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恭司「フラミンゴミルクを君に」→司「棘の鳥籠」

 ずいぶん危なっかしい子だと、柔らかにベルを鳴らしながら入ってきた瞬間に思った。  初々しい  と、言うのか、突けば崩れて落ちるような雰囲気の子で、しかもこちらの足首を掴んで落ちることのできる子だな、と。  トラブルを起こしそうな気もするので、計都に耳打ちしてカウンターに来てもらった。  きょときょとと周りを見るのは物珍しいからだ。  こう言ったところの慣れていないのがよくわかる。 「いらっしゃい。はじめて来てくださって嬉しいわ、どなたか紹介してくれたのかしら?」 「あ、あの   だ 誰も……ネットで見かけて。素敵なお店ですね、こんな大人っぽところ、初めてなのでどうしたらいいか  」 「どうぞお座りになって」  自分の前の席を勧め、さてどうしたものか。 「お酒……も、あまり詳しくなくて」  正直、見た目だけで判断するなら、甘くてアルコールの低い物なのだけれど、これは勘なのかどうなのか、そうじゃない気がする。  目が合うと白い肌を赤くしてきゅっと照れたように笑ってくれるのが可愛らしいけれど  ちょっと知人を思い出してしまうのは、雰囲気や顔立ちが似ているからかもしれない。 「甘いのはお嫌い?」 「いえ、大丈夫 です」 「アルコールは?」 「平気です」  ものすごーく困る……大丈夫と好きは一緒じゃないし、アルコールの平気も摂取しての平気と強くても平気がある。  当たり障りのない無難な物を出せないこともないけれど、どうせなら美味しく楽しく飲んで欲しいと思う。 「お酒は好き?」  計都が隣に座って代わりに聞き始めてくれた。  オレが聞くよりも、計都が聞き出してくれた方がいいだろうと任せることにしたが…… 「大学の時にはよく……あ、でも居酒屋ばっかりで」 「飲み会?楽しかった?」  オレよりは計都の方が年も近いし、話しやすそうだ。  最初に感じた通り初々しいと思ったのは間違いなさそうで、新卒くらいだろう。こちらに出てきて、少し自分を出せる場所を探しにきたか……お相手探し、か……? 「  そっかぁ」 「あ、でも  苦味、好きかもしれないです、ちょと喉に残るような 苦いの 」  彼は、多分自覚がないんだろう。  唇の側に添えられた指と微かに見せた舌の色気を。  思わず眉間に寄った皺を指で押し、計都が睨んでくるのを見て見ぬふりした。  ちょっと色気にドキッとしたとか……やましい範囲に入らないだろう と、思いたい。 「テンチョ」 「はい、ごめんなさい」  ぷぅっと膨れた頬を指の腹で撫で、この敏感なフラミンゴの機嫌をどうやってとってやろうかと頭が痛かった。  話しかけてきた相手と、場所を変えて飲み直すと話しているのが耳に入ったのはしばらくしてからだった。  他の客の相手をしていて気づくのが遅れた。  壱がいてくれたら注意を払ってくれていたのかもしれないが、辞めてしまった人間を頼りにしてもしょうがない。  相手の下心に気づかずについて行ったんじゃなかろうかと、はらはらと背を見送る。 「   なぁんか、気にしてるね」 「えっ!!」  スツールに腰かけて、拗ねた顔の計都がくるくると回る。  危ないからと止めると  きっと火に油だ。 「テンチョの好みだよね、あんな感じ」  艶々とした唇をつーんと尖らせて、不機嫌極まりない顔をしているけれど…… 「可愛いな」  あばたもえくぼとはよく言ったものだ。妬いて膨れて唇を尖らせた姿が可愛らしいと思うのだから。 「ふーんだ。ちょっとほっそりめで、うなじ美人系で、無自覚お色気で、ちょっと天然とか、ど真ん中でしょ」 「ピンク頭が抜けてる」 「ふぇ?」 「髪がピンクじゃないと。これ絶対条件だから」 「ふぇ ぇ  」  勢いがなくなった回転を止め、つむじにちゅうっとキスを落とす。 「あと野菜嫌いもだな」  そう囁いてやると縁を赤くした綺麗なアーモンド形の目がオレを見上げる。  じぃっと見詰めるのは、オレがまだ計都の信用を勝ち取れていない証拠なんだろう。  きょろ と辺りを見回し、客の視線がこちらにないことを確認してから、計都の唇にちゅうっとキスをした。 「    計都だけだよ」  擽ったそうにする姿は、機嫌が直って絶好調のようだった。 END.

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