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145 アリでいいだろ!:S

『今夜は、うちに泊まってくれる?』  そう聞かれた時。身体が熱くなって、鼓動が速まった……のを、必死に無視した。  玲史が大丈夫なのは嘘じゃないだろう。精神のダメージは、俺が思ってたより少なかったってことなんだろう。無理して強がってる可能性はゼロじゃないが、信じられる。  それでも。  身体のダメージはあるだろう。やられた分だけ、消耗してるはず。慣れない体勢で慣れないところを……そのダメージは、癒す必要があるはずで。一番効くのは休息と栄養で。  セックスするのは、ダメージ回復とは真逆の行為のはずで。  なのに。  何で、俺は欲情してるんだ!?  心配するのと同時に、期待する自分を殴りたくなった。  この欲望。こんな時に、こんなに強い劣情……見せちゃダメだろ。  長い時間一緒にいたら、隠しきれない。だから。今日はしっかり休め、と。  けど。 『今夜は……ひとりで眠りたくない』  そう言われて。自分勝手な理由で返事をためらったのを恥じた。  玲史の心、全力で癒すんだろ?  不安は消してやれ。  安心して眠らせてやれ。  守るんだろ?  俺がいる。そう言ったくせに。今、そばにいなくてどうする!  そして。  今。  玲史のマンションの部屋。  遅い昼の飯を食い。雑把だが、俺サイドの話をして。  言っちまった。 『俺が……ケツで抱く。お前は動かなくていい』  玲史は、笑顔でオッケー……。  何度も確認して、玲史が大丈夫なのはわかった。身体も平気だってのも、信じる。  それはいい。  何度も確認されたが、玲史への怒りはない。  それもいい。  守ってくれた。玲史はそう言ってくれたが……まだ、もっと守りたい。守る。そう、誓う。  それも、今はいい。  ホテルを出てからずっと。抑えなけりゃ、隠さなけりゃと思ってた欲望。  玲史と2人きり。目の前にいて。煽るような玲史の言葉に反応しちまう。ほしがる瞳をしてる自分を見られたくなくて、まともに顔が見れなかった。  けど。  まともに合わせた玲史の瞳にも、俺と同じ欲望があった。  つい数時間前にあんな目にあった玲史が、欲情してる。メカニズムとしての身体の性欲は満たされてるだろう玲史が、欲情してる。  あんな目にあって。逆にそうなるのは、あり得るかもしれない……が。  俺が欲情するのはアリなのか?  そう思ったのも、もう過ぎた。  玲史が望んでる。  俺をほしがってる。  アリでいいだろ!  もう、オーケーだ。  ただし。玲史の負担は最小限に……で、口から出た。俺がやる……って。  玲史が、俺が突っ込むと思ったのにはビビった。そんなつもりはねぇ。で、俺がケツで抱く……って。したこともねぇくせに。  あの時もだ。  906号室で、しょっぱなに。  『おつかれ』って。言っちまった。沢渡のアドバイスが頭にあって。弱々しい玲史を見て、ほかのこと吹っ飛んじまって。  場違いだと思った労いの言葉に、玲史の瞳が嬉しそうで……ホッとした。  今も。玲史は嬉しそうだ。  ホッとするべきところだが、自信がない。まるでない……が。  なくても、やる。やるしかないからじゃない。  俺がやりたいからだ。  ダメージを癒すために休息を……なんて、キレイゴトだったのか。  玲史の身体がしんどかろうと、疲れてようと。今。玲史とセックスしたい。その欲に抗えない。抗いたくない。  なら。もう、ためらうな。  玲史も同じだと信じろ。  ベッドで待っててくれと言い残し。ひとりバスルームへ。  準備を済ませた身体を拭いて、バスタオルを腰に巻き。歯を磨いてるところに、玲史が現れた。 「僕も」  そう言って、歯ブラシをくわえる玲史。  並んで歯を磨く。  洗面台の鏡に映る目を合わせながら。互いの瞳に浮かぶ欲を計るように。高めるように。 「いっこ、確認しときたいの」  口をゆすぎ終えた玲史が、鏡越しじゃなく俺を見つめる。 「洗ってはいるけどさ。さっきまでほかの男とセックスしてた身体……ちょっとイヤだなぁとか、ない?」 「ない」  即答する。  玲史がやられたのは事実だ。レイプと変わらないとしても、自分の意思で。俺のために。それが全く気にならないといえば嘘になるが、わかってる。  玲史が玲史であればいい。玲史の身体をイヤだと思うことはない。絶対にだ。 「お前の身体だ。俺は、お前がほしい。玲史……」  言葉じゃ足りない。  抱きしめて、自分からキスをした。  実際は1日しか経ってないのに、ひどく久しぶりな気がする玲史の舌の感触……たまらない。歯磨きで冷たくなってた口の中は一瞬で熱くなり。全身にその熱が回り始めるも。  うっかり体重をかけちまったせいで、玲史がよろついた。 「悪い。大丈夫か?」 「……大丈夫じゃない」  その答えに息を詰め。 「どこか痛……玲史!?」  慌てる俺に笑いながら、玲史が服を脱ぎ出した。 「ガマン出来なくしたの、きみだからね。今すぐやろう」 「は!?」 「僕の上で腰振るきみも見たいけど、ベッドまで歩けない。今すぐ挿れたいの」  喋ってる間にもう、玲史はパンツ1枚で。  マ……ジでやるつもりか?  ここで!?  床は硬いが、何てことはねぇ。  今すぐやりたいのは俺も同じ。もう待てね……ぇって! 違うだろ!  俺が動くんだ。玲史にやらせんな!  ここでだって、俺は動ける……が。  ダメだ。  硬い床じゃ、玲史にも負担がかかる。  やるならベッドの上で。すぐそこだろ。  歩けねぇっつーなら。 「え?」  玲史を抱え上げた。姫抱っことかいうやつだ。 「俺が連れてく。俺がやる。すぐに……俺の中に挿れてやる」  バスルームを出て、寝室へと急ぐ。  玲史は文句も何も言わず抱えられ、俺の首に腕を回してしがみついてる。  こんな玲史は、想像にすらない。  タチネコ関係もあるか知れないが、玲史を姫抱っこしようとしたことはないし。玲史が俺を抱え上げるのは重量的に難しいし、絵面も悪い。  端から見りゃおかしくないだろうが、玲史がおとなしく俺に運ばれてるってのは……らしくない。やっぱり、気が弱ってるんじゃ……。  ベッドの上に下ろした玲史を見て、それはないとわかった。  俺に向ける獰猛な眼差しには、弱気の欠片もない。  自分が狩られる不安の一切ない、捕食者の瞳だ。 「カッコイイじゃん、紫道(しのみち)。早く……グズグズのドロドロにしたいな」 「ああ……まかせとけ」  横になった玲史に屈み込んで、唇を重ねた。

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