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120 問題ナシ:R

 八代から僕を引ったくってベッドに連れていく博己(ひろき)に、誰も何も言わない。  ヤル気満々でお預けを食らった八代も。僕の恋人のテイの清崇(きよたか)も。清崇の横でスタンバイしてる城戸(きど)も。今のところ傍観者の友井も。この場の支配者であるはずの神野(じんの)も。 『あなたを、俺が抱くよ』  その声がひどく冷たくて。低く響いて。  そのセリフを吐いた博己の瞳が真っ暗で。  纏う気配に圧はないのに、逆らえない緊張感で空気が固まってるふうで。  妙な静けさの中。  ベッドに引っ張り上げられ、バスローブを剥がされ。シーツに手膝をつかされる。ほぼ正方形のベッドのヘッド側。清崇たちのいるほうを向いて四つん這い。  とりあえず今は、抵抗せず。無意味だし。誰からがいいとか、ないし。  ただ…。  神野は、博己が僕をやるのはいいんだ? 想定内?  清崇が博己を抱く選択肢はあったんだから、博己が清崇を抱くのもいいとして。  さっきの。博己からのオファーでも、僕が抱くのはストップかけたはず。たぶん。  なのに。  タチならいいのかな?  それとも。  目的かな? やっぱり。 「清崇。いいんだよね」  博己が聞く。というより、確認。  ダメだって返事がくるとは思ってない。『待て』や『代わりに俺を』って言うところは過ぎたから。  無言は肯定。 「この人が犯されるとこ、ちゃんと見てて。自分がやられる前に」 「ちょっ、これ以上待てねぇって……」 「悪いが、我慢してくれ。せっかくのショーだ」  博己の言葉に声を上げた城戸を、神野が制す。  短く溜息をついた。  ショーって。  衆人環視はアリ。屈辱で感度増す相手を攻めるのは楽しいし。露出癖開発にもなるし。  けど。それは、自分がタチでやるならの話。  Sだし。痴態晒して興奮する性癖じゃないんだけどなぁ。  まぁ、避けられないみたいだから……演じるしかないか。  恋人との未来を守るために身体を差し出すのを厭わない男を。出来るだけ早く満足してもらえるように、大げさに反応して。クサい演技で。ウソもついて。 「後悔させてやる」  耳元に博己の息がかかる。 「清崇も。あなたも」 「しないよ」  顔を横に向け、博己を見る。 「きみは?」 「……どうかな。でも、壊れ損ねたからもう……傷つけるしかないだろ」  正気と狂気の間にいるみたいな瞳に欲が浮かべ、博己が視界から消える。  ベッドが軋んで。  広げられた脚の間に博己の膝。 「んっ」  冷たいローションを尻に垂らされ。 「抱かれたこと、ある?」  聞かれ。 「なかったら、やさしくしてくれる?」  聞き返す。 「まさか」 「うッあ……」  素気ない答えと同時に腰を掴まれ、アナルに博己のペニスがあてられて。そのまま強引にねじ込まれ。 「いッ……つッ!!」  重く鋭い痛みに声を上げた。  バリタチだし。処女じゃなくても、超暫くぶりだし。  だから、ケガしない程度には解しといたけど。予想はしてたけど。  痛い!  切れてはいないっぽいけど、痛い。いきなりは、痛い。  セックスしたい気ゼロだったし。  愛撫されてその気になってるなら、まだしも。勃ってさえいないとこ力づくにだから。  博己は、よく勃つよね。この状況で……この状況だから?  ムリヤリシチュに燃える性癖もあるし。レイプする人間は、ソレ系か自分の性欲しか見えないサル系だし。  あとは、理由目的がある系か……。 「玲史……!」  清崇が僕を呼ぶ悲痛な声。  自分がフった元セフレに恋人を犯されるのを見るのはツラい。自分が犯されるよりも。自分の選択でも。  演出は重要。 「はぁ……きっついね。この人、ほんとにタチなんだ」  博己の言葉は清崇へ。  でも、返事はない。 「ッく……」  先っぽだけ埋ってたペニスがググッと中に入ってきて、息を詰める。 「清崇に顔見せて。声も出して。助けて……とか、泣くとか」  無視して下を向いてたら、髪を掴んで引っ張られた。けっこう乱暴に。  上げさせられた視線を、清崇に留める。  大丈夫。問題ナシ。  そういう表情は出来ないのはわかってるはず。お互いに。  だから。  実際は平気だけど、苦痛に耐える顔をしてみせる。眉を寄せて僕を見る清崇がツラそうなのは気にしない。 「やめろって言わせたかったな」  博己が僕の髪を放し、腰を掴み直した。 「言わない。言ったとしても、清崇は降参しない」  まだ、普通に話せる余裕はある。 「ムダだよ」 「そうだね。もう、清崇は手に入らない……わかってる。もう、俺を抱かない」  独り言みたいに呟きながら、博己が腰を振り始める。 「ぁッい……ッ!」  痛っ!   刺激に不慣れな腸壁を無遠慮に擦られて、削られてるみたい。気持ちイイには遠いけど……このほうがいいか。  まだ1人め。今から快感で攻められるよりマシ……ッつ! 「玲史も……玲史に抱かれて清崇と同じ気持ちにも、なれない。もう、ほかにないから。堕ちるとこまで……堕ちたい。玲史を傷つければ、清崇はもっと傷つく……」 「きみにやられても傷、なんか……つかない。明日には……忘れる」  反論してみるも。 「俺さ、本当に好きだったんだ。だから……タチの練習もした。まだうまく出来ないけど」  会話が成り立たない。 「龍介は約束通り、清崇を連れてきてくれて。チャンスをくれて今、俺を見てるよ」 「っあ……んッ……!」  イヤなのに。  イヤでも。痛みの中から、身体が勝手に快感を拾う。  狙って突いてるわけじゃなさそうでも。時折、的確に。前立腺にペニスがあたる。その快感は、否応ナシだ。 「抱かれるのって、気持ちいいっよねっ」 「ん、うッあ……ッ!」 「どんなひどいことされてもっ……感じるように作られてるのって、気持ちよくなるのって……不幸? 幸運?」  博己のペニスの動きが速度を増す。  ただでさえ慣れてないギチギチのアナルのナカを、擦って抉って往復する。 「俺が玲史を、イカせたら……清崇は嬉しい、かな……っ!」  静かだから。  声、聞こえてるよね。  この異様なテンションでガンガン腰振る博己に、気圧されてる? 興奮してる?  肉が肉を打つ音。  僕の喘ぐ声。  博己の息づかい。  誰か何か言ってよ!  生理的な涙で滲んで視界が悪いけど。みんな、ガン見してるんでしょ?  清崇は?  神野は?  く……ッヤバ。完勃ち。  でも、この感じだと……ナカだけじゃイケない。快感はくるけど。声も出るけど。イキたいとかじゃないけど。神野が満足するほど乱れるとか、ない……。 「博己」  神野が口を開いた。 「無理しなくていい」 「してないよ、すごい……キツくて、アツくて……気持ちよくてッ……くッ……!」  博己の指が皮膚に食い込む。  男を抱き慣れてなくて。たぶん、セックスも久々で。さらに、何割かはどっかイッちゃってるみたいな頭で犯してたら……イクの我慢するの大変そう。 「続きはコイツがやる。あとは、まかせろ」 「う……んッ」  神野の言葉に。博己がペニスをギリギリまで引き抜いて、突き挿れる。 「じゃ、あっイこうッ……か、な……ッ」 「くッ……ふッ……あッッッ!」  射精に向けてピストンを速める博己の動きに、鈍くなった痛みと快感がせめぎ合う。  アナルの中いっぱいのペニスが脈を打つ。 「んッあ、イクッ! ん……ッきよた、かッ……ッ!」  好きな男の名前を呼びながら、僕のナカで博己がイッた。

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