がヤツらに……何で大丈夫って言える?」
「俺に嘘ついて自分から神野に会いに行ったってことは、清崇の意志だ」
淡々と答える幸汰。
「実際にそうなってるなら、やられる可能性も考えたはず。だから……清崇は大丈夫だ」
言い切るのは、自信があるのか……願ってか。
「玲史くんも、自分で選んで決めて行動出来る人だと思うから」
反論する気が起きないのは、俺自身もそう思ってるからか。
ただ……思ってはいても。理論的に合ってるとしても、理解が追いつかない……ってより。
玲史がソレを選ぶ理由がわからねぇ。
俺を守る?
リスクに見合う?
わからねぇ。
つき合ってるってのに。
長く友達やってるってのに。
沢渡や幸汰のほうが玲史を理解してるみたいで……情けねぇ。
「幸汰さん」
冷静になれ。
こうしてる間に時間は過ぎる。
わからないことは玲史に聞け。
「たまきって人に会わせてください」
ぞんざいな口調になってたのを改める。
幸汰は……ほとんど知らない年上の男。玲史の元セフレの、現恋人。
そして。
今、俺と同じ立場にいる。
危険な状況にある恋人を助けたいと、思ってないわけがない。思っててほしい。思って……協力してほしい。
「俺も話を聞きたいです」
「普通の喋り方でいいよ。そのほうが話しやすいだろ」
幸汰が軽い笑みを漏らした。
「きみは、玲史くんのことをすごく心配してるんだね」
「そりゃ、たとえ……大丈夫かもしれなくても、やられたら……ダメージがないわけがねぇ」
言葉を崩し。
「神野の情報がほしい。居場所を突きとめて助けに行く。出来るだけ早くだ」
訴える。
「あんたは、清崇さんを助けたくないのか? 守りたくないのか?」
「……だけど、今からじゃ間に合わないかもしれない」
「わかってる」
「間に合ったとしても、本人が助けを拒んだら?」
拒む?
助けられたくねぇってか?
邪魔……するなってか?
息をついた。
「その時考える。今はとにかく、玲史のところに行く」
行ける。
守れる。
必ず。
大きく息を吐く音が聞こえ。
「わかった。俺も行くよ。たまきと話す手筈もつける」
幸汰が了承する。
「ツノ駅前のファストフードの店まで来れるか?」
「ああ。すぐに出れば……3、40分後には着けると思う」
「じゃあ、後で」
通話が切れた。
やっと動ける。
とりあえずでも何でも、やれることがある。
これ以上、グズグズしちゃいられない。
窓の向こうに見える青い空から視線を外し、振り返ると。
何の前触れもなく……坂口がいた。
「学校フケてどこ行くのかなー? 風紀委員長さん」
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