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158 何が、自信になる?:S

 校門横から猛ダッシュしてトイレ前に着くも、玲史は將悟(そうご)と話し中で。そのまま教室に戻り、朝のSHR。続けて1限開始で、話すヒマなく。  長く感じた授業がやっと終わり、急いで玲史のところへ向かうも。今度は、新庄(しんじょう)と話し中で。 『……ゆっくり話すのは明日でいいよね?』  笑顔で言われ、取りつく島もなく。  ここは、引いた。  怒った素振りを見せなくても。傷ついた顔を見せなくても。やっぱり、負の感情はあるんだろう。ムカついてるか。悲しいか。淋しいか……とにかく、俺と話す気がないのはわかった。  今は話せない……が。  まだ時間はあるだろ!?  確かに、昼は見回りで別行動で。玲史は5時に自宅マンション前の予定だから、放課後はすぐに帰らなけりゃならない。玲史が母親とひとりで会うと決めたなら、ついてくわけにはいかない。  けど。  次の休み時間も、その次の休み時間も。5限と6限の間の休み時間も、ずっと新庄の相談とやらは終わらないのか? 終わっても、俺と話さないつもりなんじゃ?  そう思っちまうくらい、距離を感じた。  つき合う前の、友達としての適度な距離感よりは近い。つき合ってからの、ほかの誰にも感じたことのない近さ……身体が重なるのと同じように時折、心もピタリと触れてるみたいな。自分以外の存在としっかり繋がってるみたいな、あの近さより……遥か遠い。  玲史……お前はどう感じてる?  思ってるコト、ぶつけてくれ。  言いたいコト、ないのか?  口に出さなけりゃ、伝わらない。言葉にしても、伝えたい通りに伝わらず。勘違いもあるだろう。言い方も間違う。  だから、足りない分は言葉を尽くす。行動で示す。  わかりたいなら、わかってほしいなら。わかり合いたいなら、向き合わなけりゃダメだろう。  そっぽ向くな。  話を聞いてくれ。  話してくれ。  話さなけりゃ、伝わらない。  聞きたくないのか?  知りたくないのか?  俺が何を思ってるかなんぞ、どうでもいいのか?  クソ……後ろ向きになってきた。  少し。ほんのちょっと、腹が立つっつーか……淋しいっつーか……。  一生懸命なの、俺だけか?  何で俺は、こんな……自信がねぇんだ!? 「紫道(しのみち)」  自分の席で悶々としてる俺を呼ぶ声。 「どうした?」  ぼうっとしてた目の焦点を合わせると、目の前に將悟がいた。 「あ、ど……ど、もしない」  舌足らずな返事に、將悟が眉を寄せ。 「昨日、大変だったんだな」  新庄と話してる玲史を見やり、静かな声で言う。 「しつこいけど、もう1回聞く。お前、大丈夫?」 「いろいろ……あったが、大丈夫だ」  ハッキリと答える。  あの件は大したコトで、大きな衝撃で。それでも……玲史が大丈夫な限り、俺も大丈夫だ。 「玲史も、俺も」 「なら、よかった」  將悟が安堵の息をつき。 「さっき。お前が来る前、玲史が微妙に変だったから……」  続ける。 「ケンカでもしたのか?」 「朝、ちょっと……玲史を拒否って、怒らせたか傷つけたかしちまって……理由を話したいが、聞いてくれない」  將悟が驚いたような顔をして、頷いた。 「玲史がスネるとか……お前のこと、本気で好きじゃん? 安心した」 「は?」 「お前も。ケンカして、気にかけて。不安になるのは、本気だからだろ?」 「ああ」  本気で好きだ。  玲史のほうは、わからない。  昨日は、わかったと思った。  今は……自信がない。  (たすく)も言ってた……玲史のあの態度は、スネてるのか? 知識は乏しいが、恋愛でスネるってのは……嫉妬とか独占欲とか甘えとか。玲史には似合わない感じだ。 「ちゃんと話せばわかるよ。玲史なら」 「だといいが……」  明日じゃなく。放課後までに。玲史がその気になって、話せれば……だ。  お前には関係ないって言った理由。康志とひとりで会いたい理由。ソレを話して、気持ちを伝える。伝えたい……が。  今は聞いてもらえない。  待ってりゃ、玲史はこっちを向くのか?  いつになる?  明日か?  それじゃ遅い……が。  俺にはどうにも出来ない。  ムリヤリ聞かせる話なんぞ、届かないだろ。 「待つしかないのか」  また、昨日みたいに……いや。昨日とはまるで違う。  玲史はそこにいる。俺の手が届くところに。 「わりと早く、折れてくる気がする」  溜息を吐く俺に、將悟が微笑む。 「玲史は欲に素直だろ。お前の話、聞きたいはず」 「そう……か?」  將悟の意見に同意出来ないのは、ネガティブ思考になっちまってるせいか。將悟が楽観的なのか。  冷静さを欠いた俺の頭じゃ、わからない。頭も心もざわざわがりがりで、もう……いろいろわからない。 「そんなに不安?」  聞かれて、頷いた。 「あいつの望み通りに出来なかった」  強がる必要のない友達に、弱音を吐く。 「このまま、玲史と話せないまま……離れちまうのが、怖い」 「……お前、自信なさ過ぎ」  將悟が頭を振った。 「俺が口出すことじゃないけど、出していい?」 「ああ」  どんな助言でも、ありがたい。 「友達としてのつき合いで知る限り、玲史は強いじゃん? フィジカル面も……メンタルも」 「そうだな」  ケンカに強く、昨日みたいなコトを平気でしちまう。心身ともにタフで、マジ強い……俺よりも。 「でもさ。恋愛に関しては余裕ないのかも。初めてってテンパるだろ。知らなかったことばっかで」 「俺はそうだが……」 「玲史もだって」  將悟が俺を見つめる。 「自分よりお前が大切。そう思えるくらい、玲史はお前を好きだと思う。なのに、お前はそう思ってない……ってことは、伝わってないんだろ」 「俺は……」  俺を好きだという玲史の言葉を、疑っちゃいない。  昨日の玲史を……俺を守った玲史の気持ちを、信じてる。  何で不安になる?  何が足りない?  どうすれば、自信が持てる?  何が、自信になる? 「玲史の伝え方が悪いとか、伝えてないとか。あとは、自分でもわかってないとか信じてないとか」 「そう、だな」  思い出せ。  俺を信じるが、愛は幻だというあいつに。ソレを信じさせたい……そう思った。 「それでも。玲史はお前に本気だ。ちょっとすれ違ったからって、ダメになったりしない。もっと自信持てよ」 「……ああ、そうだな」  見えなくても、愛されてるってのを実感させたい……そう言った。  俺は玲史を愛してる。  ソレが、俺の自信だ。

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