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消えない幻なら、堕ちるのもいい 165 絶対に我慢出来ない自信がある:S | kinonの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
消えない幻なら、堕ちるのもいい
165 絶対に我慢出来ない自信がある:S
作者:
kinon
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165 絶対に我慢出来ない自信がある:S
康志
(
やすし
)
に会ってよかった。 そう思いながら、電車に揺られてる。 そして。 少しの不安を感じながら。 今日、降って湧いた康志との再会。 ヤツが俺に会いたがってると知った時。突然のことに面食らい、玲史を傷つけて。玲史を失うことに怯えたが、自分を信じ。玲史に気持ちを伝え、わかり合えた。 置き去りにしてきた過去の精算は、俺と康志2人でする。 最初に頭に浮かんだのは、康志にダメージを与えてやりたいという暗い欲だった。 あの頃に俺が受けた屈辱と怒り、惨めさと憎しみ。それらを同等分、ヤツに味わわせたい。もちろん、同じコトをしてっつうんじゃなく。同じ深さの傷を、心に負わせたい。自分を嫌になる……そんな傷をだ。 リベンジなんてカッコいいもんじゃない。ただの自己満足。ヤツの傷ついたツラを拝んでスカッとしたいだけ。そうでもしなけりゃ、負の感情を消し去れない。そのつもりで、ヤツと会った。 けれども。 寮の前で康志を1年11ヶ月ぶりに見た時。中学の頃の長い茶髪は黒い短髪になり、高校の制服をきちんと着て。ルーズでイキがった雰囲気はまるでなく、姿勢を正して俺を待つその姿に。その変わりように驚いて、イヤミのひとつも口に出来ず。ギクシャクと挨拶を交わし、とりあえず場所を変えようと歩き出し。向かったのは駅前のカラオケだ。 ファストフード店でも駅前広場のベンチでもよかったが、落ち着いて話せる……人目がないところを希望したのは康志で。その理由は、すぐにわかった。 カラオケの個室に入るなり、康志が土下座した。 『俺が悪かった。すまなかった。俺は最低のクズだった。もう一度……ちゃんと、謝りたかった。許してもらえるとは思ってないが、謝らせてほしい。本当に悪かった。俺を殴ってくれ。俺を痛めつけてくれ。少しでも、お前の気を晴らしてくれ……頼む』 そう言って床に額を擦りつける康志を、黙って見下ろした。 土下座のパフォーマンスは無意味だが、あの康志がそうすることは意外だった。 自分で自覚する通り、ヤツはクズで。何度謝られても今さらで。俺が心置きなく気を晴らせるように人目を避けたのかもしれないが、ヤツを暴力で痛めつける気はなかった。 沈黙のあと。 『お前が好きだった。どうしてもほしかった。身体を落とせばお前を手に入れられると、甘く考えた。最低の手段を使って……お前とやって、絶対に手に入らなくなって……死ぬほど後悔した』 顔を上げた康志が声を震わせ、続けた。 『もし、お前を脅してなかったら……俺がマトモに告ってたら、可能性は……ゼロじゃなかったか?』 聞かれて。 『ゼロだ。俺は、お前が嫌いだった』 ハッキリ言った。 恨みゴトは山とあった。いくらでも罵れたが、しなかった。 康志の涙を見たからだ。 俺に謝り。最低のコトをした言い訳をして。嫌いと言われ。泣く康志は……俺の望み通り、惨めな様子だった。 同時に。どこか、ホッとしてるように見えた。 康志も、あの過去を引きずってたのか。ケリをつけたかったのか。俺に会って謝罪して、過去の自分を否定されることが必要だったのか。 それが叶って、やっと解放されたのか。 俺は……これで気が晴れたか? 罵倒してない。たぶん、今の康志を傷つけてもいない。特にスカッともしちゃいない。 なのに。 足元の康志を蹴ることも笑うこともしたくなかった。 どうすりゃ、俺は俺のケリをつけれるんだ? 考えながら、玲史を思った。 俺には玲史がいる。玲史には俺がいる。玲史も今、母親と向き合ってる。 『康志』 静かに口を開き。 『もういい』 以前の俺には出来なかったが、今なら出来ると思った。玲史がいるから。玲史を好きになったからだ。 『俺はもう、お前を思い出さない。俺は……お前を許す』 俺は俺のために。 康志を許した。 瞬間。あのコトを完全な過去にするために必要なのはコレだったのがわかった。 驚きに涙目を見開いた康志と見つめ合った。 お互いを探るように。瞳を揺らさずに。今まで逸らしてきて見ないでいたモノを直視するように。 暫くして。 康志が頷いて、ありがとうと言った時。実感した。 やっと、終わった。 胸の底に張りついてた負の感情の澱が溶けてなくなった。 康志を許せた自分にまたひとつ、自信が持てた。 その後。俺も康志も憑き物が取れたように気が楽になり。ちょっと話をしてからカラオケを出て、駅の改札前で別れた。 元気でな、と。久しぶりに会った、ただの友達みたいな雰囲気で。もう二度と会うことはないとわかってる顔で。 そして。 今。 電車に乗ってる。 玲史に会いたい。 顔を見たい。声を聞きたい。存在を感じたい……が。 熱くなって。風紀本部でのあの衝動にまた襲われたら抗えず、触れて。ほしいのは心の快感でも、身体が反応して……身体の快感もほしくなるかもしれない。 ソレは、困る。 今日は……今日だけは、ダメだ。 『セックスしない僕に価値ないじゃん』 そう言った玲史に。そうじゃないことをわかってもらうために。言葉だけじゃなく、行動で示したい。 だから、今日は欲情したくないのに……するかもしれない。2週間前より5日前より昨日より今日こそ、ほしくなるかもしれない……いや。 ほしくなる。ほしくなっちまう。 ソレだけを求めてるんじゃなくても。 欲情しても、俺から玲史を求めずにはいられるとしても。 求められたら、絶対に我慢出来ない自信がある。 だから、不安だ。 それでも。 今日。今。会いたい。 会いたくて、玲史のところに向かってる。 約束はしていない。 お互いの用事が済んだら会おう……とは、俺も玲史も言ってない。言う必要はなかった。言わなくても、わかる。 今日、会いたいと思わないわけがない。 今、6時10分前。5時からの予定なら、玲史はまだ母親と会ってる最中だろう。 お前には俺がいる。 納得のいくまで、母親と話をしてほしい。 願いながら、電車を降りた。
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