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117 守れるに決まってる:R
「玲史か!?」
たまきに。大声で聞かれた。
ついこの間知り合ったばかりで。流れで連絡先は交換したけど、連絡取り合う機会があるとは思ってなくて。初めて電話したんだから、そのナンバーが本当に僕に繋がるかどうか定かじゃなくて。
だから。
確かめるのはアリだけど。
「うん」
「たまきだ。この前、アダショで会った……」
どこか切羽詰まったような声。
「うん。どうしたの?」
「あんた、無事か!? 神野 と一緒じゃねぇのか!? 清崇 もいんのか!? 今どこ……」
「ちょっと待って」
質問攻めのたまきを遮り、黒髪を見るも。
たまきの声が聞こえてるのか、いないのか。無言。助言も警告もナシ。
「神野も清崇も一緒だよ」
とりあえず、答えてオッケーな事実を。
何でかわからないけど、たまきは知ってるみたいだから。
そして。
もしかしたら、この状況も……無事かどうか聞くのは、ある程度は知ってるんだろう。全部じゃなくて。
どこから、どうやって……なんて、決まってる。
幸汰 からだ。
たまきは幸汰の友達で、清崇と幸汰がつき合ってるのも知ってる。
問題はそこ。
よけいなこと喋られたら、僕と清崇の計画がダメになる!
マジでうまく話さないと。
たまきは神野とも友達で。僕と清崇のことは勘違いだったって、神野に伝えたいのに連絡つかないって言ってたけど……いつ、神野がたまきと話す気になってもおかしくない。
たまきに口止めしてなかったのは、痛いミスだ。
「もちろん、無事。ちょっと誤解があって……話し合いするために会ってるだけだもん」
「けどよ、幸汰が……」
「心配してくれてるんでしょ。友達思いだよね、すごく」
焦らない。名前出されても問題ない。
神野も同じ大学で。幸汰は清崇の友達で通ってて、恋人関係なのは隠してる。
「ありがとって伝えといて。僕と清崇は大丈夫。絶対に別れないから」
たまきが話す前に、どんどん言う。
「僕たちが本当に本気でつき合ってること、ちゃんと神野にわかってもらう。だから、心配しないで」
「あんた、何……」
「たまきさん」
これ以上はヤバい。
たまきはバカじゃないと思いたい。
僕と清崇は恋人関係にある。たまきが撮った写真のせいで、神野はそう思ってる。
ソレをそのまま、本当にしようとしてるって……わかっくれたよね。その理由はわからなくても。
「詳しいことは後で」
話は終わり。
お願いだから、終わりにして。
「けど……紫道 ってヤツが……」
「あー、あの子は友達の中で一番の心配性なの。大丈夫って伝えといて」
たまきが何を言おうとしたのか知らない。
何だろうが、言わせない。
「時間ないからさ。僕たちの邪魔、しないでくれるかな?」
声に少し凄味を加えた。
伝わったのか。
数秒の間。
「そこがどこか教えてくれ」
たまきが言う。
視界に入る続き部屋へのドアが開き、神野が出てきた。
「内緒」
教えられない。
電話を切りたい。早く。
「何かあった時のために、教えてくれ」
「何もないよ」
最悪のことは、何もない。
そのためにも、話は終わりにする。
「あるだろ」
引き下がらないたまきに、怒鳴りたくなるのをこらえる。
もうブッ切りしたい!
でも。
またかけてくるでしょ。電源落としたら、神野にかけるでしょ。よけいなこと言われたらヤバいでしょ。
たまきが幸汰と繋がってるのは知ってたけど、紫道の名前が出たってことは……。
紫道が幸汰に連絡したんだよね、きっと。で、たまきとも情報共有。
つまり。
紫道は……僕への連絡手段を断っても、神野に電話もメッセも出来る。
当然、幸汰もだ。
だから。
ここで終わらせないと。どうにか、たまきを納得させないと。何とか……僕と清崇が恋人同士のテイで神野と会ってる理由を、察してもらわないと。
プラス。
僕たちの身は案じなくていいって、幸汰と紫道に伝えてもらうようにしないと。
「たまきさん。本当に大丈夫だから……」
「たまき?」
すぐ近くまで来た神野が反応した。
「貸せ」
え!?
「ずっとシカトしてたが、ちょうどいい。俺が話す」
伸ばされた神野の手。
拒否出来ない。する意味ナシ。ためらうのは怪しいだけだし。たまきと神野が話すのに、僕のスマホである必要ないんだし。
どう、しようもない。
神野にスマホを渡し、清崇と目を合わせる。
不安そうな瞳に映る僕も、同じ瞳をしてるのかな?
たまきをほとんど知らないから、信頼とかない……けど。
僕が清崇の恋人じゃないって伝えることはないと、信じてる。
僕たちそれぞれに本当の恋人がいるってバラさないと、信じてる。
たまきを、じゃない。
信じるのは……別の何か。
紫道を守りたいって。僕が思ってるんだから、守れるに決まってる……そう思える、何か。
「聞いた通り、清崇も玲史も無事だ」
神野がたまきと話す。
「ああ。こいつらは自分からここに来たんだぞ」
思ったより、たまきの声は聞こえず。内容はわからない。
「俺が知るわけないだろう。は?」
少しの間を置き、神野が笑う。
「さあな。お前に教える義理はない」
たまきがよけいなこと言ってる感じはナシ。
「時間のムダだ。もう切るぞ」
よかった……。
「何をって……話し合いはもう終わる。たぶん、そのあとはパーティーだ」
え……。
「は? そうだ。こいつらを最高に楽しませてやる」
たまきじゃなく。
よけいなこと言ってるじゃん! 神野が!
「じゃあな」
通話を切って、神野が僕にスマホを放る。
「電源オフにしとけ。邪魔が入ると気が削がれるだろ」
言われなくても!……って。そんなことより。
何言ってくれちゃってるの!?
何て聞かれたか知らないけど、うまくごまかすものじゃない? 保身のためにも。
今の言い方じゃ……僕たちを楽しませるって……パーティーって……。
「何がパーティーだよ?」
清崇が声を荒げる。
「俺たちをボロボロにして楽しむのはそっちだろうが!」
「……博己 を選ぶ気はない、か」
「おう。玲史と別れる気はねぇ」
「まぁ、そうだろうな」
僕たちの選択に、神野は驚かない。
当然。ハナからわかってたはず。神野の狙いは最初から、僕たちへの理不尽な復讐で。逃れる術はナシ……っていうか。
今ここから逃げてリスクを負うのはノー。
紫道にかかるリスクは負わない。
「わかったんなら、さっさと……勝手に楽しめばいいだろ」
「ああ。大いに楽しませてもらう。だが、お前らも遠慮する必要はない」
神野が唇の端を上げる。
「ボロボロにするのはお前らの精神だ。嫌というほど身体は喜ばせてやる。好きな男の前でほかの男に犯されて、みっともなくイキまくれ」
「っざけんな! このクソ野郎ッ!」
キレる清崇に。
「そのクソ野郎主催のパーティーに参加を決めたのは、お前自身だ」
冷静に言い放つ神野。
勝手な理屈でほぼ一択の選択をさせたくせに、僕たちの意志だっていう……合意の乱交? 輪姦プレイ? 博己のため? 自分の趣味?
殴り倒して立ち去りたいのを我慢するのも、そろそろ限界。早く、逃げるチャンスをなくしてほしいところ。
早く終わらせて帰りたい。
紫道を安心させてあげなきゃ。
沈黙に、部屋のチャイムが鳴った。
「友井 」
神野に呼ばれた黒髪……友井が、ドアへと向かう。
「招待客が到着だ」
静かな視線で、神野が僕と清崇を交互に見やる。
「気に入るといいが……」
「リュウさん、今日はあざす!」
「どうも。ゴチになります!」
ムダに元気よく現れたのは、見覚えのある茶髪と黄髪。
予想してたけど、気が滅入る。
クズとつるむのはクズ。クソヤローが招待したクソヤローども。
「八代と城戸 だ」
神野が紹介する。
茶髪の八代。黄髪が城戸。
「そして、友井」
黒髪の友井。
神野が全員を見回し。
「お望み通り、さっさと始めようか」
楽しくないパーティーの開始を宣言した。
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