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ああ、玉華殿 5

「……やあ、お待たせしてしまって。急なことで申し訳ありません」  現れた上品な紳士には見覚えがあった。豊城商事社長の豊城茂伸(しげのぶ)その人だ。物静かで落ち着いた人格者という見た目のイメージと、ビジネスにおける押しの強さが合致しないが、そういう人物ゆえに、ウチの親父に圧力をかけたという事実にも頷ける。  それから妻である和歌子(わかこ)夫人と、俺の見合い相手・聖爾という人──その格好、和服の正装に対してはスーツにネクタイで来てもらいたいものだが、淡いブルーのワイシャツの上に紺のジャケットを羽織っただけの軽装で、それでもスタイルがいいせいかカッコよくキマッて、御袋が誉めちぎるだけのことはある。  シルバーのネックレスやブレスレットなどといったアクセサリー類を身につけているのが軽薄というか軟派というか気障っぽく、まるでホストのようで好感は持てないけれど、これだけイイ男なら許されるって感じ。  さらりと流した栗色の髪、端正で華やかな雰囲気のする顔立ちは俳優だと紹介されても通用しそうだ。それこそシェークスピア劇の舞台にでも立てば似合うんじゃないか。『ロミオとジュリエット』あたりどうだろう、なんて、俺がジュリエットじゃねえぞ! こっちは結婚に反対して欲しい方だからな。  するとお互いの紹介もまだなのに、聖爾さんは俺を見てニヤリと笑いかけてきたので、何だか不愉快になった。  微笑むのではなく、いやらしい笑いを浮かべたのだ。初対面の『女性』に対して馴れ馴れしく笑いかけるなんて、ちょっと失礼じゃないのか。ムスッとして睨み返しても、気にしない素振りなのがまた憎らしい。

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