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118 高いでしょ:R

「こいつら、ケツ洗わせていっすか?」  重い腰をソファから上げたところで、八代が神野(じんの)に言った。 「スカトロ苦手なんすよね。せっかく、こんな豪勢なとこでやれんだし」 「もちろんだ」  神野が頷き。 「準備して来い」  僕たちに指示する……のは意外だった。  何がって。  僕たち自身にさせるのが意外。  アナルの準備ってさ。散々セックスしたことある相手に見られるのも嫌だって認識なんだけど。だから、Sとしてはやりたくなる。  羞恥を与えために。羞恥で興奮するMを見て楽しむために。  アナルを本人にキレイにしてもらってから犯すって……もしかして、マジモンのレイプ経験はないんじゃないの?  レイプ被害者がそんな協力的なわけないじゃん?  まぁ、いいや。  自分で準備出来るならラク。してやるのはシャクだけど、僕も大スカは好物じゃない。自分がネコでやるのは、なおさら。  ネコ自体、好きじゃないってより嫌なのに。 「最速で! 俺のちんこ、スタンバイオッケーだから」 「早くしねぇと、最強オナニストは自分で抜いちまうってよ」    城戸(きど)と八代の下品な笑い声を背に、清崇(きよたか)とバスルームに向かった。  交互にトイレを済ませ、広い洗面台の前で服を脱ぎ。丸いバスタブ横にあるシャワーのお湯を出してから、清崇が恋人同士のガワを外す。 「確認しときたいんだけどよ」  休憩ナシのはずが、思いがけずアリになって。ラッキー……なのかな? 気が緩んでよけいなこと考えちゃマズいけど。  せっかくの2人きりだし。  この先はノンストップだろうし。 「何?」 「お前……突っ込まれんの、初めてじゃねぇよな?」  遠慮がちに尋ねられ、笑みを浮かべる。 「まさか。中学の頃何回か。あとは去年。ナンパしてきた男と遊んだら、タチの悪いヒモ持ちで……運悪く捕まってマワされたのがラスト」  そのラストの時を思い出し。 「久々に使うから解しとかなきゃ」  ムカつく経験で学んだことを、ここで活かす。  アナルは切れると痛い。  どこの皮膚も切れればいたいけどさ。基本、そっとしておけるじゃん。触らないように刺激与えないように。  アナルは放っておけないとこだから。治るのも早いけど、その数日が痛い。歩くのも座るのも。アレはけっこうキツい。 「そうか……」  微妙な表情をする清崇。  この話すると、みんなこういう顔になるんだよね。  暗くも明るくも出来ない感じ? レイプされた悲壮感がないから? 健気に平気そうにしてるのかもって勘繰っちゃう? 笑えるものじゃないし? でも、同情っぽいのもなんだかなぁって? 「僕が処女だったらやめた?」 「……わからねぇ。今まで考えてなかった。悪い」  正直な子。 「やめれないよね」  処女じゃなくてよかった。 「きみも。今日は自分で解しといて」  言い残し。洗面台横のシャワーブースへ。  シャワ浣するの見る見られしながら話すのもなんだし、こっちにもあってちょうどよし。  中を流し。ソープを少しつけてアナルの口を洗いながら、ヒダを伸ばす。割と雑に。タチとしてネコのを解すみたいに丁寧に解す時間はないし。愛撫要素も不要だし。  切れない程度に……。  あ、でも。  アイツら、レイプ慣れしてないなら。  流血したらびびって控えめになるかな?  絵的にもボロボロさが増して、神野が満足するの早くなるんじゃない?  ヘタクソに犯されて中途半端に快楽与えられるより、痛みのほうが身体はラク? 少なくとも最中は。  あー、でも。  逆に興奮されたらマズいか。  一見して真性サドはいなそうだったけど、セックスで変わるヤツもいるし。  痛いのは嫌いだし。  クズのちんぽにヨガって傷つくプライド、ある?  優先順位はハッキリしてる。    グリグリ。さっさと。十分とは言えないけど、切れちゃわないくらいに解そう。    準備完了してブースを出ると。  バスタブのフチに腰かけて、清崇が俯いてる。  僕をチラッと見て、また下を向く清崇に。 「どうしたの?」  聞かないわけにはいかないけど。  気が変わったとか言われたら、どうしよう。 「俺さ、レイプしたことねぇ」  僕が隣に身を落ち着けるのを待って、清崇が言った。 「うん。するようなクズじゃないでしょ」 「されたこともねぇ。お前と幸汰にしか、抱かれてねぇ」 「あー……」  そっか。 「怖くなった?」 「……つか、自信がねぇ。レイプされんのに……あいつの言う通り、イキまくっちまったら……幸汰に会わす顔がねぇだろ」  なんだ。そんなことか。 「ソレは仕方ないの。そういうふうに出来てるんだもん。気にしなくてオッケー」 「……正気なくして自分からほしがっても、か?」 「そ。僕の目の前でほかの男に腰振って喜んで、クズのちんぽほしがるの。そうさせて、神野が言うの。『誰でもいいんだろ? 所詮お前らはその程度だ』」  清崇が顔をしかめる。 「で、自己嫌悪。相手も同じなの見て、さらにショックで心はボロボロ?」 「クソ野郎が……。あー殴られるほうがよっぽどマシだな、マジで」 「だね。なら……」  クズにやられる恐怖があってもクズ相手の快楽に溺れる恐怖があっても。 「レイプって思わなきゃいいじゃん。実際、一応合意だし」 「嫌々、超不本意にだっての」 「それでも。やられるんじゃなく、自分からやると思えば? アイツらは客。きみはウリ専」  こう思えば、自己嫌悪は減るはず。 「何だソレ。よけいワリィわ」  清崇の眉間の皺が深くなる。 「俺、んなに安かねぇぞ」 「高いでしょ。幸汰(こうた)くんの安全と引き換えだもん」  僕は紫道(しのみち)の。   「ちょっと身体使わせて、ボロボロになるフリするだけ」 「は……」  表情を緩めて、清崇が鼻で笑う。 「お前のキモ、据わり過ぎだろ」 「そうかなぁ」 「……弱気んなって悪かった。もう平気だ」  清崇の瞳を見る。  オッケー。  大丈夫。 「じゃ、僕からひとつ」  念押し。 「アイツらの前では、本当にホントの恋人同士のフリね」 「おう」 「僕が何言っても何しても演技だから、本気にしちゃダメ」 「……おう。俺のも気にすんな」 「泣いて頼んでも、計画変更しないでよ。僕もしない」 「……わかった」 「うん」  立ち上がり、息を吐く。  さ……てと。  行くかな。

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