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ああ、玉華殿 9
それなのに、何も言わずにそのまま受けるなんて、誤解をとくどころか、俺がお嫁に行くのを望んでいる気がしてならない。もしや御袋の差し金? まさかとは思うけど、有り得ないと言い切れないのがコワイ。
とにかく、親父たちはあてにならないので当日、頃合いを見て聖爾という人にワケを話す。それから彼に自分の両親を説得させて、この見合いは取り止め、なかったことにしてもらう。当人だって親同士の決めた政略結婚なんてしたくないだろうし、ましてや相手が男だとわかれば見合いどころではないから、一も二もなく協力してくれるに違いない。
──以上が当日における俺の作戦、いよいよ決行の時がやってきた。聖爾さんの後ろで大きく深呼吸をした俺が「あの……」と口を開きかけた時、彼は庭の端に植えられた背の高い木を見上げて感慨深げに言った。
「懐かしいなあ。この木、あの頃からすると随分高く伸びましたね。幹も太くなっている」
「はあ?」
つられて目をやる俺、これって山桃の木じゃないか。待てよ、まっ、まさか……?
「思い出してくれたようですね。ピンクの着物を着た、御転婆で泣き虫のお姫様」
聖爾さんは気障ったらしくウィンクすると、木の下で両手を大きく広げたポーズをしてみせた。
「マッ、マジで?」
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