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156 今、話さねぇと!:S

「気つかわなくていいのに」  ほんの3秒後。合わせた目を瞬いて、玲史が笑う。 「ひとりで……って。僕のほう、時間制限しなきゃいけなくなると思った?」 「いや……」 「弾む話なんかないし。もっと話したくなるとか、ないし」 「そ……」 「6時半には戻れるよ。遅くても7時。だから……」 「玲史」  遮った。 「そうじゃない。お前のためじゃなく、俺の都合だ」  ハッキリ言う。 「俺が、康志(やすし)と2人で会いたいんだ」 「……何ソレ。浮気? 僕じゃ足りなかった?」 「んなわけあるか!」  急いで否定する。 「あり得ねぇだろ。そういうんじゃなく……」 「何? どういうの?」  言い淀む俺に聞く玲史は、まだ笑顔だ。 「康志のことは、俺が自分でケリをつける……つけなけりゃならないんだ」 「……ふうん。じゃあ、手も口も出さないで見守るだけにしてあげる」 「いや。お前に……いてほしくない」  少し、声が上ずった。  本心には違いない……が、それでも。  一緒にいたくないって意味のセルフを吐くのはキツい。 「来るなってこと?」 「……ああ」 「僕がいると邪魔?」 「……そうじゃねぇ。ただ……」  何て言やいい? 「ただ何?」 「コレは、俺と康志の問題だ」  クズでバカな康志と、ちゃんと向き合わずに避け続けた俺の……玲史に会う前の……。  恋愛ってモノを知らない、人を好きになるってコトを知らない……。  玲史を好きになる前の……。  だから……。 「お前には関係ない」  口にした瞬間。  しまった、と思った。  事実でも、伝え方で伝わり方は変わる。  言葉を選ぶべきだった。  アトノマツリだ。 「そう」  玲史の顔から笑みが消えた。 「わかった。2人で会って心行くまで内緒話、楽しんで」 「玲史……」  何が足りない?  何て言い直せばいい?  何を、言やいい? 「俺は……」  康志にひとりで会いたい理由。会うべき理由。玲史にいてほしくない理由。関わらせたくない理由。関係ないっていう理由。  何から伝えればいいんだ?  何でもいい。  全部伝えろ。 「聞いてくれ。康志が俺に会いに来たのは、たぶん……」 「ストップ。クズの話はあとで聞く。きみが自分でケリをつけたあとで」  玲史が冷えた表情で広角を上げる。 「トイレ寄るから先行くね」 「れい……」 「あ。僕のほうもひとりで会うよ。きみには関係ないから」  待て、と止める隙はなく。駆け出した玲史は、昇降口へ向かう人波に紛れた。 「追わねぇの?」  (たすく)に言われ、大きく息を吐く。 「追うに決まってるだろ」  裏腹に。足は動かず。 「いや。今は……追わないほうがいい……のか?」  わからない。  俺の気持ちを伝えるには、康志の話は不可欠で。  康志の話を今、玲史が聞く気がないなら……玲史のいう通り、あとにしたほうがいいのかもしれない。  けど。  あとじゃなく。今。康志と会う前にしなけりゃダメかもしれない。  玲史を怒らせた……いや。傷つけちまったのか? 「どうかねー。高畑のこと、あんま知んねぇからさ。でもよ。関係ねぇっつわれんのは、ちょっとクるな」  佑の意見に、再び大きく息を吐く。 「わかってる。反省してる。それは今すぐ謝らなけりゃ……」 「違うって。プラスにグッとクる。逆に『俺には関係ない』って言われるほうが多いけど、突き放されんのも時には必要っての?」 「は……?」 「恋人は、自分のモノでも別の人間。依存と束縛はNG。プレイ外の支配と服従もNG」 「何……」 「シンの持論。ずっと2人でいるための秘訣はそれぞれがひとりで立てること、ひとりで立つのを邪魔しないこと……だってよ」  佑がニヤリとする。 「自分でやれとか、俺の問題にシャシャるなとか。シンに言われっと愛を感じるぜ」 「……そうか」  佑とシン先輩の関係は、それでうまくいってるんだろう。お互いにわかってるならいい……が。  俺と玲史は?  言葉の意味は同じか?  すれ違っちゃいないか?  やっぱり。  今、話さねぇと! 「まぁ……俺の見たとこ、高畑のアレはスネてるだけじゃね?」 「そ……うかも、な。悪い。また、あとで……」 「おう。頑張れ!」  佑の言葉を背に、走り出した。  わずかに痛みの残る足腰をフルで動かし、玲史がいるはずのトイレへ。 「紫道(しのみち)!」  中に入る前に、出てきた玲史に呼ばれた。 「將悟(そうご)が僕たちのこと心配してたみたい」 「お前は休み。紫道は2限サボっていなくなるし。マジで心配したぞ。何かマズいトラブルでも……って」  隣にいる將悟が、玲史の明るく元気で機嫌よさげな声の理由か。  友達に心配させたくない。されたくない……いや。  さっきのは気にしてなくて、本当に機嫌がいいのかもしれないが……。 「全然大したことなかったし、解決したから大丈夫。ね?」 「……ああ」  大したこと、だった。とてつもなく。  昨日1日で、いろいろあって……いろいろわかった……。  曖昧に頷く俺をじっと見て、將悟が眉間に皺を寄せる。 「紫道……どうしたソレ!?」  將悟の視線は俺の首元。首にある、生々しい傷。隠せないから仕方ない。 「コレは……」  目を伏せた。  愛の証し。  玲史の言葉を思い出し。  自分が口にした言葉を思い出し。  いろいろ、駆け巡り。  言葉に詰まった。 「まさか……誰……にやられた?」  黙り込んだせいで、將悟に勘違いさせ。 「何があった? 本当に大丈夫か?」 「大丈夫。僕以外にソレ、つけさせるわけないじゃん。やられたのは紫道じゃなくて僕。だから、欲情マックスでやり過ぎちゃったの」  言わなくていいことを、玲史に言わせた。 「え……? 僕……やられ……? やり過ぎ……って……」 「昨日。僕がクズどもにマワされて、そのあと紫道を抱きまくったの。首のソレは僕たちの愛情表現。きみにはわからなくても、僕と紫道がわかってればいいでしょ」 「そ……うだな……じゃなくて! お前……大丈夫なのか!!?」 「もちろん。紫道がやられてたら大丈夫じゃないけどね」  不敵に微笑む玲史。  間が開いて。將悟が小さく溜め息を吐いた。 「何かあったら力になるから。涼弥の時、助けてくれただろ。お前も頼って」 「オッケー」 「紫道、お前も」 「ああ……」  余計なことは聞かず言わず、將悟は友達としての距離を置く。  必要な距離感。適度な距離感。  恋人としては、どのくらいがいいのか。  離れ過ぎてちゃ遠過ぎる。  重なり過ぎてちゃ近過ぎる。  玲史と俺は今、どのくらい離れてる……?  予鈴が鳴った。 「じゃ、行こっか」  玲史が言い。3人で教室へ向かう。  始業前に玲史と話す時間はなくなった。

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