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第5章④
「ちょっと、ダニエル……」
カトウの抗議の声は、ズボンに突っ込んできた恋人の手であっさり封じられた。硬くなったものをしごかれ、カトウは自分のものと思えない声を上げた。
「二階に行くまで、我慢できない。…君もそうだろう?」
そう言われ、カトウの頭はくらくらした。まるでクラゲになったみたいに、手足に力が入らない。
今この瞬間、少なくとも身体の方はーークリアウォーターの意見に、全面的に賛意を示していた。
「でも……お姉さんが…帰ってきたら……」
「遅くにしか帰ってこないよ。それに、たとえ運悪く鉢合わせしても――」
クリアウォーターは意地悪な忍び笑いをもらした。
「夕方のことを思えば。ちょっとくらい居心地の悪い思いをさせても、心は痛まないよ」
二人が会話らしい会話を交わせたのはそこまでだった。
クリアウォーターはカトウの服をむしり取るように剥ぎとり、自分も同じように脱いだ。散らばった服の行き先など見向きもしない。ただ、カトウのことだけ見ていた。
カトウの色素の薄い肌はすでに赤みを帯び、汗で輝いていた。その肌の上に、数えられないくらい傷跡が走っている。胸に残る真新しい傷に、クリアウォーターはそっと口づけた。
傷は、カトウが歩んできた人生の過酷さを象徴するものだ。古いものもあれば、真新しいものもある。そのいくつかは―ークリアウォーターの犯した失態が原因で、負わせてしまったものだ。
そのことを絶対に忘れるつもりはない。カトウ本人がクリアウォーターを許してくれたとしても。新しい傷跡など、まったく気にしていないふりをしていたとしてもーー。
ーー二度と。彼に傷を負わせはしない。
クリアウォーターはそう自分自身に固く誓っていた。
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クリアウォーターが愛撫にかけた時間は、短いが濃密だった。
カトウは最初、目を閉じてされるがままだったが、やがて耐え切れなくなった。あえぎながら、熱くうるんだ瞳で懇願した。
「…早くして……」
クリアウォーターがうなずいた。多分、ズボンのポケットにでも忍ばせていたのだろう。奇術のように潤滑油の入った容器を取り出すと、それに指をひたした。
カトウの後ろの孔が、太く長い指で開かれていく。二ヶ月ぶりの行為。痛みと息のつまる違和感は、ほどなく快感にとってかわる。うつぶせの状態で、カトウはソファに爪を立てる。一番、敏感なところを攻められるうちに、あえぎは細い嬌声に変わった。
イキそうになる寸前、指が引き抜かれた。身体があおむけにひっくり返される。クリアウォーターの低い声が耳元をかすめた。
「…いくよ」
そう言われた直後、指と異なる太さと硬さを持つものでカトウは貫かれた。自分では作り出すこともコントロールすることもできない快感が、脳天からつま先まで駆け抜ける。自分が今どんなに、あられのない姿をしているか、思いめぐらす余裕もない。ただ感じるままに乱れた。
「ジョージ・アキラ…」
クリアウォーターがカトウの名を呼ぶ。応えるかわりに、カトウは両足を恋人の腰にからませ、その背にしがみついた。
抽送の速度が上がる。貫かれ、えぐられ、ついにカトウは限界を迎えた。汗と涙にまみれた顔をクリアウォーターの肩に押しつけ、カトウは達した。熱い欲望が、白い飛沫となって飛び散り、腹と太ももに跳ねる。それが終わるより先に、クリアウォーターの手で太ももを強く握られた。
相手が溜まりに溜まった欲情をカトウの中で吐き出すのが、ゴムごしにも感じられた。
それは今まで交わしたどんな行為よりも長く、熱いものにカトウは感じられた。
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