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第6章②

 アルコールが入っているということもあってか、スザンナはやたらと饒舌だった。  ただ限度や節度というものはあってしかるべきだろう。  破局に至った結婚生活や、公私ともにパートナーだった人物の裏切りを、初対面の自分に話して大丈夫かと、聞いているカトウは逆にハラハラした。 「あたしはまだまだ、ブラック・トルネードをやり続けたいの」スザンナは言った。 「でもエリックの奴は、鼻で笑ったわ。売り上げが落ちている。敵がナチスなんて、もう流行らない。何より戦争が終わったんだから、もうヒーローなんて必要ないって――で、結局ケンカ別れしたってわけ」  スザンナはグラスを傾け、ウィスキーを飲みほした。 「つらいものよ。自分が好きなものを描けないのは」 「………」 「あ、悪いわね。あたしばかり飲んで。どう、一杯?」 「いえ。俺は…」 「ああ、そうだった。あなた、お酒はダメだったわね。ちょっと待って。冷蔵庫に何かあったはずだから」  スザンナはそう言って、カトウに飲み物が必要かどうかも聞かずにキッチンの方へ行ってしまった。  カトウとしては、席を立つ機会を逸した形になった。 ――俺が下戸だって。少佐に聞いたんだろうな。  少なくとも、酒を強要されずに済むのはありがたいことだった。前にガーデン・パーティーでさらした醜態をここで繰り返すのはごめんだ。  スザンナは冷蔵庫をしばらくあさっていたが、まもなくオレンジジュースが入ったグラスを手にカトウの所へ戻ってきた。クリアウォーターに、ジュースを毎日飲む習慣はない。だからそれは、カトウのために買っておいてくれたのだろう。  スザンナももう十分、飲んだらしい。カトウの斜め前に座ると、ウィスキーのかわりに水をグラスに注ぐ。  それを一口飲むと唐突に、 「ーー出かける前のこと、悪かったわね」と言った。 「あなたを子どもと間違えたこと。改めて謝罪させてちょうだい、カトウ軍曹(サージャント・カトウ)」 「いえ……お気になさらず。時々、あることですから」 「みたいね」  すでにクリアウォーターから色々、聞きだしたのだろう。スザンナは否定せずにグラスを傾けた。 「それで。ダンとはうまくいっているの?」 「え? ええっと……」 「何よ。問題発生?」 「いいえ。そうじゃありません。むしろ逆で……お世話になりっぱなしというか」  カトウは自分が着ている服を――真新しい薄藍色のパジャマをつまんでみせた。 「これ、少佐がわざわざ俺のために用意して下さったんです。ほかにも……実は俺、少し前にちょっと入院していた時期があったんですけど、その時も忙しいのに毎日のように顔を見に来てくれて」  クリアウォーターは昼間、来ることもあれば本来の面会時間が終わった夜に来ることもあった。『ヨロギ』にまつわる事件の証言や裏づけを取るという口実で。そして毎回、カトウと話をして、励まして、口づけて、数日に一度は必ず何かの差し入れか贈り物を持ってきてくれた。  そういうことをカトウが訥々と語ると、スザンナはにやりと笑った。 「なんだ、ベタ惚れじゃない――お互いに」  言われてカトウは顔を赤くした。 「それだけ、うまくいっているなら。あたしがわざわざ気を回して、何かする必要なさそうね」  その言葉を聞いて、カトウの頭にぱっと浮かんだことがあった。 「あの。もしよろしければ、教えていただきたいことがあるんですけど…」 「あら、何?」  カトウは言った。 「この機会に、少佐にお礼の贈り物をしたいんですけど。何かアドバイスをいただけませんか」

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