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ああ、玉華殿 2

 そして御袋自身も家紋入りのつけ下げを、親父はスーツを着込み、俺たち三人は都内にある玉華殿(ぎょくかでん)という結婚式場に車で向かった。  そこは結婚式と披露宴だけではなく、各種のパーティーなども催すことの出来る場所で、総合宴会場とでも呼べばいいだろうか。  ただし、未婚の男女が増えた上に、式はホテルや海外で、というカップルが多くなった昨今、結婚式よりも宴会場として使われる方が多く、子供の頃の俺は親父に連れられて、ここでの取引先とのパーティーに何度か参加したことがあった。  もちろん、そんな子供が退屈な会場にとどまっているはずはなく、料理やデザートを好きなだけ貪ったあとは建物の中庭を走り回ったのだが、大きな池の上に赤い橋のかかった広い庭園が印象に残っており、うろ覚えながらも十五年前の出来事を思い出していた。  当時三歳だった俺は例によってピンクの着物を着せられていた。その格好で和風庭園の高い山桃の木に登ったはいいが自力で降りられなくなってしまい、ワンワン泣いているところにやって来たのが俺より少し年上の、青い服を着た小学二、三年生ぐらいの男の子で、結構美少年だったと記憶している。  その子もパーティー参加者が連れてきた子供だったらしい、泣いている俺を見つけると「受け止めてやるから飛び降りろ」と言い、両手を大きく広げてくれたので、彼の言葉を信じてその通りにした。  ところが、俺の身体を抱きとめたはずみで彼は両腕を地面に打ちつけて擦りむいてしまい、血の滲んだ傷がとても痛々しかったのだが、「平気、平気。なんともないよ」と言い、俺を安心させようとして笑顔を見せた。

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