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ああ、玉華殿 1

 問題の日曜日になった。  遠足に行く小学生のように朝から張り切っていた御袋はこの日のために用意したと言って、新調した着物、それも真っ赤な大振袖を俺の目の前に広げてみせた。 「……誰が着るんだよ?」 「あら、美佐緒さんに決まってるじゃない。帯も帯揚げも、それから帯締めも揃えたのよ。ほら、キレイでしょ」  金襴緞子の袋帯と、着物の色に合わせた薄紅色の帯揚げを見せびらかしながら、至極満足気な御袋の様子に俺はゲンナリするばかり。しばらくパスしていた女装が復活だ。よくぞこれまで自分を女だと思い込んだり、女装趣味に目覚めたりせずに済んだと思う。  もっとも、それは身近に二人の少年がいたからだ。御袋の制止も何のその、二人のあとをついて走り回り、フリルのスカートを履いたまま木登りはするわ、白いレースのハイソックスで川に入るわ、いたずらの限りをつくしていた俺、この妹みたいな姿の弟を恥ずかしがらずに男として扱ってくれた兄貴たちには心から感謝している。  頭の切れる二人のこと、俺が御袋のワガママの犠牲になっていると察して、男の子の遊びを教えてくれたってわけだ。  さて、足袋に襦袢と、和装に慣れている俺は次々にそれらを身につけ、振袖に腕を通すと、御袋が帯をふくらすずめにして結ぶ。きっちり結んでも息苦しくないところはさすが着付けの先生というべきか。  そのあとはすっかり御袋のおもちゃ状態、首を覆う長さの髪に赤いちりめんの布と白い羽根で作られた髪飾りをつけ、化粧を施して紅をさすと、どこから見ても成人式のお嬢さんで、親父や品子婆さんの賞賛を浴びたが、素直に喜べるはずなどない。

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