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遠距離恋愛編~2人の距離~(1)
ミャーミャー…
ミーミーと鳴く仔猫たちに3時間おきにミルクを与える生活も5日目となった。
自分が拾ってきたので、飼い主が見つかるまでの間全ての世話を一人で請け負うつもりだったが、さすがに連日の寝不足はいくら珊瑚が若くても身体に堪える。
「この感じ…サチが赤ちゃんの時思い出すな…。
ってかヤベー…。
猫と犬と庭の花くらいしか撮ってない…!」
一応、職場には撮影休暇として特別に休みをもらっていて、(もちろん給料は出ないが、社会保険料などは負担してくれる理解ある職場だ)
良い写真が撮れたらコンクールへの推薦をしてもらえることになっていて、珊瑚は焦りを感じていた。
でも外はまだ寒いし、産まれたばかりの仔猫たちを置いてはいけない…。
困っていると、仕事の合間を縫って翔が顔を出してくれた。
「珊瑚ーっ!
ただいまっ!
って、ここ凪の家か!(笑)
仔猫たちはどう?」
「元気…かな?
チビだけミルクの飲みが弱くて心配だけど…。」
珊瑚が一番小さな白い仔猫を撫でて言った。
因みに平九郎に暖めさせている。
雄なのに母性(父性)のある犬で、優しく仔猫を暖め、舐めたりして、可愛がっているようだ。
「次ミルクあげるの何時?」
「さっきあげたから…2時間後くらい…。
ふぁー…っ、眠…っ!
なに、見たかったの?」
「うん。俺にもあげ方教えて!
そしたら珊瑚少し寝れるでしょ?
あ、隈出来てるよー?
せっかくのキレイな顔が…!
俺、ちゃんと覚えるかるさ!
明日の夕方まで休みだし、明日とか撮影行ってきてもいーよっ!」
「……意外。
協力してくれんの?」
「イクメンの時代だからねっ!(笑)」
「ありがと…。」
「嬉しい?」
「うん…。まぁ……。」
「とりあえず…
あと2時間あるから、エッチしよ?」
「………。なるほど?」
結局、仕事後の翔に合わせて2人でシャワーを浴びた。
軽い触れ合いだけで珊瑚は寝てしまったが、翔は満足だった。
会おうと思えば会える距離に恋人がいてくれるという事実だけで、精神的にこんなに安定するものかとお互いに驚いていた。
翔はソファーに横たわる恋人に毛布をかけてやり、ナチュラルゴールドの髪にそっとキスをした。
「さて…!
まだ時間あるし、キッチン借りて先に俺たちの飯でも作るかなぁ~!」
2人は寝不足と戦いながらもなんとか子猫たちの世話をする。
子猫たちが眠っている隙の短時間だが、食事デートにも出掛けた。(凪と紅葉の家にはペットモニターがあるので、様子を見ながらのデートだ)
手を繋いで街中を歩けば、長身の男2人組は人目を引くが気にせずに先へ進む。
秋葉原で珊瑚のカメラのパーツを買って、店に移動する途中で珊瑚は珍しい物を見つけ足を止めた。
「何これ…?」
「ん?あぁ、ガチャだよ。
やってみる?」
「スゲーある…!
本体ごと盗まれないの?
日本って変な国だなぁー。」
翔は小銭を入れて景品を開ければ、よく分からない小さなマスコットが現れた。
「ここに書いてあるやつのどれかが出るよ。
シークレットとかもあったりして…何が当たるかドキドキするでしょ?
200円か高くても500円くらいなんだよ。
あっ!これやろー!」
翔は珊瑚にも小銭を渡して好きな物をやってみるように告げる。
気が付くと2人して夢中になっていた。
「これいーね…。
開けずに友達へのお土産にしよ。」
「おっ!アリだね!
俺も面白いやつ適当に買っておくよ。
あ、パフェだって!
レニちゃんとかさっちゃんにどうー?」
「喜びそう。
なんかもう…本体が欲しい…(笑)」
「えー?売ってるかなー?(笑)」
そんな穏やかな日が1週間ほど続いたある日、珊瑚は仕事先からの電話に頭を抱えた。
翌朝…
ガチャリ…
「…ん、はよ…。」
「ごめん、やっぱ寝てた?
一応LINEしたんだけど…」
「昨夜渋滞ハマってさー。
さっき寝たとこ。…一緒に寝よ。」
「あ、おい…っ!」
引っ越してから初めて訪れた翔のマンションは以前の住まいと比べると華美な雰囲気はなかったが、珊瑚の部屋に比べたら十分に広く、綺麗で落ち着ける部屋だった。
疲れているのだろう、珊瑚を抱き締めたまま目を閉じている翔…
高めの体温が心地好い…。
「…なんかあった?」
「え…?」
「元気ないね…。」
僅な変化に気付いたらしい。
珊瑚は驚きつつも、彼の胸に顔を埋めたまま小さく答えた。
「チビが…
昨日死んだ。」
「…っ!
そっか……。」
それだけ呟くと翔は少し強めに珊瑚を抱き締めた。
無理に聞き出そうとはせず、包み込んでくれる恋人の優しさが珊瑚は嬉しかった。
セフレの時や付き合いたての時とは違う、安心感を得られるようになったのだ。
一番身体が小さくてミルクの飲みも弱い白猫…
体重が増えなくて病院にも連れていったのだが、体力がもたなかったようだ。
しばらくして、珊瑚は静かに話始めた。
「何がいけなかったんだろ…分からなくて…。」
「何も、いけなかったこととかないよ…。
可哀想だけど…そういう運命だったのかもしれないよ?」
動揺する珊瑚を優しく諭す翔…
「でも……
最初から拾わずにいた方が良かったのかも…。」
「でも珊瑚はそのまま放っておけなかったんだよな。
珊瑚が一生懸命世話したおかげで、温かい寝床もあったし、兄弟たちとも触れあえて、ミルクも飲めたじゃん。
幸せだったと思うよ。」
「……そう、かな…。
またなんかあると怖いから…今日は他の猫たちも病院に紹介してもらったとこに預けてきた。
情が移るから…もう会わない方がいいかも。
あ、平九郎も今日はみながみてくれる…。」
「そっか。
スゲー頑張ったね!
よしっ!寝不足だった分、一緒に寝ようー!」
「うん…。」
珍しく甘えるように擦り寄る珊瑚の髪を撫でて、翔はもう一度眠りについた。
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