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卯太朗「と或る画家と少年の譚」→櫂「薔薇摘む人」
保さんと見上げる薔薇のステンドグラスが大好きだ。
柔らかく日が差し込んで、そこから色をまとった光が肌の上に落ちてくると、オレの青白い肌も隠されて、ちょっとは明るく見えるかなって期待してしまう。
「あれ?ここ、銘が入ってるんですね」
掃除の途中、身を乗り出して埃を払っていて気が付いた。
ステンドグラスの縁に彫り込まれたのは、作者の名前のように見える。
「この窓、作家さんの手作りなんですか?」
もしかして と思うと、ぞんざいに雑巾で拭いていたのが申し訳なくなってきた。
「ああ、日本画の久山 なんて言ったかな。どこかに画集があるよ。ああ、そう、久山卯太朗って人に作ってもらったんだよ」
「日本画の 人にですか?」
薔薇の花びらの部分を愛おしそうに撫でて、保さんは小さく笑う。
「うちにある小さな鳥の絵が欲しいんだって言ってね、私も気に入っていたものだったし断ったのだけど 」
滲む苦笑は押し切られたのだと思う。
「無理難題吹っ掛けたら諦めると思ってたら、本当に薔薇のステンドグラスを作るのだから、びっくりだよ。たぶん 彼の作品でステンドグラスはこれだけじゃないかなぁ」
「貴重な物じゃないですか」
雑巾で拭いてしまった罪悪感に肩を落とすが、保さんは一向に気にしていないようだ。
「久山さんにとっては、小さな鳥の絵の方が大事だったようだよ」
「素敵な絵だったんですね」
そうだね と呟いた保さんが、片眉を上げて考え込む雰囲気を見せた。
「でも、絵を渡したら表じゃなくて、幸せそうに絵の裏側ばかりじっと見ていたんだよ」
何か書いてあったのかなぁと言う保さんの横顔を見て、小さく「そうですね」と返す。
「もし、久山さんに向けたラブレターが書かれてたら、素敵ですよね」
ちょっと乙女志向だったかなぁと照れるオレの頭を、保さんは優しく撫でてくれて……
この頃のオレは、すっかり人が手を上げる動作に怯えなくなっていた。
END.
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