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第10話(5-1)
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成田空港到着ロビー
だいぶ気合いを入れた、いかにもミュージシャンです!といった出で立ちでロビーに立つ男は目当ての人を見付けると、絶対に逃すまいとダッシュで駆け寄り、サングラスを外して微笑んだ。
「お帰りダーリンっ!」
「…迎えってあんたかよ…っ!」
従姉妹に騙されたと顔をしかめる珊瑚。
「ちょっと…!約4ヶ月振りの再会だよ?
もう少し何かないの?」
「何かって何…?」
「"久しぶりだね"とか…!
"髪切ったの?"とか…!
でも相変わらずツンツンしてるとこもかわいーっ!」
「相変わらずうるせーヤツだな…。」
「ハグとキスくらいしよーよ。」
「お前日本人だろ…?
早く行こーぜ。俺は時差ボケと子守りで疲れてるんだよ。」
「OKっ!
早く帰ろう!それからゆっくりヤろうっ!」
「……あれ?俺日本語喋れてる?
通じてないのか…?」
珊瑚が錯覚するくらい翔はポジティブに会話を捉えて珊瑚のスーツケースを転がしていく。
移動中の車内ではざっくりとお互いの4ヶ月間を話した。
翔は小まめに近況をLINEをしていたのだが、珊瑚の返信はいつも一言だけ。
あとはたまに写真が送られてくるだけだったので、翔は心配が尽きなかったのだ。
「カナダどうだった?」
「ちょっとそれ今話したくない。」
「…いいよ。飛行機ドイツからだったよね?実家帰ってたの?」
「そー。みなに荷物預かって…このデカイスーツケース、後で届けねーと…。」
「お土産?
ねー、俺ん家直行でいい?」
「8時までに犬引き取りに行けって。
面倒みる約束なんだけど…。」
「そーだったね!
じゃあそこ寄って、凪ん家か。
凪たち明日まで帰らないから俺も泊まっていーよね?ねっ?」
「知らねーよ。
家主に聞けって。」
「…後で謝っとこうー。
凪が後輩で良かった!もし先輩だったら出来ないけどね(苦笑)
ってか、舌ピ開けたのっ?!
やべー!スッゲーエロいね。
ベロチューしてみていい?」
「うるせー、前みて運転しろよ。
高速だぞ。」
「じゃああとでねっ?」
「…寝るっ。」
「えっ?! 寂しいじゃん!!
4ヶ月分話そうよー!」
珊瑚はうとうとしながらも飛行機の中で隣の席の母子(母親、5才男の子、1才男の子)がいて、1才の子は泣き叫び、5才のお兄ちゃんも長時間のフライトに飽きてぐずぐずしていた話をした。
珊瑚は弟たちでこどもの騒音には慣れているので全く気にせず寝ていたのだが、さすがに母親もこどもも可哀想になり子守りをしていたそうだ。
「俺がこの子見てるからメシくらい食べなよ。で、食べ終わったらお兄ちゃんと少し歩いてトイレにでも行ってきたら?
お兄ちゃんはずっと座ってんの飽きたよな。
俺の撮った写真でも見る?特別にめちゃくちゃデカイクマの写真を見せてやろう。ビビるから他の人には内緒だからな。」
魔法の言葉で上の子をアルバムに夢中にさせて、母親から泣き叫ぶ下の子を預かる。
「あの、ありがとうございます。
でもご迷惑になるので…!」
「俺、兄弟多いから慣れてるし大丈夫。
今のうちに食べなよ。
ほら、飛行機の翼見えた?」
窓際の珊瑚の席から外を眺めさせればあっという間に泣き止む幼児。
「マジ天使だねっ!」
翔は感動してそう言うが…
「フツーだろ?
ってか、母親だけかと思ったら通路挟んで父親がぐーすか寝てやがって!
座席蹴飛ばして"テメーのこどもだろーが!何嫁さんに押し付けてなに自分だけ寝てんだよ
!ちゃんと面倒みろよ!"って言ってやったよ。」
喧嘩になるかと思いきや周りも珊瑚に賛同したらしく、その後珊瑚は父親と席を代わり、子守りのアドバイスに徹していたそうだ。
「スゲーな、さすがだね。」
そう誉めるが、珊瑚はもう夢の中だった。
「寝顔も天使だなぁー。」
翔はご機嫌でハンドルを握った。
1930
指示されたペットホテルに行き、平九郎を引き取る。
珊瑚は名乗る前に「本当に似ていらっしゃいますね~!今平九郎くん連れてきますね!」と言われ、紅葉が自分たちの顔を身分証明に使ったのだと理解した。
今日の散歩は終わっているというので、凪の家に着き、夜ご飯を与えようと、エサの量が書かれた紅葉のメモを読むが、何故か汚い字の日本語で書かれていて、読むのは珊瑚なのになんでドイツ語で書かなかったのかと片割れのアホさ具合に呆れた。
それから翔が調達してきた晩ごはんを2人で食べる。
食後はテレビを適当に流し、今の日本の流行を探った。
「あ、このフェスだよ!
明日Linksが出るの。」
「へぇー…。けっこうデカイイベントなんだな。」
「すごいよねー。あっという間にうちのバンドも追い抜かれるよ 」
「あんたはもっと売れたいとかないの?」
「そりゃああるけど…。
うちはLIVE中心のバンドでいたいからインディーズでやっていくのがいいのかなって。」
年間のLIVE数はLinksの倍以上のLiT Jは各地にコアなファンが多く、メディアへの露出より、LIVEでファンを増やすタイプのバンドだ。
「へぇー…。バンドもいろいろあるんだな。」
珊瑚はテーブルに肘をつきながらテレビを眺めてそう呟いた。
「まぁ、ゲームとかアニメの楽曲提供やらせてもらってるから、こう見えてもそれなりに収入はあるんだよー!」
「あ、そー。」
「そうそう!
って言うか、あのー、こんなタイミングで合ってるか分かんないけど…
やっぱりさ。ちゃんと付き合って欲しいんだけど…。」
「ぐだぐだだな…(苦笑)」
「お金…必要なら俺が出すからさ。
…とにかくもう他の人とSEXして欲しくない。」
「俺にそんな価値ねーよ。」
「そんなことないっ!!
あの日、急にいなくなってカナダ行くって…、スゲーツラかった。
離れてることよりも珊瑚がまた他の誰かを抱いたり、抱かれたりしてたらって思うと本当に胸が苦しくて…。
俺、遠距離でも頑張るし、ってか、マジで浮気してないよ? あ、小道具は使ったけどね!
女の子の連絡先も友達とかスタッフ以外は全部消したし。スマホ見て確認してもいーよ?
俺の長い髪…女の子みたいだって言ってたでしょ?
だからずっと伸ばしてたけどこの通り切ったし…!」
腰まであった髪は肩の辺りで切り揃えられていた。
翔なりに光輝に言われた努力と誠意を形にして珊瑚に示す。
「確かに髪は短い今の方が好みだけど、その髪色…あの犬とカブってるよ?」
満腹でソファー横の定位置にいる平九郎を指差すとそう指摘する珊瑚。
「マジでっ?!
あ、ほんとだ…っ!!(苦笑)」
「あんたって犬みたいだな…(笑)」
「いや、笑うとこ?
今、セクシャリティを越えた一世一代の告白をしてるんですけど…っ!」
「んー…30点かな。大事なとこ抜けてるし。」
「厳しっ!!
ってか、告白に点数つけられたの初めてだよー。」
「俺だってねーわ。
フツーにリテイク(赤点)だろ。」
「………。
どーしたら付き合ってくれる?」
「…キスして"好きだ"って言えばいーんじゃない?」
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