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ああ、玉華殿 8

 デザートのメロン一切れを食べ終えた頃、「それじゃあ、お二人でお庭でもお散歩していらっしゃい」というお決まりの文句が和歌子夫人の口から出ると、茂伸氏がそうだそうだと満足げに頷いた。  そんな二人とは対照的に、親父と御袋は「絶対にボロを出すな」と脅迫するような目で俺を睨む。ええい、そんなの知ったことか。 「そうですね。行きましょうか、美佐緒さん」  聖爾さんは俺を促すと、松の間から廊下に出た。それから中庭に通じる出入り口までの道を先に立って歩き、庭に出てからは俺をエスコートしながら散策を始めた。 「四季折々に風情があって、いつ来ても美しい庭ですね。手入れも行き届いているし、これだけの広さの庭園を管理するのはさぞかし大変でしょうね、そうは思いませんか?」  聖爾さんは声優ばりの美声で、こちらを気使うように話しかけてきた。派手な見かけによらず紳士的な人のようだが、俺は緊張しているせいもあり、小さく頷くだけだった。  緑溢れる庭園には春の花々が咲き乱れ、その美しさを競い合っている。これがただの散歩ならどんなにか心安らぐだろうが、悠長なことを言ってはいられない。  そもそも今回の見合いは俺を娘扱いしたのがきっかけだから、この際、恥を忍んで真実を打ち明ければ向こうも納得するはずだ。  ただし、そいつは話を持ちかけられた時点で、親父たちがやるべきことじゃないのか。

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