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160 自分を信じたい:S

 2限が終わる間際まで、迷った。  玲史から話を聞くと言ってくるのを待つか。俺から話しかけるか。どっちのほうが早く玲史と話が出来るのか……マジでわからない。  恋愛経験がなさ過ぎて。ソレにまつわる繊細な感情に疎過ぎて。自分の思考がブレ過ぎて。  玲史への思いが俺の自信。  そう思うのに。  そう決めたのに。  自信が持てない。  自信を実感出来ない。  俺が俺を、信じ切れない。  それなら。出来ることを出来る限り、するしかない。  出した結論は、結局。  玲史がひとりでいるなら、俺から行く。話を聞いてもらえるまで、次の休み時間もその次も。何度でも。  こうなった原因は俺で。玲史は悪くない。意地の張り合いをするつもりはない。意地を張るべきところはココじゃない。  伝えたいことがある。  將悟(そうご)の言うように、何事もなかったように玲史が折れてくるかもしれない。俺が康志(やすし)と2人だけで会うのを認めてくれるかどうかは別として、話を聞くために。  でも。  もし、玲史がスネてるなら。放っておいたら、さらにスネちまうかもしれない。それはゴメンだ。これ以上、玲史の機嫌が下向くリスクは負いたくない。  だから、動く。  とにかく、話を聞いてもらう。  とりあえずは、それで十分。気持ちを伝えて、その上で納得いかないっていうなら……仕方ない。そこで何を優先するかは、玲史の気持ちを聞いてからだ。  そして、2限終了直後。  玲史は再び新庄のところだった。  予想はしてたが、落胆し。前の休み時間同様、自席で悶々。  スマホが震えた。 『次の休憩時間』 『風紀本部に急いで来い』 『委員長の仕事だ』  現風紀委員長、瓜生(くりゅう)からのメッセージ。  たっぷり1分経ってから、わかりましたとリプライ。  正直、シカトしちまおうかと思った。  今は玲史のことで頭がいっぱいで、風紀の仕事なんぞしてる場合じゃない。委員長なんぞ、好きでなったんじゃない。風紀委員自体、やる気があってなったんじゃない……が、きっかけだ。俺と玲史の。つき合う……恋愛感情に気づく、きっかけ。  風紀委員になれるかなれないかで賭けをしたのが、すでに遠い。  学祭で、風紀の見回りで遭遇した沢渡(さわたり)の件。そこから、昨日の件……風紀委員にならなけりゃ、起こらなかったことなのか……なんて、過去の仮定なんかしてる場合じゃない……が。  今。  風紀の仕事が入るのは、いいかもしれないと思った。  気持ちが内に内に入ってくのはよくない。行き詰まった思考がおかしな方に向かうのも危ない。ウザい言動をしちまいそうで怖い。  だから、やらなけりゃいけないことがあるのはいい。  それに……また、何かのきっかけになるかもしれない。  3限が終わり。わずかに何かに期待して、風紀本部へと走った。  瓜生のいう『風紀委員長の仕事』は、早々にメンバーチェンジするらしい新委員の面接で。その1年生が来る前に、ざっと説明される。 「質問に対する答えか、こっちの行動に対する反応を見る。この前の面接と同じだ」 「はい」 「内容はその時々、相手によって何でもいい」 「は……?」 「質問の答えにも行動の反応にも正解はない。採用の合否は風紀委員長として独断する」  正解ナシ……で、独断……。 「お前が面接するなら、お前がアリだと思えば合格にしていい」 「そいつが使えないヤツだったら……」 「クビにして次のを探すか、使えるように仕込むか。おまえの責任だ。失敗したら、そこから学べ」  本部のドアが、ノックされた。 「今日は、俺がやるのを見てろ」  快活そうな茶髪の1年が部屋に入ってきて、よろしくお願いしますと声を張った。  見学した面接は3分かからずに終わり。合格を言い渡された新風紀委員が去り。 「客観的で公平な見方が出来て、臨機応変さもある」  瓜生が言う。 「問題ないだろう」 「はい」  ポイントを押さえたいくつかの質問。その答えで合否を即決。瓜生は軽くやってるコレを、俺がやるのか……。 「面接に限らず、自分の判断に自信を持つことが大事だ。自分を信じてないヤツの言動はブレるからな」  不安が顔に出てたのか。委員長仕事のコツを伝授してるとわかってはいるが、今の俺には刺さる……。 「あの……どうしたら、自分に自信が持てますか?」  口から出た。  自信を持ちたい。その方法が、あるなら知りたい。  自分を信じたい。  率直な問いに。 「自分のために動け。人のために出来ることはタカが知れてる」  俺をじっと見つめ、瓜生が答える。 「自分のほしい結果のために、選んで決めて動く。それを意識しろ。自分を信じられないのは、望む未来がアヤフヤだからだ」  俺のため……ほしい結果のため……。 「わかりました……」  望む……未来……。 「行こう。授業に間に合わなくなる」 「……はい」  心ココにあらずで頷いて、風紀本部をあとにした。 「川北」  歩き出してすぐに。   「坂口からアドバイスがある。お前の調子が悪そうだったら、伝えてくれと」 「は……」 「身体は元気に見えるが、中はそう見えない」 「……坂口さんは、何て……?」 「『高畑を甘やかすのはいいけど、言いなりになってばっかだとお前が壊れるぞ』」 「あ……」  ソレは……。  玲史の好きにやらせ過ぎて抱き潰されるな。  そういう意味だ。  坂口は誰に何を聞いたのか……玲史の性癖を知ってるからのアドバイスだろう。  身体が熱くなり。瓜生の言葉が回ってリアルからズレてた脳内が、現実に戻された。 「わかりました。大丈夫です。坂口さんに礼を伝えてください」 「……委員のプライバシーに立ち入る気はないが……恋愛は、自分のためだ」  また、瓜生が俺をじっと見る。 「いつも相手の言いなりだと、そうじゃない自分に自信が持てなくなって自分を失くす」 「そう、ですね……」  見透かすような瓜生の瞳が俺を射る。 「自分の意見を通すことが必要な時もある」 「は……い」  また。  瓜生の言葉が脳内を回り始めた。

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