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132 無理だ:S

 俺はどうしたいのか。  幸汰(こうた)に聞かれる前から、ぐるぐる回る思い。  邪魔……守るため……守りたい……どうすりゃいい……何を選べば……何が最優先か……俺に、何が……出来るか……俺は……何を……したい?  玲史を守る、守れるって気持ちは変わってねぇのに……。 「わからねぇ」  答えを待つ沈黙に呟いて、頭を振る。 「俺は……俺も、玲史の邪魔はしたくねぇ」 「うん。そこが同じでよかった」 「けど……邪魔はしねぇが、何か……俺に出来ることが……」  変わらない冷静な声で頷く幸汰に、言いかけるも。 「ないよ」  遮られ。 「今は、何も出来ない」  キッパリと言い切られる。 「清崇(きよたか)たちが今してる取り引きみたいなものを、無効にしないでやめさせる方法はない。今やめさせるのは、邪魔をすることになる」 「……あるかもしれねぇだろ。もっと考えりゃ……」  食い下がるも。 「ないんだ。俺ときみが清崇と玲史くんの恋人だって事実は、絶対に隠し通さなきゃならない。それが一番重要だとすれば、なおさら」  幸汰の言うことはもっともで。 「わかってる。わかってるが……何も出来ねぇのか?」  でも。 「ここで、こうして……ただ待ってろっていうのか?」  無理だ。  玲史がやられてんのに……。 「そうだね。コトが終われば帰って来る」 「終わるまで……?」  ここで。ただ。じっとして、待ってなきゃならねぇってのは……。 「今日中には解放されると踏んで、清崇は俺に内緒で行ったんだ。何回やればヤツらの気が済むのかわからないけど、長くはかからないと思う」 「……無理だ」 「今出来るのは待つこと……」 「無理だっつってんだろ!」  理屈はわかるが、感情がついて来ねぇ。 「あんたは平気でも俺は……」 「耐えられない?」  激する俺に幸汰が尋ねる。 「俺は平気だ。清崇も玲史くんも平気なはず。耐えられるから、こうなってる。でも、きみは耐えられない? 平気なフリも出来ない?」  幸汰の瞳は、鋭く強い。俺と同じ怒りがある。当然だ。なのに、動じない。 「玲史くんを信じられない? ただ待ってあげることも出来ないのか?」  立て続けの問いに答えられない。  玲史のために耐えて待つ。  それがベストか?  それしかないのか?  それが玲史のためになるのか?  それであいつを……守れるのか!? 「906号室に行きたいなら、ひとりで行っていいよ」 「は!?」 「俺も賛成です」  幸汰の言葉に、沢渡が続く。  突然の方向転換に戸惑いつつも腰を浮かせる俺の腕を、坂口が掴み。 「行ったら通報されて捕まるぜ」  溜息をつく。 「よけいなこと思いついて動かれるより、そのほうが安心って……意地悪いな、幸汰さん?」 「本当に今行くようなら、本当に邪魔されそうだからね」  幸汰も溜息をつき。 「川北に協力してんじゃないの、沢渡?」 「……俺は高畑さんの味方だから」  沢渡が肩を竦めた。 「早まるなよ。考えられるだけ、考えようぜ」  俺に視線を戻した坂口が、励ますように頷いた。 「クソッ……」  腰を落とし、深息を吐いた。  場がシンとなり。坂口のスマホから漏れる小さな呼び出し音が聞こえ、消える。  5分おきに友井にかけるってのを、出るまで続けるとして。出るまで何回かけるのか。出るのか。出るとしたら……終わったあとか。  それに何の意味がある……その間中、ずっと……。 「たまき、遅いな」  幸汰が口を開き。 「何かいい情報見つけたのかもしれない」  俺を見る。 「紫道(しのみち)くん。俺だって、まだ諦めてないよ」  微笑む幸汰に、コクッと頭を下げた。  自分の無力感と焦燥感をぶつける相手は、この人じゃない。  冷静さを見倣うのは難しいかもしれないが、頭に血上らせてんじゃ……マジで役立たずだ。  考えろ。耐えろ。信じて、待つ……。  視線を下げたままの俺の目の前で、坂口が手をヒラヒラさせて注意を引き。 「お前の気持ちはわかる、とは言わないけどさ。実際問題として今は……お前に出来ること、ねーよ」  顔を上げた俺に話し始める。 「リュウさんに言ってもムダ。高畑とは連絡取れない。部屋に行っても入れない。どうにか強引に入れたとしても、それはあいつらの計画をブチ壊す」 「……待つしかねぇのか」 「その時間を短くするには、コイツ」  坂口がスマホをタップする。 「なんとかもう一度、友井と話す」 「……電話に出なけりゃ、話しようがねぇだろ」 「そう。だから、強力な助っ人に応援を依頼中」 「は……?」  坂口を見つめる。 「誰に……?」 「友井の好きなヤツ。俺の電話に出ろって頼んでもらう」  は……!? 「ああ、そういうことか」  幸汰はすぐにわかったらしく。 「好きな相手からの電話やメッセージなら無視しない」  坂口の意図を先に言う。 「同時に、脅しにもなる」 「メッセでさりげに脅したら、電話かけてきたじゃん? そこでキッチリ言っときゃよかったのに頭回らなくて……友井にも思い出させてやるぜ」  坂口が唇の端を上げる。 「やっぱ知られたくねーもんだろ。クズなことやってるってのはさ」 「そう……だな」  俺には思いつきもしなかった策。  コレを、終わりに出来るかもしれない策……。 「ただ、博己(ひろき)も電話に出ない。既読もつかない。連続取るの自体、半年ぶりくらいだけど」   博己……っつうのか。  友井にも……クズにも、好きなヤツがいる。  神野にも彼女がいるらしい。  好きなヤツがいるのに、どうして卑劣な真似が出来るんだ? 「ほかに出来ることはないし、出来ることは何でもやっておきたいから。その子からの返事を待ちながら、友井に電話をかけ続けて……」 「無理だと思います」  沢渡が幸汰を遮った。 「博己先輩の頼みでも友井先輩はきかない。電話には出てくれるかもしれないけど、やめてはくれない」 「何で?」  坂口が眉を寄せる。 「お前、何知ってるの?」 「友井先輩が博己先輩を好きなことは、俺もよく知ってます」 「だから?」 「友井先輩と神野先輩の復讐は、きっと……博己先輩のためです」

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