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139 幻なのに?:R

「ギリだったね」  友井たちが来客の対応に動く前に、バスルームに入れて。 「最悪なとこ見られなくてよかった」  ホッとして笑みを浮かべる僕を見つめる清崇(きよたか)は、超シリアス顔……あー見られてるんだった。  犯されてる真っ最中を! 画面の向こうからだけども! 「玲史……」  やっぱり、清崇も気づいてた? 「友井にやられてるの見られたけど、ちょっとだし。きみのほう、神野は挿れてなかったみたいだし」 「……お前、大丈夫か?」 「まぁ、紫道(しのみち)はショックかもしれないし怒ってるだろうけど。大丈夫でしょ」  知られずに済ます予定だったから……気マズいなぁ、ほかの男とセックスしてすぐ顔会わすの。何もないフリして黙ってたし。清崇と一緒だし。浮気とかじゃないけど、紫道にしたら不愉快……。 「違う、お前だ。大丈夫なのか? あいつらに、やられて……」  え!?  そこ?  今、そこから!? 「すげーツラそうに俺を、呼んでたろ。俺のせいで……ごめんな」  真剣に心配顔の清崇の眉間には深い皺。 「大丈夫だよ」  目を見てハッキリ。 「アレは演技。はじめに言ったじゃん? きみのせいでもない。僕は紫道を守るため。きみは幸汰(こうた)くんを守るため。つまりは自分のため。心配ナシ」 「……歩けねぇくらいやられてんだ。心配するって」 「抱かれるのは慣れてないんだもん。きみは? 大丈夫?」 「俺は慣れてるから。幸汰とお前に比べりゃ、ヌルいし。しつこくねぇし」  物足りなかった?……なんて、聞かない。  ほしいのは、あいつらがくれる快感じゃない。清崇も。僕も。ほしいのは、決まった男だけ。 「気持ちは?」  一応、確認。 「きみのも演技? ボロボロになってない?」 「大丈夫。だけど……思ってたより何ともねぇのが、ちょい大丈夫じゃねぇっつーか」 「マゾだから。嫌なのに犯されて興奮しちゃうのは、しょうがないよ」 「は!?」 「それに、幸汰くんを守れたから大丈夫なんでしょ。きみがビッチだからじゃなくて」  暫しの間のあと。  清崇の口元がほころんだ。 「だな。コレで終い。幸汰のこともバレねぇでうまくいった」 「うん。このあと何かしてきたら、ただじゃおかない」 「……ねぇと思うぜ。博己(ひろき)のヤツ、最後だっつって俺を……」 「うん」  言い淀む清崇に同意する。  あの『バイバイ』で終わり。今回のコトだけじゃなくて。この先の関わりもない、全部の終わり。そう思っていい……よね。 「遅くなんねぇで帰れ……あ! そういや、誰が来るって?」  清崇の問いに答える前に。バスルームのドアの向こうから怒鳴り声が聞こえ、いくつかの声が続く。  友井が坂口を部屋に入れたっぽい。もちろん、坂口ひとりってことはなく。 「坂口っていう僕の学園の先輩。ヤツらと知り合いみたい。あと、紫道と幸汰くんも」 「はぁ!?? 何で……」 「こっちで……」  洗面スペースでのんきに話してたけど、急がなきゃだった。  ただの先輩や友達なら、ここに入って来はしないはず。プライバシーは尊重してくれるはず。  友達として来てるなら。  僕と清崇が恋人同士のテイでいるのを知ってるなら。  冷静でいてくれてるなら。 「途中で、博己が坂口とビデオ通話してたの」  やっぱり気づいてなかった清崇に、シャワーを浴びながら説明する。 「僕が友井にやられてる時」 「ビデオ? え? さっき、見られて……って……」 「そう。坂口のスマホから声が聞こえたから、紫道も一緒にいる。そのあとで神野と話してるから、幸汰くんも」 「な、んで……お前の先輩と幸汰が……」  清崇が目を見開く。 「見た、のか? 幸汰も……俺を!?」 「たぶん。神野にイジられてるとこ? 突っ込まれてなかったよね?」 「ああ……男相手じゃうまく勃たねぇのか、先っちょだけ? あとは指か何か……てか、マジで? 博己が? 何で見せんだ?」 「信じてもらえないからって言ってたかな。坂口が友井にかけた電話に博己が出たみたい。最初は脅しのために動画撮ってると思ったけど」  溜息をついた。 「よけいなことしてくれたおかげで、紫道がムチャしないか心配になっちゃって」   「……お前、よく……すげーわ」 「何が?」 「周り見えて、喋ってる話声聞こえて理解して。けっこう……イカされてただろ?」 「不本意だけど、健康体だからね」 「俺は……全然余裕なかった。神野の思惑通り、イキまくっちまってよ」 「僕も何度もイッたし。きみも、ちゃんと僕を呼んでたじゃん。幸汰くんじゃなく。好きな男のために……同じでしょ」  泡を流す手を止めて、清崇が僕を見つめ。 「ああ、そうだな」  微笑んだ。 「ヤツらにバレねぇでうまくやれた」 「あともうちょっと。このホテルから出るまで、恋人のフリね」 「そうだ! それ、幸汰は……」 「大丈夫」  顔を曇らす清崇に頷いて、その根拠をざっと話した。  コレが紫道と幸汰に漏れた発端はきっと、たまきの撮った僕と清崇の写真。僕たちの不在で、紫道と幸汰がコンタクトを取って合流。  神野との電話で、たまきは僕たちが恋人同士のフリをしてることを知ってる。幸汰と紫道にそのことを伝えてる。僕が邪魔しないでほしいってことも。  理由はわからなくても、幸汰は清崇の意思を優先してる。邪魔をしないでいる。  だから。  神野たちに今もバレてない。紫道がここにひとりで突撃してない。坂口が博己に本当のことを言ってない。  ここに来たからには、ボロを出さない自信があるはず。  僕と清崇は恋人同士で。紫道は僕の友達、幸汰は清崇の友達のフリをしてくれる。 「信じるしかねぇ、か」  深い息を吐く清崇。 「もうここにいんなら……バレんならバレちまってるよな」  丁寧にする時間はなかったけど。全身洗ってアナルも洗って。  服を着て、見た目のガワを整えて。  バスルームに来て15分は経ってる。  向こうがどうなってるかわからないけど、無言で僕たちを待ってるわけがない。  でも。 「大丈夫。幸汰くんは冷静でいられるでしょ? それにさ。きみを信じたから、邪魔しないでくれたんじゃない?」  言って。  ふと、思う。  紫道も、僕を信じてくれたから?  それとも。  幸汰に止められた?  僕は、紫道を信じてる?  今も……っていうか。そもそも。  信じるとか信じないとかって前に。  何があっても信じ合える、みたいなモノ……僕と紫道にあるっけ?  愛とか。  アイノチカラとか、幻なのに?  そういうの、信じてないくせに。  だけど。  大丈夫だって感じるんだもん。理屈じゃなく。  信じてる、のかも。  信じてくれてる、のかも。  好きだし。  トクベツだし。  それで十分じゃん? 「俺を信じてるとは思うぜ。つっても、幸汰……メチャクソ怒ってんだろうな」 「紫道も」  たぶん。きっと。  内緒で勝手に、だもんね。 「怒りが解けるまで、何でも言うコト聞くしかねぇぞ。あー、でも。ずっと……会いたくてたまんなかったから、やっとだ」 「僕も」  やっと……会える。  清崇に支えられて、バスルームのドアを開けた。

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