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ああ、玉華殿 7
「本当、お綺麗なお嬢様だこと。御趣味は何かしら、お母様に習ってお茶やお箏をなさっているってお聞きしましたけれど」
「ええ、はい……」
「お」を連発して御丁寧に話しかける夫人に対しても、俺は必要最小限しか言葉を発するわけにはいかなかった。見かけは女でも声変わりはしている、それこそニューハーフのしゃべりになってしまうからだ。
「ああ、これはおとなしいというか、人見知りする娘でして……」
親父が苦しい弁明を繰り返しているのをニヤニヤしながら見守る聖爾さんの様子が怪しい。何かを企んでいるように見えた。
しばらくしてお昼の懐石コースが運ばれてきた。向付は筍の木の芽あえ、焼物は甘鯛、煮物に八寸、吸物にはつくしまで入っていて、春を満喫したメニューに口の肥えた大人たちは御満悦で、そこでの会話は食のネタに終始してしまうのではないかと思われるほど。
本当は男という正体がどこでバレるかわからないから、俺本人についてはなるべく触れず、無難な話題で切り抜けたいという親父たちの意図は明らかだったが、対する豊城家の人々もこれといった質問をしてこない。自分たちの家に嫁として迎えるかもしれない娘について、何も訊くことがないというのも変じゃないか。
肝心の聖爾さんも時折こちらをチラリと見るだけで「これは美味しいですね」などと話を合わせている。照れているようにも見えないし、こいつはやっぱり怪しい。
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