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159 僕の見えない部分に、何の価値があるの?:R
「昨日はありがとう」
昼休み。西住 と、西住の見回り当番に当たり前のようについて来た沢渡 に言った。
「紫道 と一緒に、いろいろ動いてくれたんでしょ」
「俺はほとんど役に立ってないけど、沢渡が力になれてよかったです。俺たち、高畑さんと川北さんにはお世話になったし」
歩きながら、西住が勢いよく口を開き。
「あの時の、沢渡の先輩が関わってるっていうし。もう、絶対に助けなきゃって……」
口ごもり。微妙に目を泳がせる。
あーそっか。
僕と清崇 が神野 と会う理由は不明でも、僕に何が起こり得るかを知って。坂口と幸汰 とたまきと合流して、あのホテルを突き止めて。
でも。結果として……助けられなかった。西住は、そう思ってる。
アイツらに、僕が犯されたから。
でも。僕としては、自分の身体は助けなくてよくて。紫道を守るのが目的だったから。
「助かったよ」
気マズい思い、させる気もする気もない。
「クズにやられても、全然平気だし。トラブルは片づいたし」
笑みを浮かべた僕に、西住がぎこちなく笑みを返す。
「ほんとに……沢渡の言う通り、なんですね」
「何が?」
「川北さんが無事なら、高畑さんは大丈夫。俺が無事なら沢渡が大丈夫なのと同じ……って」
「うん。そう……」
沢渡に視線を移す。
紫道と僕がつき合ってることを神野に知られないように、この子に頼んだ。
アイツらと繋がりがあるし。西住のために躊躇なく自分をクズに差し出そうとしたし。僕の味方だし。
だから。
僕のしようとしてること、止めないでくれるはず。僕のしたいことを察して、紫道が助けに来ないようにしてくれるはず。
そして。
期待以上だったし。
僕が大丈夫なのも、その通り。
嬉しそうに、沢渡が微笑んだ。
「あなたの役に立ててよかったです」
「うん。ありがと。僕の考えを理解してくれて、紫道を説得してくれて」
「あなたは、俺と同じだから……」
「ソレ。昨日から言ってるけど、失礼だろ」
西住が割って入り。
「川北さんの前でも、高畑さんがお前と同じ……って。高畑さんも変態だって聞こえるから、やめろ」
「同じなのはもっと根本的な部分だ。自分の価値や優先順位。好きな人の尊さ、重みなんかの。表面の性癖じゃない」
「お前の根っこまで見えないから。同じって言われたら、見えてる変態さなの」
「だけど、きみはそこがいいって……」
「違う! そういうとこがあってもいいっつったんだ。お前の一部として大目に見てもいいって」
「こんな変態でもいいって……奇特だ」
「お前が言うな」
イチャつき始めた。
暫く、放っておこう。
仲良くて何よりだし。校内も平和そうだし。昨日のことで感謝してるし……
2人の声をBGMに階段を下りながら、思う。
沢渡の『同じ』の意味は、だいたい合ってる。
僕は沢渡みたいな変態じゃないけど。
世界は好きな男を中心に回ってる、みたいに考えてないけど。
好きな男を好きでいないと自分がなくなる、みたいに全てじゃないけど。
自分の価値は高くなく、優先順位は低い。
紫道はトクベツで大切で好きな男で。紫道に関することは、今の僕にとっての最優先事項。
うん。同じだ。
けど。
根本的、かぁ……。
その人の中身。性格とか趣味嗜好とかよりもっと、コアな部分。ソレがあるから僕が僕であるんだろうけど。
ソレって重要?
身体がなきゃ、言動で表せなきゃ……意味なくない?
僕の見えない部分に、何の価値があるの?
例えば、身体がなかったら。セックスナシで、紫道は僕が好きとか言える? 逆に、抱けなくても……紫道を好き……?
考えたことなかった。
精神。マインド。心。そういうのの価値。チカラ。うーん……よくわからないや。
誰も、教えてくれなかったんだもん。
みんな、誰に教わったんだろ。誰かを好きになって、恋愛して。その経験から? 勘違いや幻じゃないって、どうしてわかる? 理屈じゃなく、確かだって思えるほど……強烈に実感出来るモノなの?
「すみません! ひとりでやらせちゃって」
西階段下の広い空きスペースで立ち止まり、チェック録に印をつけたところで。西住の意識が、風紀委員の仕事に戻ってきた。
「問題ないよ」
僕だけで対処出来ないことなんか、そうそうないだろうし。
「だ…としても。こいつの存在はもう、ムシしてください」
「でも、いるじゃん」
いつも一緒か近くに。一時も離れていられないみたいに。視界に入れてないと不安、みたいに。
「どっか行ってろっつっても聞かないんで」
そういうとこ。西住に弱いわりに、言いなりにならない引かない……アンバランスさが面白い。
「幽霊か幻とでも思ってください」
「でも、はっきり見えてる……あ」
そうだ。幻……愛……同じ……。
沢渡と西住なら、どうするかな?
「沢渡がいても見回りに支障はないし。せっかくだから、2人聞きたいこともあるし……ていうか、相談」
「俺たちに、ですか?」
西住が驚いた顔をする。
「あなたが……?」
沢渡も。
「僕と同じきみの意見、参考にしたいの。恋人の意見も一緒に」
もう、時間がないから。藁にすがる……わけじゃない。
僕と同じ思考が出来る沢渡と、ソレがおかしいか一般的か客観的に見れる西住。ちゃんと、相談相手にちょうどいい。
聡のアドバイス通り。2限後の休み時間も聡と話し、紫道を焦らして。3限後に紫道のところに行こうとしたら……いなかった。さっさと教室出てどこに行ったのか。4限まで帰って来なかった。
それがなんか気に入らなくて。
昼はひとりで、風紀の本部で食べた。どうせ、見回り当番だからのんびり食べてられないし。副委員長だから鍵持ってるし。
結果。紫道と話してなくて、アドバイスの成果ナシ。
「何でも聞いてください!」
西住が言って、沢渡が頷いた。
かわいい後輩たちに恋愛相談……なんて、ガラじゃないよね。
でも。
大切だから。
どうにかなるかもしれないのに、どうにかしないでいたくない……この焦燥感も初めて。大切なモノって、なかったから。
でも。
今はあるから。
「紫道のことなんだけどさ」
どうにかするためのアドバイスを求めて、話し始めた。
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