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第4章①
カトウが自室でコミックブックを読みふけっていた頃ーー。
クリアウォーター家の姉弟は幼少時代を過ごした家のキッチンで、顔をつき合わせて夕食をとっていた。
「ソイ・ソース で煮込んだ野菜なんて久しぶり。悪くないわね」
スザンナはそう言って、フォークで筑前煮のニンジンを突き刺した。日本食に抵抗感はないが、弟のように箸で食事ができるほど日本文化に染まってはいない。クリアウォーターは姉の平皿に、ライスのおかわりを盛りつけた。
「父さんと母さんの調子はどうだい?」
「相変わらずよ。会うたびに、疲れやすくなったとか、目が悪くなってきたとか、そんな話ばっかり。でも二人とも元気よ。年の割には」
「なら、よかった」
「あんたの方は、どうなの? 仕事で危ない目に遭ったりしてない?」
「うん、至って平穏だよ」
これ以上ないくらいに自然な調子でクリアウォーターは言ったが、スザンナはなぜか、うさんくさげな眼を弟に向けた。
「ふん、どうだか。そんなこと言って、実は爆弾で吹き飛ばされそうになったり、狙撃されそうになってたとしても、あんたの場合、ちっとも分かりやしないんだから」
クリアウォーターがうろたえたとしても、顔面には毛筋ほどの変化も現れなかった。
「何だい、そりゃ?」
「例の大尉さんに聞いたのよ。一、二ヶ月くらい前に、そんな事件があったって。詳しいことはその人も知らなかったけど……まさかと思うけど、ダン。あんた、それに巻き込まれたりしてないでしょうね」
クリアウォーターは肩をすくめた。
「そんな映画みたいなエキサイティングな経験とは無縁だよ。私の日常は、もっと散文的で退屈なものさ」
うそを吐く舌は、機械さながらの精密さで、完璧に制御されていた。
スザンナはまだ不信感を漂わせていたが、「…ま、そういうことにしておきましょう」と意外にあっさり引き下がった。そのまま、正枝がつくった料理を黙々と平らげていく。生来、よく食べる方なのだ。その姿には、以前と大きく変わった様子も、ひどく落ち込んでいる様子も見られない。
それを確認した上で、クリアウォーターは再会して以来、ずっと気がかりだったことを尋ねた。
「それで、姉さんの方はどうなんだい? エリックとは……」
スザンナの夫、クリアウォーターにとって義兄に当たる人物の名前。それを聞いた途端、スザンナのフォークがすべって、がちゃんと音を立てた。
クリアウォーター家の長姉は、弟を褐色の瞳でにらみつけた。弟が何か生意気なことを言ったり、したりした時、スザンナはいつもそうしてきた。
幼少期から変わらぬその目つきに、クリアウォーターは自分の予想が的中したことを知った。
姉の左手にあったはずの結婚指輪がなくなっている理由について――。
「――いつ、離婚したんだ?」
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