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163 大切にするの:R
迷わず、外の見回り開始終了地点の昇降口に向かった。
僕の中見回りは早く終わったから、紫道 が終わるタイミングに間に合うはず。間に合わなくても、そこから教室に向かえばいいだけ。
最初から教室に行って。いなかったら昇降口に向かうほうが、ムダなく論理的なのはわかってるけど。ここからは教室より昇降口が近いから。紫道がまだ見回り中なら、こっちのほうが早く会えるから。
早く、会いたいから。
そのためなら、全力ダッシュもキツくない。なんか、力がみなぎってる感じ。朝走った時は、身体が重かったのに。
気分? 気のモチヨウ? アドレナリン? 今は、不安より期待感。
紫道に会うから。
話を聞ける、話が出来るから。
聞きたくないって態度取ってたのは自分のくせに。調子よ過ぎ。
でも。
わかったから。
自分がどうしたいか。
何が気に障ってたのか。
ちゃんと伝えるから。
早く……。
「紫道!」
階段を1階下りたところで、下から上がってくる紫道を発見。
「玲史……」
僕の呼び声に足を止め、見上げた紫道は驚き顔で。
「な、んで……」
半階分の距離を詰めた僕を見つめる。
「どこ行くんだ?」
「きみのとこ。迎えに来たの」
見つめ返し。
「きみは? 教室行くなら、こっちの階段じゃないじゃん?」
尋ねる。
「俺は……俺も、お前のところに……」
姿を見た時から予想した通りの答えに、嬉しくて抱きつきたくなったけど。
まだ、ガマン。
「話を聞いてくれ」
ダイレクトな紫道の言葉。
「康志 と会う前に。明日じゃ遅い。次の休み時間、俺がもらう」
強い言葉。
「足りなけりゃ、放課後……お前が母親と会う予定の5時までの時間も、俺にくれ」
オッケーしたい、けど。
「イヤだなぁ」
それじゃ遠いもん。
「玲史。お前がイヤでも、俺はついてくぞ。どうしても……」
眉間に皺を寄せた紫道の手を掴み。
「違うの。今がいい。今すぐ聞きたい。聞かせて」
引っ張って。
「お願い。今、僕に時間ちょうだい」
答えを待たず。背を向けて階段を上った。
引いた手に抵抗はなく。繋いだまま、紫道もついてくる。
ダッシュじゃなく、小走りで。2階から、第2校舎へ。風紀本部へ。
行き先に予測がついたのか。僕の行動が想定外で、反応が追いついてないのか。紫道はずっと無言で、半歩後ろをを走ってる。
「玲史……」
本部のドアを解錠して中に入ってから、紫道が口を開いた。
「どうした……?」
「何が?」
「あ……その鍵」
「坂口にもらったの。勝手に合鍵作って予備の予備にしてたんだって」
風紀本部の鍵は3本ある。教員室に保管されてる1本。委員長の紫道が持つ1本。3年が引退したら副委員長の僕が持つ1本は、今は現部長の瓜生 が持ってる。
「そう……か」
「そんなことより。奥に行こう」
ドアの前で話し始めてうっかり大声出して、たまたま通りかかった教師に中断させられたくないし。座って落ち着いて話したいし。
「あ……ああ」
戸惑いがちに頷いた紫道と、奥の部屋へ。
ドアを閉め、仮眠用のベッドに並んで腰かける。
目的は睡眠でもエロでもなく、紫道の話を聞くこと。そして、ソレ聞いて思うことを伝える。素直に。
思いやりと尊重を忘れずに。
何があっても何しても、紫道は僕を好きでいてくれる……なんて、思い上がっちゃダメ。ちょっとすれ違っただけで不安になるくらい、紫道を好きなのがわかったから。
失くしたくないから。
大切にするの。
「話、聞こうとしなくて……ごめんね」
短い沈黙を破った。
朝からずっと話したいって言い続けてたのは紫道なのに、なかなか始めないんだもん。
「怒ってる?」
尋ねると。
また、紫道が驚いた顔をして。
「いや……」
首を横に振り。
「俺が悪い。俺の……言葉が足りなかった。悪かった」
謝り。
「お前には関係ないっつったのは、康志のことにお前を関わらせるのがイヤだったからだ」
話し始める。
「お前がいたから。お前とつき合ったから、康志とのあの記憶を過去に出来た。今の、お前との記憶と混ぜたくないっつーか……」
気持ちに合う言葉を探すように、紫道の視線が遠くなり。
「お前とのことは全部、大切な記憶で……今も明日も、大切な過去になる。だから……線を引きたかった。置いてくる過去と、この先も持ってく過去と」
まっすぐな瞳を僕に向ける。
「『俺と康志』にお前は関係ない、じゃなく。『俺とお前』に康志は関係ないんだ。ズルい言い方かもしれないが……」
「ううん」
でも。
「2人きりで会いたいっていうのも、同じ理由?」
そうなら。快く納得するには、不十分……。
「ほかにもある。過去にケリつけるには、康志を……完全にフらなけりゃならない。2年前、ちゃんと向き合わずに逃げたツケだ」
「え?」
フるって、つまり……。
「紫道のこと、好きだったの!?」
「……最後の時に、そう言われた」
そこのとこ、聞いたっけ? 話してないよね?
まぁ、今はそんなのはいい。クズの気持ちなんか、どうでもよし。
「もちろん、今も康志が俺を好きで会いに来たとは思っちゃいないが……何のつもりで俺に会うんだとしても、俺は……2年前にするべきだったことをする」
数秒空けて、紫道が溜息を吐き。
「きっちりノーを突きつけて、康志を罵倒する。そのために会う。アイツに、惨めな気分を味わわせてやる」
言い放った。
紫道にしては黒い考えに。
ナイス? ブラボー? やるじゃん?
声に出す前に。
「それを、お前に見られたくないんだ」
言いにくいそうに、紫道が続ける。
「康志は最低な男だが、見せ物にしたいわけじゃない。2年前の清算は、俺と康志だけで済ませたい……これが理由だ」
「……そっか」
伝えたいことは、わかった。
おもしろくはないけど、納得は出来る。
ムカついてもいない。
うん。
大丈夫。
紫道の意思を尊重……。
「うん。わかった」
「……いいのか?」
聞かれて。
「うん」
ほんのちょっぴりの気合いで微笑んで頷いたら。
またまた、紫道が驚いたふうに僕を見て。
「朝はお前を拒否するみたいな言い方しちまって、悪かった。ムカついた……よな?」
聞かれて。
「うん」
頷いて。
「あと、傷ついたよ。だから、スネちゃった」
伝える。
「僕よりあのクズが優先なの? きみの恋人は僕なのに……って。いつも何でも、きみは僕の言うこと聞いてくれると思ってたみたい」
話を聞く耳持たなかった理由と。
「なんかね、きみは僕を好きだからって……イイ気になってたの。でも、紫道は紫道で。僕と違う意思があって」
伝えたい気持ちを。
「失くしたくないから、大切にするの」
伝える。
「なくなったら……って、不安になった。思ってたよりずっと、きみのこと好きなんだってわかっ……」
何の前触れもなく。強く抱きしめられ、唇で口を塞がれた。
ガマンしてたけど。
話はまだ終わってないけど。
ココでエロは御法度だけど。
いいよね。
ちょっとくらい。
今は……レンアイ優先。
熱く開いた紫道の唇に、舌を入れた。
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