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第20話(8-3)
模様替えは想像以上に体力仕事だった。
一番うるさいアッシュとフィンは隣の親戚宅に牧場の手伝いに行かせ、一階のリビングでレニにサチをみててもらう。
まずは物置部屋をアビーの部屋に。
新しいベッドと机、本棚を入れたら少し狭いけど、一人部屋だ。
「これで彼女も連れ込めるな…(笑)」
からかう珊瑚に「遊びにきてもそういうことはしないよ…っ!」と真面目に返すアビー。
半年程しか誕生日が変わらない彼等は本当に仲が良い。それはここの家族みんなに当てはまるが、みんなが協力して生活しているというのが目に沁みて分かる。
村(田舎過ぎてここは町ではなく村扱い)には血の繋がらない兄弟たちを家族に迎える彼等を好奇の目で見る人もいるらしいが、複雑な事情があって家族になった子どもたちに神様のご縁があって出逢えたのだから何も恥じることはないのだと祖父母は日頃から言い聞かせているらしい。
問題行動の多かった子もいたが、ここ数年…特にサチが来てからはみんな落ち着いたらしい。
兄弟みんなで命に関わる病気を持って産まれてきた末妹を守ろうとしている。
フィンは毎日妹に薬を飲ませ、チェックシートに記入する大事な係を任されている。
サチは飲んだ水分量を計るためにメモリのついたコップを使っているのだが、1人だけ違うのは可哀想だと、みんなもそれぞれ色の違うプラスチックコップに手書きのメモリを書いているのだ。
フィンとアッシュは普段ふざけていることが多いが、サチがつられて興奮し過ぎると注意される前に止めるし、彼女の具合が悪くなるとすぐに走って行って大人に知らせてくれるそうだ。(アッシュは去年サチが倒れた時、5キロ先の珊瑚たちの学校まで1人で知らせに走ったらしい…)
さて、模様替えは少しずつ進めている。
アッシュとフィンの部屋は二段ベッドを一段ずつにして服や学校の勉強道具を片付けられる収納家具を用意し対になるように配置した。
レニとサチの部屋は女の子らしいシーツとカーテンに変えて、レニには姿見の鏡とサチにはおままごとも出来るオモチャ箱を揃えた。
レニは親の暴力で傷付き、学校をサボったりケンカしたりと問題行動が多かったが、サチと一緒に過ごすうちにどんどん優しい心を取り戻してケンカもしなくなり、学校の勉強も頑張っているそうだ。
実は翔はみんなに内緒でレニに鞄をプレゼントした。
お下がりなのかくたびれていたし、女の子らしいとは言えない物だったから…ブランド物じゃないけど、シンプルで使いまわしのききそうなものを選んで渡すと滞在4日目にしてようやく口を聞いてもらえた。
「将来何になりたい?」と聞くと「Nurse(看護師)…」と照れ臭そうに教えてくれた。
多少の出費はあったが、みんな大満足だ。
翔は珊瑚の兄弟との生活で自分の中で何かが変わっていくのを感じていた。
アビーを大人としてカウントしてもこども4人を連れての旅行は大変だった。
サチは広い園内を歩き回るのが大変なので、医療用のバギーに乗せて珊瑚が押して歩く。
どうしても人目を引くのでサチが落ち込まないようにみなからプレゼントされた水色のドレスを着せたのだ。
すれ違う人たちも「Hello! Little Princes!」と声をかけてくれる。お姫様扱いに気を良くした彼女は遊園地では乗れない乗り物の方が多いが、珊瑚にドレス姿の写真をたくさん撮ってもらうととてもご機嫌だった。
夕方チビッ子2人が疲れてサチのバギーで2人仲良く寝てしまい、フィンとレニにはアイスを、アビーにはジュースを買い与えて休憩をとる。
「せっかくだから2人で何か乗ってきたら?」
アビーが気を遣ってくれた。
迫力あるジェットコースターが気になっていた翔は喜ぶが、珊瑚は弟たちが心配なのか難色を示す。
「でも…」
「サン兄…大丈夫。
俺はもう乗り越えてるよ…。
サン兄もカケ兄も絶対俺たちのこと置いてどっかいったりしない。
もしサチたちが起きてもレニが頼りになるし、フィンも疲れて大人しくしてるから大丈夫だよ。」
アビーの言葉に頷いて珊瑚は翔とジェットコースター乗り場へ向かうことにした。
2人きりになると珊瑚は一度立ち止まり手で顔を覆いながら
「良かった…」と呟いた。
珊瑚は落ち着くのを待つと…
「アビー、ここじゃないけど…5才の時に遊園地に置き去りにされたんだ…。
あいつ記憶力いいから当時のこと覚えてて…今日もほんとは行きたくなかったんじゃないかとか、いろいろ思い出すんじゃないかって心配してた。」
自信をもってもう大丈夫だと、乗り越えられたと言ってくれたアビーの言葉に安心したという珊瑚。
「アビーが辛い過去を乗り越えられたのは珊瑚やみんながいたからだよ。
お前ってやっぱスゲーなっ!
さすが長男っ!」
翔はそう言って珊瑚を抱き締めると待たせると悪いから早く行こう!手をひいた。
「待って待って!何これ…絶対ヤベーよっ!」
上昇するコースターに焦る翔。
「ここのジェットコースター世界で何番目とかでスゲーやつなんだって!楽しみだな!」
翔はその台詞に固まり、珊瑚は嬉しそうにわくわくしていた。
「ギャーっ!!」
2人が弟たちの元へ戻る頃、翔の足元はふらふらだったそうだ。
End
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