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遠距離恋愛編~終止符~ (1)

※Links凪(25)紅葉(19) も登場します。 後にこの日の出来事を凪は「一生忘れないと思う」と紅葉に話したそうだ。 「ちょっと待って……! まさか…本気で言ってんのっ?!」 6月 梅雨の湿度と蒸し暑さに若干の苛立ちを覚えつつ、凪は先輩の翔に2人が昔よく通ったスタジオに呼び出された。 懐かしさに浸る間もなく、ドラムを叩くわけでもなく…話がしたいという翔から衝撃発言を聞いた凪… 思わず翔に詰め寄った。 「おー、 本気、本気っ!」 「いつもの思い付き…だよね?」 「それが今回ばかりは違うんだよね! あと2年って決めて、先月でちょうど1年経ってさ。気持ち変わんなかったからメンバーに一人ずつ話して、今に至るってわけ。」 「あと…8~9ヶ月?」 「うん。 LiT Jを辞める。」 あり得ないと、しばらく言葉が出ない凪。 「……ドイツに行くの?」 「…んー、まぁ…そうだねー。 いい加減、遠距離恋愛卒業したくて。 あ!でも珊瑚には言わないでよっ?! 絶対自分のせいでって気にするからさー。」 「…信じらんねぇ…っ! だって…翔くん…っ! LiT Jに全てを懸けてるって…!」 「もちろんそうだよ? 幻滅させちゃった? …実はさー、俺はずっと凪たちが羨ましかったんだよ? 仕事でもプライベートでもずっと一緒にいるってスゲー事だよね。 どっちも一緒にいられない俺はいつの日からかどっちかでいいから一緒にいたいって思って。 バンドと恋愛を天秤にかけたわけじゃないんだけど……なんて説明したらいーのかな? 遠距離恋愛ってさ、別れるか、一緒にいる場所をココって決めて片方か両方が引っ越すしか終わりがないわけじゃん…?」 「まぁ……そうなるよな…」 「俺は絶対珊瑚と別れたくないし、珊瑚と一緒に次のステップに進みたかったから決断しただけだよ。色々考えたけど、最終的にはシンプルに自分とってそこが一番大事なんだなぁって。 改めて実感したら府に落ちたって感じ?」 「海外移住もそうだけど、まず、10年背負ったバンドを脱退するって相当な決断だよ? …やっぱスゲーよ、翔くんはさ…!」 「そんなことないよー。 俺今年30、で、無職だよ(笑)」 「…仕事は?どーすんの? 音楽辞めないよね? そこだけは俺と約束してもらおうか。」 「おー…! うん、分かった。 音楽は辞めない…。 けど、仕事に出来るかはまだ分かんないからねー。 あ!とりあえずYouTuberにでもなろうかなっ?」 「……小学生や中学生じゃないんだからさ…!」 凪は頭を抱えた。 「分かってるよー!(苦笑) まぁ、貯金もあるし、しばらくはなんとかなるよー。」 「珊瑚に蹴り飛ばされんじゃねー?(苦笑) 頼むよ? いい大人なんだからね?(苦笑)」 「頑張るよ。 あー…、で。 凪にLiT Jのことを頼みたいんだ。」 「………。」 さらっとスゴいことを言われて凪は固まった。 まさかまさかと凪が一瞬だけ思っていたことが、本物になろうとしていた。 「他のメンバーが一緒にやるならお前しかいないって言うんだ。Linksを抜けてうちに来いなんて言わないよ?兼務でどう?」 「…いや、そっちの方が前代未聞だから…っ!」 Linksはインディーズの第一線で、LiT Jもマイナー盤だが10年間精力的にLIVE活動をしているバンドだ。兼務するメンバーなんて聞いたことがない。 「もちろん今まで通りのLIVE数やりたいとは言わない。 みんないい歳だしさー(笑)。 脱退の話した時に解散も話に出たんだけど、体力的にもLIVEは少しセーブしつつもやっぱりもうちょっとバンドやりたいんだって。 ほら、うちってみんな音楽バカだからさー(笑)俺もだけど、他に出来ることもないしって。あははっ!」 「笑ってる場合かよ…!」 「…あー、ごめん。 俺も…お互いの恋人が双子同士だからってことは抜きにして、純粋にドラマーとして一番信頼してる凪に頼みたいって思ってる…。」 「……そう言ってもらえるのは嬉しいよ…? 翔くんのこと、一人のドラマーとして尊敬してるからね? けど…、正直、マジで荷が重い…(苦笑) 前みたいに骨折してワンツアー代理ってのとは訳が違うし…。Linksは…多分メジャーにいくだろうし…。掛け持ちとなると…さすがに…! 俺一人の判断でいいのかってのもあるし…! えっと、誰か他に…」 珍しく、流石に動揺する凪。 「それねー…。逆に聞くけど他にいる? フリーか近々抜けれそうな、技術的にも人間性的にも俺や凪と同等クラスのドラマー…!」 「………このジャンルだと…多分いない、かな?」 「そうなんだよねー。 凪しかいないだよー。 で、もし凪が引き受けてくれるなら、事務所は光輝くんとこに入れてもらおうかなーって。」 「はぁ……。」 「何、その気の抜けた返事ー!(笑)」 「ちょっと頭の中、考えきれなくて…。 えっと、断ったらLiT Jって…」 「残るメンバーに判断委ねるけど… 多分打ち込み入れつつ、LIVEはその都度サポートでプロとか他のバンドから助っ人呼ぶのかな…。」 そんなことをして続けても長くは持たないだろうことは凪にも予想がついた。 「……。」 「……。」 しばらくの間を開けて、凪は頷いて、そのまま俯いた。 「…ありがとう。 押し付けてごめん…っ! 俺のこと、気の済むようにしてくれていーよ? 殴るなり、恨むなり…金取るなり… 欲しい物も全部やるし…」 「これ以上アホなこと言わないでよ。」 「凪…! …怒ってる?」 「可愛い子ぶるな。 自分よりデカイ男の上目遣いとかキモイ。」 「あ、ヒドイ…(苦笑)」 凪は長い沈黙のあと、はぁー…と、深い溜め息をついた。 「…出来るだけ飲みに行こ。 もちろん全部翔くんの奢りだからなっ?」 「ははっ! 了解ー!」 「あとは… そうだな… …幸せになって。 紅葉の家族のこともよろしく。」 「凪らしいね。 ありがとう。 約束する。 LiT Jを…宜しくお願いします。」 深々と頭を下げる翔を目の前にして、凪の目に光るものがあった…。 でもすぐに立ち直して、翔の肩を叩いて明るく振る舞うと、いつもの2人に戻ったのだった。

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