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ああ、玉華殿 6

 親父とにこやかに握手を交わした茂伸氏は御袋にも挨拶をし、それから二人に挟まれて座っている俺の方を見た。 「こちらが美佐緒さんですね。時の経つのは早いものですなぁ、お目にかかるのは何年ぶりでしょうか。それにしても、随分とお美しくなられた」  そんなお世辞を使う相手に対し、俺は黙って会釈をした。この人と会うのはおそらく十五年前のパーティー以来だが、その席上で彼は俺を「可愛いお嬢さん」とか何とか言って誉めたらしく、親父もいい気になって「それはどうも」みたいなことを答えたようだ。  どうやら俺という娘を自慢したくて、パーティーに参加させたらしいのだが、それって御袋と同類じゃねえか、何て無責任なヤツ。  その後、茂伸氏はずっと俺を女だと思い込んでいるらしい口ぶりで、彼の勘違いに対して親父は何の訂正もしなかった、というより、訂正出来なかったと表現した方が正しい。娘だと偽って紹介した以上、本当は息子です、と言い訳しづらいのは当然だろう。  息子を女として扱っている我が家の事情や、女の子の着物を着せて社交場に連れてきたと知られたら、とんでもなく非常識な親のレッテルを貼られてしまう。  この際黙っていれば誰も男と気づかないと高をくくっていたのだろうが、その甘さが今日の状況を招いてしまったのだ。のちに見合いを申し込む者が出てくるとは、当時は夢にも思わなかったに違いない。  そんなこんなの事情があって、親父は俺に今日の列席を強要した、ってわけだ。皺寄せは全部こっちにきて、何とも迷惑な話。

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