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第4章②
もったいぶった回りくどい聞き方は、この姉には逆効果だ。スザンナはいつだって、裏表のないストレートさを好む。会話も、人付き合いも、そして生き方も――。
案の定、
「二ヶ月前よ」
姉はすぐに白状した。
「でもその前から、大分ぎくしゃくしていたの。仕事でも、プライベートでも」
エリックはニューヨークの某出版社に務める編集者だ。スザンナは彼の妻であると同時に、大事なビジネスパートナーである――少なくとも、クリアウォーターが最後に会った頃はそうだった。
「離婚の決定打は彼の浮気。相手はあたしよりずっと若い、金髪のかわいらしいお嬢さんだった。いいオッパイしてたわよ」
「…浮気現場に乗り込んだのか?」
「いいえ。あたしの留守中に、その金髪娘をうちのベッドに招待してたのよ」
さすがにこれにはクリアウォーターもあきれて、姉に同情の念を禁じえなかった。
もっとも、現場を見られた義兄もただで済むはずがなかった。怒り狂った妻によってベッドから引きずり出され、そのまま家の階段から突き落とされたという。前のめりに落ちていき、打撲傷だけで済んだのは幸運だったというべきだろう。金髪の女性の方は、修羅場のあまりの激しさに恐れおののき、自分の服とバックをつかむと、ほうほうの体で退散したとのことだった。
「やり直そうとも思ったけど、やっぱり無理。プライベートがそんな状態な上に、ビジネスの方でも、私の考え方が『もう古い』なんて言われちゃね。エリックとの間に子どもがいなかったことを、初めてありがたいと思ったわ。別れるのに、書類上の手続きと引っ越し業者の手配だけで済んだんだから」
スザンナはふっと息をついた。
「それで、仕事の方も今は休業状態ってわけ。で、思いきって休暇旅行 に出て、ついでにあんたの顔でも見に行ってやろうって思いついたわけ」
「ついで、ね」
クリアウォーターは苦笑いする。姉のことだから、その言葉通りなのだろう。
それでも、自分のことを気にかけてくれるのはありがたい話だった。
クリアウォーターはテーブルの食器を片付けながら、姉に聞いた。
「ちょっといい白ワインか、よければウィスキーがあるけど。どっちか飲むかい?」
スザンナは一瞬、きょとんとしたが、すぐに、にやりと笑った。
「ウィスキー。当然、飲み方はストレートで。ダブルでお願いね、少佐 」
よく食べるし、よく飲む姉は、健在のようだった。クリアウォーターは棚からボトルを取り出すと、グラス二つと手早く作ったチェイサーを手に、リビングでくつろぐ姉のところへ持って行った。
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