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第6章①

 ……珍しく、カトウは真夜中に目が覚めた。  以前、しばらく不眠に悩まされた時期があった。しかしケガによる入院生活を続ける内に肉体的にも精神的にも、緊張の糸が切れたのだろう。今では身体も心も、その持ち主に負債を取り立てるかのように、貪欲に眠りを要求するようになっていた。一度、眠り始めるとたいてい明るくなるまで――休日など昼前まで寝続けることも珍しくなかった。  カトウのすぐ傍らで、クリアウォーターはぐっすり寝入っていた。  今晩だけで都合三回、二人はセックスした。欲望のままにリビングで交わったあと、風呂場で一回、このベッドの上で一回。時計を見ると、二人が最後に達してから一時間ほどが過ぎていた。  カトウはのどの渇きを覚えた。寝室に置かれた水差しは空のままだ。先ほどまでの行為でクリアウォーターも汗をかいたので、起きた時に水分を求めるかもしれない。  カトウはベッドのそばに脱ぎ捨ててあったパジャマを着て、一階に降りることにした。  傾斜がやや急な階段を慎重に降りていく。リビングに続く扉に手をかけた時、中から光が漏れていた。 「…あら。泊まっていったのね」  ソファでくつろいでいた人物が、カトウの方に振り返った。スザンナだった。帰ってきて風呂に入ったのだろう。濡れた髪をタオルでくるみ、夕方に見たツーピースのかわりに、ゆったりとしたナイトガウンに着替えていた。  とっさに反応できないカトウに、スザンナはざっくばらんにすすめた。 「そんな所に突っ立てないで、中に入ったら?」  ほかに選択肢もない。カトウは仕方なくその言葉に従った。しかし夕方の一幕のこともあり、カトウはこの激しい気性の女性にどう接したものか迷った。   ーー手早く用事だけ済ませて退散するのが、一番いいかもしれない。  そんなふうに思っていた時、カトウの視線がテーブルの上に引き付けられた。  ウィスキーのグラスと、つけあわせのチーズの皿。そのそばに無造作に転がされた鉛筆。そしてーー。  紙に描かれたラフなタッチのイラストを見たカトウは、思わず口走った。 「ブラック・トルネード?」  フェルミから貸してもらっているコミックブックの主人公が、カトウの方を見返していた。 「知ってるの?」  スザンナの表情が思いがけずゆるむ。笑った顔には、クリアウォーターの面影が感じられた。 「コミック、読んだことは?」 「あります。というか今ちょうど、友人に借りて読んでいるところです」 「そう。それで、どう? 面白い?」 「はい……あの。あなたもファンなんですか」  その言葉を聞いて、スザンナは吹き出した。 「ファンといえばファンね。それも一番の。だって好きで描いているんだから」  そう言って、ウィスキーのグラスを軽くカトウに向けて揺らした。 「あれ、私が描いているの。シルバー・スター社から出ている『ブラック・トルネード』の原作者であり、作画も手がけている『チャーリー・スミス』はあたしよ」

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