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ああ、玉華殿 4
宴会を行う大広間とは別に小部屋が幾つかあって、そのうちのひとつ、見合いをするには打ってつけの、八畳ほどの和室『松の間』に案内されたが、豊城家の人々はまだ到着しておらず、俺たちは大きな座卓の前に一列に並び、萌黄色の座布団の上に正座した。
床の間には季節に合わせた掛け軸と香炉が飾られ、その脇に一輪の山吹が生けられているあたり、茶室をイメージした部屋のようだ。
障子を開けた窓の向こうには笹や紅葉の姿が見えて、当の茶室に付属する露地のような庭が造られている。これはあの大きな中庭へと続いているらしいが、竹の柵で遮られており、向こうからは誰も入り込めないようになっていて、かつて庭を探検しまくった俺にこの場所の記憶がないのはそのせいだった。
緑鮮やかな枝垂れ紅葉、その根元に置かれたつくばいに当たった猪おどしが三人きりの静まり返った室内に軽やかな音を響かせ、どこからか鳥のさえずりまで聞こえて、なんとも雅な雰囲気、見合いの席にはぴったりだ。
そこへ入ってきた和服姿の仲居の女性が「いらっしゃいませ」と挨拶しながら、おしぼりと有田焼の茶器を目の前に並べ、薫り高い新茶を注いでくれた。
さすがにいい茶葉を使っている。これはやぶきたかな、などと思いつつ、煎茶を堪能していると、一度下がったさっきの女性が「お連れ様が御到着なさいました」と告げてきた。
いよいよあちらさんの御登場だ、さすがに緊張が高まり、トイレに行きたくなってきたのには困った。
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