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第4章③
実際にクリアウォーターが姉に会うのは数年ぶりだった。今の仕事を続ける以上、さらに何年かは日本での暮らしが続くことになる。だから、クリアウォーターとしても、こうして姉に会える機会を大事にはしたい。
とはいえ――姉が荻窪の邸にしばらく滞在するつもりなら、カトウとの逢瀬は先のばしにするか、あるいはどこか他に適当な場所を物色しなければなるまい。
しかし、クリアウォーターの悩みは杞憂に終わった。
翌日の昼頃、いつもより遅く起きだしてクリアウォーターがブランチをとっていると、そこにシャワーを浴びたスザンナがやって来た。姉はどっかり椅子に腰を下ろし、長い脚を伸ばすと、断りも入れずに弟が作ったタマゴのサンドイッチをつまんだ。そして、
「あたし、今晩出かけるから」
開口一番にそう弟に告げた。クリアウォーターは飲みかけたコーヒーカップを、途中で下ろした。
「私の案内 は必要かな?」
「結構よ。タクシーさえ呼んでくれたら、あとは着いた先で待ってる人がいるから。多分、遅くなるから先に寝といて」
「了解」
クリアウォーターは心の中で口笛を吹いた。やった。姉が出かけてくれさえすれば、カトウをここに呼ぶことができる。
クリアウォーターの浮かれた思考は、スザンナの声で中断された。
「ところでダニエル。あんた今、恋人いるの?」
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