23 / 30

第7章④

 包みを手にカトウが売り場を出ると、偶然、エレベーターの前でスザンナに再会した。彼女も何か買ったらしく、包装紙でラッピングされた箱を小脇に抱えていた。 「何か、いいものは見つかった?」 「はい。一応……」  カトウは持っていた包みを示し、その中身をスザンナに教えた。聞いたスザンナは唇をすぼめ、口笛を吹きかけて寸前でそれを思いとどまった。淑女にはふさわしくない行いと、思ったらしい。そのかわり、口紅を塗った口で「にっ」と笑った。 「あなた、ロマンチストって言われたことない?」  思わぬ言葉に、カトウはまごついた。ロマンチスト?――生まれてこの方、そんな風に評されたことはなかった。チビだの、根暗だのは、しょっちゅうだったが。 「褒めているのよ」スザンナは言った。 「悪くないチョイスだと思う。それと一緒に小さな花束でも贈られたら、あたしならその相手にキスするわね」 「ダニエル、喜んでくれますかね」  言ってから、カトウははっと顔を赤らめた。クリアウォーターをファーストネームで呼ぶのは、二人きりの時だけだ。それなのに、つい気が緩んで口にしてしまった。  そのことにスザンナも気づいたようだ。ますます、顔をにやけさせた。 「(ダン)の反応は、あなた自身で確かめたらいいでしょ。――さあ。お互い、目的のものは買えたようだし、そろそろ行きましょうか」  TOKYO PXを出たあと、てっきりそのまま荻窪に戻るものとカトウは思っていた。あるいはせいぜい、どこか近くの店で遅めの昼食をとるとか。しかし、銀座の通りに出たスザンナが向かった先は、意外にも停車していた一台のジープだった。 「ハアイ、エイモス」 「ハーイ。スー!」  ジープの運転席に座っていた麦わら色の髪の男が、スザンナに気づいて手を振った。スザンナはジープに駆け寄ると、笑顔で男と言葉を交わした。  遅れてやって来たカトウに、彼女は言った。 「紹介するわ、カトウ軍曹。こちら、第五航空軍に所属するエイモス・ウィンズロウ大尉よ。ウィンズロウ大尉、彼はジョージ・アキラ・カトウ軍曹。参謀第二部の傘下で働いているわ」 「あら、よろしく」  ウィンズロウはウインクして、カトウと握手した。  ジープから降りて気づいたが、エイモス・ウィンズロウ大尉は、妙に手足の長い男だった。その長い腕で、スザンナの肩をさっそく親しげに抱き寄せ、ニコニコしている。  人を第一印象で判断するのはよくないーーそう思いながらも、カトウは何となくその挙措に反感めいたものを感じた。 ――なんか。なれなれしいな。  もっともスザンナの方はと言えば、別に気にした風もない。抱擁されながら、カトウの方を振り返った。 「ウィンズロウ大尉は、あなたと同じなの」 「はい?」 「あたしの描いている漫画のファン」  するとウィンズロウがすかさず、「大ファンの間違いよ」と口をはさんだ。 「その辺のさんと一緒にして欲しくないわ。ワタシ、ブラック・トルネードの第一話を読んだ時から、アナタは特別だって確信したのよ、スー。ニューヨークのパーティでアナタに会えた時の感激ったら、もう! 今でも覚えてる。雷に打たれた気分だったわ、ダーリン」 「大げさね」 「…………」  カトウは呆気にとられた態で、二人の間で交わされるやり取りを眺めた。アメリカ英語圏で暮らして、計十数年。母語の日本語より理解力が劣るとはいえ、ここまであからさまだとさすがに分かる。  ウィンズロウ大尉の話す英語は、大多数の成人男性が話す英語と大幅なズレがあった。 「これからウィンズロウ大尉が、いいところに連れて行ってくれるから」  スザンナはそう言って、不敵に笑った。 「せっかくだから、あなたも一緒に行きましょう。カトウ軍曹」  ……なぜだろう。  とてつもなくイヤな予感しかしなかった。

ともだちにシェアしよう!