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手のひらの天使・2

「ただいま!」 「おかえりなさい、千代晴!」 「タ、タマゴは大丈夫か? まだ孵ってないか?」 「まだですよ。今日はおれの声に笑ってましたけど」  ほっと息をついて靴を脱ぎ、冷蔵庫にケーキの箱をしまう。 「すぐ飯作るからな。ケーキは食後に食おう。ナハトと瑠偉にも分けてやるか」 「ナハトと瑠偉くん、お泊まりしに行ったみたいです」 「ここ最近はナハトの世話になりっぱなしだったもんな。たまには瑠偉と二人で息抜き出来てたらいいが……」  ざく切りにした野菜と豚肉、豆腐にしらたき。それから勿論ソーセージ。全てを鍋で一緒に煮込めばあっという間に鍋の完成だ。我ながら雑だし、全てはスーパーで買った「白だしの素」頼りだけど。 「お鍋好きです!」 「毎日鍋でもいいよなぁ、この時期」 「明日は豆乳だしのお鍋にします!」  アツアツの白菜と肉を胡麻ダレやおろし醤油ダレに付けて頬張れば、口の中いっぱいに幸せが広がった。正直言ってスイーツ・ケーキより、こっちの美味さの方が俺は好きだ。  フォークに刺したソーセージに、ふーふーと息を吹きかけるヘルムート。地球に来て数カ月経ってもまだ上手く箸が使えない彼専用のスプーンとフォークには、勿論クラゲの絵が付いている。 「はっ、は、……あーっふ!」  丹念にふーふーしたソーセージも口に入れれば結局熱かったらしい。溺れる魚のように口をはくはくさせているヘルムートを見て、申し訳ないが大爆笑してしまった。 「ほら、牛乳飲んで口ん中冷やせ」 「はぁー……お鍋は美味しいけれど、たまに危険です……」 「わははは」  そうして美味い鍋をつつきながらも、俺はチラチラとタマゴの方に視線を送っていた。  母親の胎内にいる赤ん坊も外の声や音楽が聞こえている、とよく言われている。だから俺もヘルムートもよく笑い、よく語り合い、少しでも赤ん坊を気持ち良くさせて喜んでもらおうとしているのだ。 「なあ、名前決めたか?」 「千代晴決めてもいいですよ。おれ考えても、おかしなものばかりで……」 「顔見てから決めたいってのもあるよな。どうせならクーヘン寄りの名前にしたいし……後は、性別がどっちかにも寄るしな」  何にしろ話題は子供のことばかりだ。ヒト型になった時の子供服やオモチャも今すぐ用意したいのに出来ないことが歯がゆくて、頭の中で「買うものリスト」を思い浮かべては胸がいっぱいになり……幸せの溜息が出てしまう。  食後のケーキを食べた後は交代で風呂に入って、更に風呂上がりのアイスを食べてからヘルムートの髪をドライヤーで乾かし、同じベッドに一緒に入った。 「あったかいです! 地球の冬、しあわせです」 「お前は一年中幸せだろ」 「千代晴のケーキ、食べるたびに美味しくなってます! 千代晴のケーキ屋さんいつできますか?」 「まだまだ、まだずーっと先のことだ」 「赤ちゃんに兄弟できるのと、どっちが先ですかねー……」

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