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123 俺のためだってのか!?:S

 今。玲史は清崇(きよたか)と一緒に、神野(じんの)のところにいるはずで。そこには八代と、ほかにも仲間がいる可能性が高く……ヤツらに輪姦されるかもしれない。    そこがどこかわからないが、必ずそこに行く。  そのための情報を求めて来たファストフード店。沢渡(さわたり)と坂口とともに、清崇の恋人の幸汰(こうた)と……神野の友達、たまきが待つ奥のテーブルへ。 「悪い! どこにいるか聞き出せなかった」  テーブル越しに向かい合った俺に。開口一番、たまきが言った。 「玲史も神野も、口割らねぇ」 「は!?」  挨拶もなく本題で。  疑問だらけで。 「話したのか!? 何であんたが、玲史と!?」  答えを待てない。 「いったいどうやって……!?」 「紫道(しのみち)くん。落ち着いて」  幸汰の声に耳を貸さず。 「神野か? 一緒なんだな!?」 「川北さん」  問いを重ねる俺の腕を、軽く掴んだのは沢渡で。 「話を聞かないと」  隣に座る冷静な後輩をチラッと見やり、息を吐き。 「いつ……?」  もうひとつ、問う。 「話したのは、いつだ?」 「幸汰が俺んとこ来てすぐ、30分くらい前か」  たまきが答える。 「神野に電話しても出ねぇから、玲史に。この前……アダショで偶然会って、もしもの時のためにナンバー交換してあったからさ」  もしも、の時……。 「ナンパじゃねぇよ。清崇とのツーショ、撮ったの俺で……神野にそれやったのも俺」  あの画像……。 「神野に勘違いさせちまったの、謝りたくて声かけて。なんかヤベぇことになったらって、マジでなっちまって……すまねぇ」 「きみのせいじゃない」  静かな、幸汰の声。  幸汰が言うなら、そうなんだろう。そうでいい。  何がどうなってこうなってるのか。わからないが、今は原因はどうでもいい。  それより。  たまきからの電話に出たのが、思いのほか……ショックだ。 「で、玲史に聞いたら。清崇も神野も一緒だ。誤解があって話し合いするために会ってるだけで無事。ありがとって幸汰に伝えて……って」 「……無事?」  眉を寄せる俺を見るたまきの眉間にも、浅くない皺。 「『僕と清崇は大丈夫。絶対に別れないから』って、玲史が……」 「……は?」 「俺にもわかんねぇよ。本気でつき合ってるって神野にわかってもらうから心配しないで、つったんだ。意味不だろ?」  誤解……別れない……わかってもらう……? 「あんた……紫道にも大丈夫って伝えといて、つって」  大丈夫……? 「あと、邪魔するな……ってマジ声で。どこか教えてくれっつっても、内緒だと。何もない大丈夫しか言わねぇ」  邪魔……? 「そんで、神野に代わった。ここ一週間、何遍かけてもシカトしやがってたくせによ」  神野と一緒にいる……ほぼ確実だと思ってたが、これで100パーセント……。 「清崇も玲史も無事。ラチったのかって聞いたら、自分からここに来た。何でダチにも内緒でコソコソする必要があるんだって聞いたら、知るわけねぇだろ……って」  たまきが溜息をつく。 「何で清崇とつき合ってるフリしてるかってのは、聞かなかった。聞いちゃマズい気がして」  どう……して聞かねぇんだ? 「もちろん、どこにいるかは聞いたけどよ。教えちゃくれなかった」  どこに……それがわかれば! 「玲史が言った話し合いのためっての、ウソくせぇからさ。何するつもりか聞いた」  たまきが俺を見つめる。 「話し合いのあとは、パーティーだと」  陰る瞳を、見つめ返す。 「意味がわかった。神野に仲間がいて……やられるかもって、幸汰が言ってたからな」  俺の瞳も陰りを増したみたいに視界が濁る。 「マジでやるつもりか? 玲史と清崇もそのつもりなのかって聞いたら……」  知りたくない答えに、息を詰める。 「そうだ、楽しませてやる……ってよ」  玲史……。  何だそりゃ?  マジで、なのか?  お前の意思か!?  わからねぇ。  心底わからねぇ。  何が理由だ?  どんな理由だ?  そうする理由がどこにあるんだ? 「電話切られてから、もう繋がらねぇ」  たまきがテーブルに拳を打ちつける。 「何がパーティーだ。好き好んでやるはずがねぇのに、何で逃げねぇんだ? 弱みでも握られて脅されてんのか?」  俺の。たぶん、幸汰の中にもあるだろう問いを口にするたまきに……答えられない。わからない。見当も……。 「そうしなきゃ、守れないんだと思います」  短い沈黙を破ったのは沢渡。 「高畑さんは川北さんを守りたいから。清崇って人も……」 「俺のためだってのか!?」  声を荒げた。 「何で、クズにやられるのが俺を守るためになる? お前は始めから、そうやってわかったふうに……」 『あの人も言ってました。メッセージで。川北さんを守りたいから…………って』  俺には何も起きちゃいねぇ。何のトラブルも抱えちゃいねぇ。誰かにやられそうになってもいねぇ。 「今、守られんのは……守らなけりゃならねぇのは、玲史のほうだろ!?」 「落ち着けよ」  いつの間にか隣に座ってた坂口が、ストローつきのカップを俺の目の前に置いた。 「これ飲んで。ちょっと頭冷ませって」  いつもと同じ軽い口調に、睨みつけると。 「カッカしてムダにする時間あるのかよ」  鋭い眼差しを返された。  冷たくて苦いコーヒーをガブ飲みして、深呼吸する。  本当のところは、玲史にしかわからない。  沢渡の読みが合ってるかもしれない。  全然違う理由があるのかもしれない。  今は、わかりようがない。  なら、わかってることだけで動くしかない。  出来るだけ早く、玲史のところへ。 「あんたが一番、神野を知ってる」  たまきを見て。 「どこにいるか……どこにいそうか……」  膝の上の拳を握りしめて。 「隣の906。コレで思いつく場所はあるか?」  尋ねた。

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