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ああ、玉華殿 3

 見たこともないフルーツが盛られた豪華なデザートの大皿、木登りのせいで泥まみれになった着物を見た母にきつく叱られたこと、当時大人気だった海鮮戦隊シーレンジャーのイラストが描かれた、お気に入りのハンカチを失くしたこと……俺にとって忘れられない一日の中でも、助けてくれたあの少年のことは一番の思い出となった。  三歳の俺にとって、彼はシーレンジャー以上のヒーローだった。言葉の足りないガキのこと、満足に礼も言えなかったと思うが、今頃どうしているだろう。きっと立派な大人の男になっているに違いない── 「美佐緒さん、ぼんやりしていないで。ほら着いたわよ」  十五年ぶりに訪れる玉華殿は昔と変わらない気品と静寂を保っていた。 『大都会の真ん中で緑溢れる結婚式、お二人の新たな門出は伝統と格式の玉華殿』というあの頃と同じ宣伝文句、同じ映像のコマーシャルが未だに放映されているあたり、ここの時の流れは十五年前で止まってしまっているんじゃないかと思う。  それにしても自分の見合い、それも相手が男というシチュエーションで再びこの場所を訪れる羽目になるとは。  かなり古びた外観は明治時代に建てられたレンガ造りの洋館を模しているが、建物の中身は和洋折衷、洋間・日本間が混在で、目的に合わせて部屋を使い分けている。

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